大界王星にて 3 あの世一武道会の予選が終了した。 界王たちは勝ち残った選手の数が多いやら少ないやらで、かなりどうでもいい喧嘩をしていたりして。 は、父親が子供のように張り合っている様を見ながら、小さな息をこぼした。 界王の喧嘩とは全く無関係で大会は順調に進み、二度目の悟空の出番が回ってきた。 「みんないろんな技持ってんだなあ」 しみじみ言う悟空に、はクスリと笑う。 「悟空、人の事いえないよ。技の数は多分一番多い……気がするし」 界王拳やら――まあ、超化が技かと言われると少し違う気がするけれど。 「さあ、続いては北の銀河出身・孫悟空選手対東の銀河出身・アークア選手です!」 悟空と対戦相手が武舞台に上がる。 ドラの音がなり、試合が開始された。 アークアという人物は、最初のうちひどくのったりくったりしていたのだが、武舞台を水で覆ってその中に入った瞬間、物凄く生き生きし始めた。 悟空は暫くの間、アークアの攻撃を受けまくっていたが――太陽拳で敵の目をくらまし、上空からかめはめ波を撃ち込み、相手をリングアウトさせて勝利した。 東の銀河出身の選手はこれでいなくなり、東の界王はその事に酷く怒って、選手一同に大界王殿の周囲を一万周走らせる暴挙に出た。 いや、負けたからってそんな罰ゲームをしなくとも、と思うのだけれど、界王たちのメンツというものがかかっているから必死らしい。 から見ると、界王4人はとっても似ている気がするので、仲が悪いのが少し不思議だ。 悪いというか……ライバル? 戻ってきた悟空は、北の界王――の父に大絶賛された。 次の試合は、西の界王の信頼を受けるパイクーハン――ピッコロに感じが似ているその人――と、オリブーだ。 今までとの戦いとは随分違い、かなりそれらしい戦いになった。 悟空も真剣な表緒で見守っていた。 「……速い。オラでも追うと大変かもしんねえな」 「確かにセルよりは速い……のかな?」 もじっと見つめ、結果を見守る。 大方の予想通り、オリブーはパイクーハンに敗北した。 「オラわくわくしてきちまっただ!」 「……悟空の悪い癖がでた……」 次の悟空の戦いは、マーライコーと呼ばれる竜系の人とだった。 かなりいい勝負をしているように――大半は――見えていたが、悟空は彼のシッポを掴んで振り回し、リングアウト負けにさせた。 悟空の闘いを見て、しかし西の界王は鼻を鳴らす。 「フンっ! いくら強くとも、あの程度ではパイクーハンには敵うまい!」 「そんな事はないぞ! 悟空が勝つに決まっている!!」 「ほぉー、それじゃあ賭けをしようじゃないか!」 隣で様子を見ていたは首を傾げる。 界王も人だから賭けぐらいするのか……と思ったのだが、その内容が少しばかり問題で。 「もしパイクーハンが負けたら、西の界王星をやろう。お前が負けたらどうする!」 「よ、よぉし……じゃあわしも北の界王星を……」 「ちょっと父さん。界王星は吹っ飛んじゃったでしょうが、セルのせいで」 言うと、彼はハッとしたように口元を押さえた。 オロオロしている。 西の界王はニタリと笑った。 「なんだなんだ、自信がないのか? うーん?」 そうじゃない、とむきになって言うが、しかし賭けの対象になるようなものがない。 うんうん唸る父親。 は肩をすくめた。 すると、西の界王はをじっと見つめ―― 「ようし、お前が負けたら、このオナゴを貰うってのでどうだ!」 ……え。 目を瞬くに、界王が慌てる。 「ちょ、ちょっと待て! 幾らなんでもそれは……」 「いいじゃないか、絶対に勝てるという自信があるんだろうに?」 にたにた笑う西の界王に、はちょっとだけムッとした。 悟空が絶対に負けるみたいな態度が透けて見える。 同じようにムッとした父が、胸を張って言う。 「ようし! 貸し出しは許可しようじゃないか! ウチの娘をあげはせんけど、貸し出しじゃ!」 「ちょ、ちょっと父さん!?」 慌てるに、父は頼み込むように何度もお辞儀をした。 ……勝てばいいんだよね、勝てば。 戻ってきた悟空が、が賭けの対象になったと聞いて、おもむろに眉を潜めた。 「界王さまー、なんてことすんだよ、オラのヨメなんに……」 「なは、なははは〜! いやァ、つい勢いで」 「勢いで、じゃねえよー。オラ、なにがなんでも勝たなくっちゃなあ……」 お願いしますよと言おうとしたより先に、 ぐぎゅるるるるる〜 悟空の腹の音が鳴る。 