セルゲーム 4 悟空とセルは、大地全てをリングにし、今まで以上に苛烈な闘いをしている。 は視線を逸らさぬまま、悟飯の側に寄った。 「お母さん、大丈夫でしたか?」 「うん、私は平気」 サタンさんたちはどうか知らないけども、と胸の中で付け加える。 そうしている間にも、悟空とセルの戦いは激化していった。 打ち出される気弾を避け、走る悟空。 爆裂音と共に悟空が高く飛び上がった。 構えた手の中に気が溜まり始める。 下にいるセルに向かって、かめはめ波を撃つつもりらしいが……しかし、あの位置は。 セルもそれが分かっていて、大声で笑う。 「ふはははは!! きさまにその位置からかめはめ波は撃てはせんぞ! 撃てば地球が大変な事になるのは分かっているだろう!!」 しかし悟空は気をどんどん高めていく。 下にある大地の事など、気にしていないかのように。 ピッコロが驚いて叫ぶ。 「孫のやつ……フルパワーでかめはめ波を撃つつもりだ!」 「う、撃つわけないさ! あんな位置関係で撃ったら地球が……」 クリリンがひくついた笑みを浮かべる。 セルが避けてしまえば、撃ったかめはめ波が確実に地球に当たってしまう。 そうなれば地球がどうなるか――目に見えていた。 フリーザの細胞を持つため、宇宙空間でも生き延びれるセルが、わざわざ大ダメージ必至のエネルギー波を受けて、地球を護るなんて事をするはずがない。 は悟空が本気で撃つつもりだと確信する。 気は高まり続けているし、なにより止める素振りが全くないからだ。 怖がりはしない。 彼が地球を破壊するなどと、これっぽっちも思っていないから。 悟空は溜めに溜めた力を、セルに向かって――瞬間移動で至近距離から――撃ち放った。 すぐ傍で放たれた高い威力の気功波に、セルの体が飲まれて消える。 光の激流が通り抜け、砂埃が静まると、そこにあったのは首と腕、そして上半身がなくなったセルの姿。 ヤムチャが歓喜の声を上げる。 「や、やった! やったぞ!!」 天津飯も笑顔で言う。 「そうか、瞬間移動か!」 「はははっ! やったな、おい!!」 喜びを分かち合おうと、左にいるトランクスに顔を向けるがヤムチャだったが、他の誰も騒いではいない。 「な、なんだよ……嬉しくないのか?」 戸惑うヤムチャ。 クリリンは悟空に忠告した。 おそらくセルは復活する――と。 いい終わるとほぼ同時。 セルの下半身が突然立ち上がる。 は思わず眉を寄せた。 「うぅ……気持ち悪い……」 そっぽを向きたくなるような光景に、は思わず悟飯の服を掴んでいた。 セルの下半身は起ち上がった後、奇妙に震えていた。 そうして、なくなった部分が盛り上がってくる。 気で焼かれ、死んでいたはずの細胞があっというまに復活し、メリメリと音を立てながらセルは元の形に戻った。 まさに、『生えて』きたのだった。 さすがに耐え切れず、は目を閉じた。 ――グロテスクだ。 何事もなかったかのように首の運動をし、悟空を睨む。 悟空は得心した。 「そういや、再生できるんだったな……」 「その通りだ。ピッコロのようにな」 セルを睨みつけたまま、悟空は舌打ちする。 「ちぇ……。やけにあっさり勝てたと思った」 気の絶対量は確実に落ちている。 しかし悟空も消耗しているから、楽観はできない。 そうこうしているうちに、また戦闘が開始される。 は不安を隠せず、悟飯を盗み見た。 もしかしたら……本当に悟飯の出番が回ってきてしまうかも。 そう考え、目を逸らすなと自分自身が言う。 ――最初から分かっていた。 悟空がトップバッターで闘いを始めた時から。 彼はなにも、考えもなしに一番乗りをしたわけじゃない。 後に闘うであろう悟飯のために――セルの戦い方を見せているのだろう。 悟空は『前座』だ。 こうしておけば、いざ悟飯が闘う時、自然とセルの癖を見抜けるだろうから。 は悟飯に、彼自身の持つ潜在能力について、話をしてはいなかった。 話す機会がなかった、というわけでは決してない。 だが口に出してしまうと、本当に悟飯が闘う羽目になる気がして。 そうなって欲しくない。 だから話さなかった。 それはのエゴだ。 悟空が悟飯に話をしない理由は分からないし、もしかしたら分かってくれる、または気付いてくれると思っているのかも知れないが、話しておくべきだった。 悟飯が闘うという事が濃厚になる前に。 今からでも遅くない――言ってしまった方がいい。 が決意し、悟飯に語りかけようとしたのと、丁度同時だった。 悟空の気が明らかに減り始めた。 見ると、悟空は凄まじい勢いで気弾を放っている。 それは確実にセルにダメージを与えていたが――セルは自分の周りにバリアを張り始めた。 最初は届いていた気が、障壁のせいでセルに当たらなくなる。 悟空は気を撃つのを止めた。 セルは息を切らしている。 しかし、それ以上に悟空の消耗が酷い。 「ふふ……そうとうに体力を消耗してしまったようだな。仙豆とやらを食うがいい、孫悟空。更に素晴らしい試合になるはずだぞ」 「はぁっ……はぁ……」 息を切り、しかし悟空は動かない。 トランクスは仙豆を持っているクリリンに急いて声をかけるが、彼は動かない。 なおも仙豆を急くトランクスに、ベジータが怒号を飛ばす。 「黙っていろトランクス!」 「し、しかし」 「てめえにはサイヤ人の誇りがないらしいな。そんな勝ち方をするぐらいなら、あいつは死を選ぶだろうぜ。今のあいつは、地球のために戦っているわけじゃない」 覚えておけと言うベジータ。 確かにその通りであったため、は複雑な気持ちで悟空を見つめる。 戦闘民族サイヤ人。 悟空もその血を引いている。 今こうして闘っているのは、悟飯のためでもあり、そして自分のためでもあるのだろう。 ベジータは苦々しく言う。 「頭にくるが認めてやる。オレはあれだけ特訓したが、カカロットを超えられなかった。あのヤロウは天才だ」 「だが、セルはその上をいっている……」 ピッコロが呟く。 トランクスを睨みつけたベジータは、 「あいつにはなにかきっと、作戦があるだろうとてめえも言っていただろう。そいつに期待するんだな」 作戦。 その言葉にの体がビクリと震える。 悟飯がそれに気付いた。 「お母さん?」 「……ごめん、悟飯。ごめんね……」 謝るに不思議そうな視線を送る悟飯。 は今更何を言えばいいのか分からなくて、ただ口を噤む。 悟空はたちの様子を見、それからセルに視線を移し、声を張った。 「まいった。降参だ! おめえの強さはよーく分かった。オラもう止めとく!」 母親としては、彼女はきっと、たくさんの事を間違っています。 2006・12・8 戻 |