セルゲーム 6



 8匹のセルジュニアは、それぞれに攻撃を仕掛けてきた。
 当然にも、その内の1匹が攻撃を仕掛けてくる。
「キシャー!」
 嬉しそうに殴りかかってくるセルジュニアの攻撃は、セル当人に比べれば相当弱いはずだが、それでも攻撃を弾いた腕が軽く痺れる。
 回転蹴りを腕で避け、逆に蹴り飛ばす。
 吹っ飛んだ敵を追撃して殴ろうとしたが、そちらは腕で防がれた。
 猛攻撃を避けながら、はバックステップを踏んで距離をとり、勢いをつけて一気に突貫する。
 みぞおちに入った攻撃はそれなりに効いたようで、セルジュニアは一瞬たたらを踏む。
 ――が、
「うあっ!」
 恐ろしい勢いで戻ってきた奴に腹を殴られ、宙に浮かされたところを、背中から追撃された。
 痛みに呻く。
「こんっちきしょ……!」
 普段なら決して言わない漢らしいセリフを吐き、は体勢を立て直さないまま、襲いかかろうとしていた敵の横っ面を蹴り飛ばす。
 バキャッと酷い音を立てて吹っ飛んだセルジュニアは、岩を破壊しながら転がった。
 少しはダメージが行ったかと思えば、直ぐに立ち上がる。
 は苦々しい思いで構えを取った。
「うわぁっ!」
 後ろから聞こえてきた悟空の悲鳴に、は思わず振り向いてしまう。
「ヨソミハ、ダメダヨ!」
「っ――!」
 目の前に現れたセルジュニアが、げらげら笑いながらを殴りつける。
 目にも止まらぬ拳を全て避けられず、あちこちに喰らう。
 強烈な攻撃で、地面に叩きつけられた。
 回転してすぐに体勢を立て直したが、口の中に鉄錆の味が広がっている。
「はぁっ……はぁ……っ」
「ギギギ、コウサン? コウサンナラ、コロシテアゲルヨ?」
「誰、が……っ」
 ぎり、と奥歯を噛み締める。
 ピッコロが上空から叫んだ。
「天津飯、ヤムチャ、悟空を援護しろ!! 奴はセルとの戦いで体力を消耗しきっている!」
 確かにその通りだ。
 仙豆は、食べないうちにセルに奪われてしまったため、彼の気は落ちたまま。
 天津飯、ヤムチャの2人は、最初でこそなんとか援護しきれていたのだが、実力の差から、すぐに押し負け始める。
 も自分の事で手一杯で、悟空たちの元へ近づく事すら難しい。
「キミノオアイテハ、ボクダヨ!」
「そんなの分かってるわよッ!」
 怒りのままに手刀を浴びせるが、ひょい、と軽く避けられる。
 気が散じて、命中率が下がっていた。
 ベジータやトランクスで、やっとこ互角に戦えている位だ。
 太刀打ちできるとは思えない――少なくとも、このままの状態では。
「っく……悟空……っ」
 自分独りが彼の側に行ったとして、多大な助勢力になるかと思えば、そうではない。
 けれどこのまま放っておける筈がない。
 渾身の力を込めて、セルジュニアを吹っ飛ばし、倒れ込んでいる悟空の側へと飛んだ。
 ――彼がもう少し動けるようになれば、まだ状況は変わるはず!
 悟空を蹴り上げようとしていたセルジュニアを、は背後から襲いかかって吹き飛ばす。
「悟空! 今少しでも動けるように――」
 治療を施し、何秒も経たない内にクリリンが岩下へと放り投げられた。
 と同時に、の真横に天津飯が倒れ込んでくる。
 次いで、ヤムチャが腕を折られた。
 耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴。
 治療をしたいが、飛んでくるセルジュニアを叩き落とす事さえ、今の状態では困難。
 誰も彼も、治療を施すほどの隙など与えてはくれない。
 の実力では、片手でセルジュニアを何体も相手にできない。
 気を抜けないため、結果として回復は殆ど施せず――
さん! 危ない!!」
 トランクスの声に、慌てて頭を下げた。
 今先ほどまで自分の頭部があった位置を、セルジュニアの気が貫いていく。
 気を撃った者とは別の者が、の手を引っつかみ、彼女を放り投げた。
 舞空術で回避しようとしたその腹に、思いきり拳を突かれる。
 眼下では、よろよろと起ち上がった悟空を、更に痛めつける光景があった。
 セルジュニアがの頭を固定し、無理矢理に悟飯の方向を向かせた。
 ――悟飯は、涙をこぼしていた。
 自分の無力さにか、この状況に対してか――多分どちらにもだろう――瞳を濡らしている。
「んぐ……うああっ……!」
 下にいた悟空が呻き、今度はそちらに向かされる。
 吐血した彼を見、の頭が真っ赤に染まる。

