暫くお別れ



 悟空があの世へ行ってしまってから何ヶ月か。
 は明らかにある違和感に、どうしようかと悩んでいた。
 椅子に座り、どことなく気だるい身体を持て余しては息を吐く。
 腰周りに違和感がある事に気づいたのは、ごく最近だ。
 ……さすがに見て見ぬ振りはできない。
 他の事ならいざ知らず、こればかりはどうしようもない。
 微妙に重たくなった体を椅子から持ち上げ、悟飯の部屋をノックした。
「ごはーん。ちょっといい?」
 が開ける前に、悟飯が戸を開けた。
 机の上に、几帳面に乗せられている勉強道具。
「ごめん、勉強中だったよね」
「大丈夫です。それより、どうしたの」
「うん。あのね、今日ちょっとお医者様に掛かって来るから」
 医者、という言葉に悟飯が目を瞬かせる。
「具合でも悪い?」
「そうじゃなくて……うーん、違ってたら情けないから言わないでおく」
 とにかく行って来るから、と言うと悟飯は頷いた。
「遅くなるようだったら連絡して」
「分かった。じゃあ!」

 保険証を持って、近隣にある村の――以前もお世話になった――タド医師にかかった。
 そうだろーなー、勘違いだとある意味では楽だよなーと思うのだが。
 タド医師に言われた言葉は、まあやっぱり予想通りであった。
「懐妊してますよ」
「……やっぱり」
 嬉しいのだけれど、それを報告すべき相手があの世の住人というのは、少しばかり複雑である。
「それで、あの……今何ヶ月目ぐらいでしょうか?」
「そうじゃだねえ、1ヶ月半すぎってとこかな。よく気付いたね」
「は、はは……なぁんか覚えのある感覚だなーと」
 ある意味コレも成長なのであろうか? なんて思ったりする。
 診察を受け、暫く経過を見ましょうということで、注意事項だけ頂いて家に戻った。
 鞄をテーブルに置くと、気配を感じたのか悟飯が部屋から出てきた。
「おかえりなさい。早かったね」
「あっはっは……うん。ええとですね……懐妊しておりました」
 軽く笑いながら言うに、悟飯は唖然とした。
 なにを言うべきか考えている様子の彼だったが、暫くすると、物凄い勢いで喜び始めた。
 満面の笑みでの手を握り、ぶんぶん上下に振っている。
「わ、わ、悟飯!?」
「うわぁ、よかったですね母さん! いつですか、いつ!?」
「ええと、今はまだ1ヵ月半ぐらいだからまだまだ……」
「お父さんに報告しないと!」
 そ、そうだね……と勢いに負け気味で頷く。
 悟飯は早く早くと促す。
「じゃ、じゃあ……行ってくるね。うん」
 急きたてられるようにし、はあの世の悟空のところへと跳んだ。


「ほ、ほんとかー!!??」
「うぉおおおーーー! ようやったーーー!」
 空をつんざく程の大声に、は思わず耳を塞いだ。
 界王と悟空はふたりして大喜びしていた。
 ひとしきりを放り出して喜び終えると、悟空が、ぱっとこちらに向かってきて、
っ!」
「わ!」
 ぎゅーと抱きしめる。
 余りに勢いよく締められすぎて、ちょっと苦しかったりして。
 苦しそうな顔をすると、彼はすぐに離してくれた。
 悟飯がそうしたように、手を握ってぶんぶん上下に振る。
 さすが親子。そっくりだ。
「まだ先の話なんだけど……」
「うっはー、オラの子が増えんのか〜」
 にかにか笑っている悟空の横で、界王がホッとしたように言う。
「わし、今度はマゴが生まれる前にちゃんと分かった……!」
 は思わず苦笑い。
 悟飯が生まれたときは、界王に報告するのを忘れてしまっていた。
 というより……界王星から見ていると思ってたのだが、案外見てなかったという。
 悟空と結婚した事すら知らなかったりしたのだから、驚きだ。
 暫し喜んでいた界王だが、しかし何かを考えて唸り始める。
「ど、どしたの父さん?」
「……逆算してみると、もしかしてお前ら……セル戦の時じゃないか?」
 子作り。
 と、神妙な顔で言われ、と悟空は顔を見合わせた。
 ……余計な計算せんでくれ。
「ああ、多分そうだけど」
 あっさりと言う悟空のわき腹を、は肘で突付いた。
「え、ええと……あははは!! ま、まあいいじゃないの!」
 は笑いで誤魔化したが、界王はまだちょっと膨れている。
 やはり娘、を取られた気になっているのだろうか。
 今更な話であるが。
「……よく、そんな時間があったな。まさかそのために追い込み修行をしなかったとか、そんな事は言わんよな?」
「まさか! あんときゃ悟飯の力に賭けてたからさあ!」
「あーあー。わしも一度ぐらいマゴを抱きたいなー」
「オラも、生まれた赤ん坊抱っこしてえよ……」
 望みはもっともだが、は首を振る。
「それはちょっと無理だと……。だって私だけしか転移できないんだもん」
 と手を繋いでうな垂れる悟空に向かって、はこれからの自分の事を話した。
 もちろん、界王にも聞いてもらう。
「あのね悟空。後1ヶ月ぐらいしたら、私子供の事に専念する。だから、こっち来るの止めるね」
「え、なんでだよ」
 きょとんとする彼に、はきちんと説明する。
 あの世と現世を行き来する事、それ自体に問題はないのだけれど、そうすると子供にかまける時間が少なくなってしまう。
 子供が生まれれば――悟空だって経験したとおり――子供中心の生活になる。
 それまでの準備だってあるし、今までのようにしょっちゅう空間転移をしていると、身体に無用な負担がかかる。
 という事で、は来れないと言ったのだった。
 悟空は肩を落とすが、納得して頷いた。
「分かった。オラ寂しいけど我慢するさ。元気な子を生むためだもんな!」
「まだ少しだけ時間あるけどね」
 小さく笑むの頬に、悟空は軽く口付けを落とす。
 が赤くなると同時に、真隣で見てしまった界王がポッと頬を赤らめた。



次回からブウ編ですが、ちょいと間が空くかと思います。
2007・5・3