「オラ腹ごしらえしてえなあ」 「ホッホッホ、悟空ちゃんらしいわねえ。あっちに今用意させたから」 大界王が右を示す。 既に料理人がたくさんの料理を作って待っていた。 悟空は意気揚々とそれを食べ出す。 「……大丈夫かのう」 いつもと全く変わらない様子で食事を食べる悟空に、少々不安そうな界王。 「不安になるんだったら、最初から賭けになんて乗らないでよ」 娘は冷静な突込みを入れた。 「それでは決勝戦、孫悟空対パイクーハン、始め!」 司会が声を張り、リングから下りた。 悟空はすぐさまパイクーハンに連打をするが、彼は全く避けなかった。 全てを受け、それでも平気な顔をして立っている。 「その程度か」 「でも、オラも本気じゃないもんねー」 軽口をたたき、激しい音を立てて拳を撃ちつける。 パイクーハンも悟空も互いに気を放ち、その場から離れた。 「あ、追随弾だ」 「じゃが、上手く避けたのう」 上の方で展開されている戦いを、みなそれぞれ首を伸ばして見学していた。 武道会上の上空にある巨大な星のオブジェ(?)は、悟空たちの戦闘で、ばかばか壊れていく。 一旦戻ってきた2人は、暫しの睨みあいを続けていた。 「……ふん、中々やるな。では本気を出そう」 パイクーハンはニッと笑い、ターバンと上着を脱ぎ捨てた。 放り投げた上着は、なんだかとても覚えのある音を立ててリングに転がった。 悟空がそれを拾う。 「重てえなあ。……なんだかおめえ、ピッコロみてえな奴だな」 も実にそう思う。 本気のパイクーハンに対抗して、悟空も超化した。 「さぁて……行くぞ!」 かめはめ波を撃ち込み、けれど避けるパイクーハンに更に気弾を撃っていく。 上空に跳んだ彼を、悟空も追う。 しかし勢いよく殴られ、受け身を取りながらリングに着地した。 殴られてリングに戻ってきた悟空を、上空からパイクーハンの技が巻き込む。 竜巻のような攻撃で悟空を中に閉じ込め、真空状態なのか同義を切り裂きながら彼を追い詰めていく。 「悟空ー! しっかりせんかー!」 界王がハラハラしながら見守っているが、は割と冷静だった。 このままの調子なら、多分大丈夫だろうと。 悟空は、闘いを楽しんでいる。 セル戦のときのような、切迫した何かがあるわけでもなくて。 だから大丈夫だと――何となくそう思っているのだった。 竜巻の中にいた悟空は、超化したまま界王拳を使って脱出に成功する。 そのまま畳みかけようとしたが吹っ飛ばされ、リングに戻ってきた。 そうして暫く瞬きできぬほどの戦いを続け――パイクーハンが大技を繰り出す。 サンダークラッシュという技名のそれは、摩擦を利用してか炎を噴き出す技で。 非常識だと思うが、悟空のかめはめ波も相当非常識なので、突っ込まないでおく。 悟空はそれを2度ほど受けたが、3度目にして隙を見つけ、パイクーハンを撃破する。 パイクーハンがリングアウトした瞬間の、父親の喜びようったらなかった。 「……しっかし、天井も地面と同じでリングアウト扱い、両方とも失格かあ……」 は紅茶を飲みながら苦笑した。 かなりのこじつけである事は間違いないだろう。 悟空は素直に納得していたようだが。 隣に座っている界王が、深々とため息をついた。 「折角西の界王星が手に入るとこだったのに……」 は苦笑する。 「西の界王星が手に入ったからって、父さんは結局悟空の修行に付き合って、こっちにいるんでしょうが」 「そりゃあそうじゃけど……はぁ。勿体無かったのう。ところで悟空はどうした? お前、帰り一緒じゃなかったのか」 うん、と頷く。 「悟空はね、オリブーに引っ張られていっちゃった」 「オリブーがか? ははぁ、一緒に修行しようってんじゃな」 なるほど納得と頷く界王。 は残りのお茶を飲み干し、席から立った。 「ちょっと長居しすぎちゃった。夕食作る時間だから、もう帰るね」 「そうか、今度来るときは、菓子でも作ってきてくれんかのー?」 「……材料があるならこっちで作る。それじゃあね」 笑み、はその場から地上に向かって転移した。 家に帰ったは、悟飯にあの世一武道会の事を話して聞かせた。 彼の感想は、 「結構ユニークな場所なんですね……」 だった。 次回から短編ちっくな感じのを数話お届け予定。 2007・3・30 戻 |