 ――いい加減に。

「いい加減にしなさいよ……」
 低い声色に、を掴んでいたセルジュニアが首を傾げる。
 は油断したセルジュニアに肘鉄を入れ、拘束から抜け出した。
「アノオトコ、サキニコロス」
 セルジュニアは楽しげに笑みながら、悟空を示す。
 の思考の中に残っていた、最後の一欠けの自制心が、心の奥底に押し込められる。
 悟空がの気の変質に気付き、叫んだ。
っ! その力は止めろ!! おめえがぶっ壊れちまうっ!!」
 心配はありがたいが、既に自制する事が難しい。
 以前、初めて力の源流に触れたように制御しきれない、などという状況にはなっていないようだから、仲間に被害は、恐らくないだろう。
 赤色に染まった思考はやたらと好戦的で、気持ちが定まらない。
 の周囲に突然現れた球体状の障壁に、一番側にいたセルジュニアが弾き飛ばされる。
 最初に、悟空を狙っている敵に意識を定め、睨みつけた。
 ――悟空を傷つけるなんて、許さない。
 障壁の中で力を操る。
 指の先から放出された力は、鋭利な刃となって、セルジュニアを貫いた。
 串刺しになった痛みなどないかのように、もがく1匹。
 ひゅ、と音を立てて振られたの手に同調するように、貫いていた気――異能力――が内部から爆発した。
 1匹を消した爆発と同時に、の腕に浅傷が走る。
 痛みよりも怒りが強く、それをどうともしないままでいた。
 それを見ていた2匹――天津飯とヤムチャを攻撃していたそれら――がに向かってくる。
 障壁を壊そうと殴りかかるが、それはほとんど成功しなかった。
「壊したい?」
 可愛らしい笑みを浮かべ、は障壁を壊してやる。
 ただ――砕けた鋭い破片が、セルジュニアに意思を持って襲い掛かった。
 逃げる背後から、洸弾になった翠色の破片が、彼らを突き抜けていく。
 2匹目が爆発して着え、3匹目はなんとか避けたが、けれど決して傷は浅くない。
 自信も障壁を壊した際――不自然な異能力を操ったため――手ひどいミミズ腫れや傷を、あちこちにこしらえていた。
 深いものから、そうでないものまで。
 急激に力が失せ、ふらふらと地面に崩れるようにして降り立つ。
 悟空が慌てて駆け寄ってきた。
「馬鹿っ! おめえ、あの力は使っちゃなんねえって、分かってたろ!」
「だ、って……腹立った、んだもん……」
「さっさと傷直せ! オラが持ちこたえっから!」
 悟空の方が酷い傷なのに。
 けれど彼は決して自分を治療させず、の攻撃で手傷を負った、3匹目のセルジュニアの相手をした。
 動けなくなる前に、復活しなくては。
 は自分の傷を緩々と回復していく。
 治りが酷く遅い。
 異能力の源泉に触れてしまったためか、回路がオーバーヒートに近い状態。
 自身がそう思わずとも、身体の方ははっきりと反応を示していた。
 フリーザとの闘いの時も、これに近い状態になった事がある。
 使いすぎると、異能力を使おうとしただけで、力が全く使えないばかりか、腕が火ぶくれを起こしたようになる。
 今はそれほどでもないため、なるべく早く、と体中に緑色の力を纏わせていた。


 そんな中だった。
 悟飯の傍らに、16号の頭部が飛んできたのは。
 彼は悟飯に、『正しい事のために使う力は、悪でもなければ罪でもない』と諭す。
 ――オレの好きだった、自然や動物たちを守ってやってくれ。
 そう告げた直後、彼はセルに踏み潰され、この世から存在を完全に消した。


 直後。
 ――悟飯が、キレた。




悟飯より先に、お母さんの方がキレてみました。
展開変えちゃってすみません…本編流れとは微妙に違う…。

2006・12・19