ちょっとスランプ それに気付いたのは、悟空があの世一武道会に出た2日ほど後の事だった。 そろそろ仕事も再開しないといけないからと、治療用異能力の調整に入ったは、悟空の修行を視界の端に収めつつ、能力を解放した。 ――しようとしたのだが。 「……?」 地に腰を下ろして視線をじっと下に向けているに、どうかしたのかと悟空が話しかける。 すると、は眉尻を下げて彼を見やり―― 「どうしよう。力が使えないよ……」 悲嘆に暮れたような声で呟いた。 地面に座り込んだまま、2人はうーんと唸った。 「なあ、もっぺんやってみろよ」 修行を中断して付き合ってくれている悟空がそう言い、は頷いて軽く治療の力を発現しようとした。 常であれば、緑色系の淡い光が現れるはずなのだが、今は全くその兆候がない。 悟空は首をかしげる。 「何でだろうなあ。オラのとこには飛んで来れてるしなあ」 そうなのだ。 あの世と現世を行き来する異能力、空間転移は使えている。 「他のはどうなんだ?」 空間適応はこの場では顕現しないだろうし、自動発動のようなものだからチェックできない。 後、使えるものといえば、物質破壊だ。 すっと手を持ち上げ、近場の岩に照準を合わせる。 「――やっ!」 青白い気が飛び出た。異能力ではない。 もう一度、今度は完全に異能の力だけを引っ張り上げてぶつけようとしたのだが、こちらはウンともスンともいわなかった。 手を地面につき、はあ、とため息をこぼす。 肩を落としたの手を悟空が取り、平を見つめた。 「怪我とかしてねえのになあ。何でだ」 何となく、あれが原因かというのはある。 手や腕が微妙に熱を感じているのは、恐らくまだセル戦での無茶が効いているからだろう。 そう――無理しすぎたのだと、思う。 「セル戦の時に、結構無茶な力の使い方したからかなあって思うんだけど」 力の源流に触れて、セルジュニアを木っ端微塵にしてみたり、悟飯を治療するために、治療能力を飛ばすなんていう規格外な事をしてみたり。 オーバーヒートして火ぶくれならまだ軽度だが、それを通り越してあっちこっちに傷が出来て血が出たりしたし。 考えると、確かに無茶しすぎた。 そうしなければならない事態だったから、だけれども。 の手を離し、悟空が唸る。 「場所を跳ぶ以外の事が出来なくなっちまったんか。気の力は出るみてえだし……」 「単純に不調だってだけなら、まだいいんだけど。どっちにしろ仕事するのに差し支えるし、早く治したいなあ」 「大界王様に聞いてみれば、なんか分かるんじゃねえか? オラ付いてってやるよ」 簡単に大界王と言うが、会ってもらえるのだろうか? 確か、今大界王は北の界王――つまり、の義父――と会っているはず。 大界王殿へ行けば会えるだろうが、この星でいう最高権力者に簡単に会えるとは思えず。 悩んでいるの肩を叩き、悟空は立ち上がる。 「ここで唸っててもしょうがねえだろ。行こうぜ」 「――うん、そうだね」 確かに唸っていても仕方がないと、悟空の手を借りて立ち上がった。 簡単には入れるはずがないと思っていた大界王殿だが、悟空は大界王星で有名だそうで(先だってのあの世一武道会が原因)、何の躊躇もなくガードたちは邸宅に入る許可をくれた。 もっとも、が北の界王の娘だという事もあったのかも知れないが。 召使いに案内され、大界王の元へ通される。 そこそこ広い部屋の丸テーブルで、大界王と北の界王はお茶を楽しんでいた。 「おお。どうした? 悟空まで」 驚く界王。 大界王はカップを軽く持ち上げ、 「2人ともお茶飲まなーい?」 お茶会に誘うような軽い声で言う。 いい、と言う前に召使が2人分のお茶を淹れ、一礼して立ち去った。 席に着いたは、一口お茶を飲むと息を吐き、そうしてから口を開いた。 「私、空間転移以外の異能力が使えなくなってるみたいなの。――どうしたらいいと思う?」 「頼むよ大界王様、界王様。なんかいい考えねえか?」 不安そうなと一生懸命な悟空に、大界王は軽く笑った。 「そんな必死にならなくても大丈夫よん」 よん、じゃないっての。 呆れたように肩を落とすに、界王が咳払いをする。 「大界王様のお言葉を最後まで聞きなさい」 「……はぁい」 大界王はお茶を飲んで息を吐き、そうしてからに言う。 「ちゃんは認めたくないだろうけど、ベルウリツ星人にはそういう事態が稀にあったみたいなのね」 「べる……なんだって?」 悟空が首を傾げる。 そういえば彼に説明していなかった。 そもそも異星人の先祖を持っているかも知れない――なんて話、自身いまいち実感がないというか、気にしても仕方ない類の事というか。 「界王さま、がなんだってんだ?」 悟空に問われ、界王は唸る。 から界王に『ベルウリツ星人らしいよ』と伝えた事はないのだが、調べたのか知っていたのか、それとも聞かされたのか、既に理解しているらしい。 大界王が代わりに説明を始める。 「昔、ベルウリツって星があっての。星自体は今も残っておるじゃろうが……ベルウリツ星人は残っていても非常に少ない数じゃろうから」 「なんで?」 「もそうだけど、姿が特殊で見目麗しいでしょー。髪はさらさらだしねえ。だから、金持ちなんかが欲しがったのね」 確かに、フリーザはを欲していた。 置物みたいに側に置く気だったのだろうか、と考えるとは薄ら寒い気分になった。 「観賞用にするために氷付けにしたり、召使いにしてみたりと、まあ手酷い事をされた者が多かったみたいねえ。最終的に、ベルウリツ星人は星を捨てて逃げ出したから、もしかしたら今も宇宙には案外数がいるかも知れないのう」 「で、それがと何の関係が――」 「私、その何とか星人の子孫らしいよ。それはともかく、大界王様、そういう事態って……力が使えなくなる事ですか?」 悟空の脇から、真剣な表情で大界王に問う。 「そうよん」 だから、よん、じゃないってば。 「無茶な使い方をして使えなくなったんじゃなくて、異能力が成長するための前準備みたいなものだねえ」 ――成長? は思わず自分の両手を見やった。 界王が頷く。 「あれじゃな、成長期の関節の痛みみたいなものというか、怪我してカサブタができるというか」 全く意味の分からない例えを言う父。 大界王は笑った。 「ちゃんの異能力は、今新しい器を身体に作ってると思えばいいんじゃないの? 少ししたら使えるようになるはずよん」 「……でも」 出来れば早めに使えるようにならねば、仕事できない。 唸ると、大界王はひとつ提案をする。 「今は、外部放出系の方が休止してる状態なのね、自己防衛の側面もあって使えなくなってるんだし。まあ、方法はあるわよ? ある意味、手荒いとも言えるけど」 「どうするんです?」 「ほんの少し、解放口を開けてやればいいのよー。例えば、悟空ちゃんと気を同調させるとか」 気の同調と言われても、方法が分からない。 界王が渋い顔をする。 なにか、よろしくない事なのだろうか? 「オラでいいなら、協力すっぞ」 「うん、それは嬉しいけど……大界王さま、どうすれば」 「密着部を増やして、相手に気を送り込むようにすればいいのよん」 「……は?」 今、密着といったか? 「ちゃんの乱れちゃってる内気功の流れを、悟空ちゃんの力で正常に引き戻してやるの。触れてる面が多ければ多いほど、相手に与える影響は大きいし」 いやまあ、確かにそれはそうなのかも知れないが。 悟空は腕を組み、大界王を見やる。 「大界王さま、それって服きたまんまでえーんか」 界王が吹き出す。 は引き攣った。 「ぶはあっ! 悟空、な、何を言い出すんじゃ!」 「だってよ、くっ付いてた方がいいんだろ?」 大界王がほっほっほと笑う。 こちら側にしてみれば、笑い事でないのだが。 「それは悟空ちゃん達に任せるけど。まあ、手を繋いでるだけでも相当違うわよ」 「ご、悟空っ、手にしなさい!」 ぎゃーすぎゃーすと文句を言う界王に、悟空は渋々の手を握るに止める。 ぴたっと体がくっ付き気味なのは、まあご愛嬌という所。 触れた部分から流れ込んでくる、優しい何か。 目を閉じたら寝てしまいそうなぐらい、気持ちがいい。 「……なあー、おめえ、あんまし油断しちゃだめだぞ」 「はい?」 悟空の言っている意味が判らず、首を捻る。 彼は真剣な表情で、の手を強く握った。 「油断してっと、売られちまうかも知れねえんだろ? オラいねえし、気をつけねえと駄目だかんな!」 「大丈夫、それはないから」 苦笑する。 大界王がぽつりと言う。 「サイヤ人も、ベルウリツ星人を捕らえてた覚えがあるのう」 自分が悪いわけではないのに、悟空が少々引き攣ったりして。 は小さく笑んだ。 「ある意味では、悟空は私の事捕まえたかもねー」 2007・4・13 戻 |