セルゲーム 3


 悟空の目つきが変わる。
 ――全力で行く気だ。
 彼の体から気が放たれる。
 悟空を中心に風が吹く。
 の近くにいたアナウンサーが、マイクに向かって状況を説明していた。
「な、なんなのでしょう……。突然爆発のようなものが……そしてあの無名選手の体から、金色の炎のような物が立ち上って……」
 セルも気を入れる。
 痺れるほどに空気を震わせ、周囲に突風を巻き起こす。
 リング傍から吹き飛ばされた、アナウンサーとミスター・サタン、その弟子たちに怪我がない事を確認し、は視線を悟空に戻す。
 中央に歩み寄った彼らは、静かに対峙していた。
「来いよ」
 セルが口の端を上げ、
「ああ」
 悟空が返事をする。
 ――戦闘開始。


 先制攻撃は悟空。
 セルの腹に一撃を食らわせ、流れで頭部に肘を、そうしてから顔面を蹴り上げた。
 浮いたセルを右の拳で殴り飛ばす。
 空気を引き裂く音を立てつつ、セルはリングに身体をぶち当てて跳ねた。
 しかしリングアウトなど、舞空術を使える彼らにとっては余り意味がない。
 リングから外れた地面の上で、セルは余裕の表情を浮かべて浮いていた。
 悟空は更に攻撃を仕掛けようとしたが、逆にセルの猛攻を受ける。
 繰り出される連撃をなんとか避けながら、隙を探していく。
 さすがに双方の力量が半端でないだけあって、攻防は瞬きをする間もなく繰り広げられている。
 拳の衝突は、そのまま空気の中で爆音となって響いてきた。
「な、なんの音なのかしら……?」
 サタンのマネージャーが不安げに言う。
 興味があるのか、サタンの弟子・カロニーがまたもに聞いてきた。
「なんの音ですか……これは……?」
 は悟空たちから目を離さないまま、一応返事をしてやる。
 拳と拳をぶつける所作をし、
「例えば、こういうの。拳と拳がぶつかる時に出る音だね」
 言って正面を見た。
 空から地に戻ってきた悟空たちは、サタンたちの近くで戦闘していた。
 単なる攻撃に見えるそれは、気を纏っていて当然破壊力がある。
 気を乗せた攻撃は、衝撃となってリングを走り、角で小さな爆発を起こす。
「ひぃっ!」
 弟子2・ピロシキが驚いて腰を地面に打ち付けた。
「……やっぱりここは危ないよね」
 が呟いた直後だった。
 セルが、構えを取ったのは。
 手に気がどんどん集まっていく。
 小規模の威力とは思えない気を集めているセルに、悟空は叫んだ。
「や、やめろっ! そんなにパワーを上げた状態でかめはめ波を……!!」
 しかしセルは悟空の声などに耳を貸さず、どんどん気を溜め込む。
 ヴォン、と音を立て、セルの両の手から閃光が走った。
 ――完全に撃つ気だ!
「クソッ! こっちだセルーーっ!!」
 悟空はセルの気を引きながら、空中に飛び上がった。
 撃ち出された強力な気に、爆風が吹き荒れる。
 は足を踏ん張り、細く目を開いたまま、上に向かった気を見ていた。
 悟空を狙った巨大なかめはめ波は、確実に彼を飲み込もうとしていた。
 ――避けられない!
 悲鳴にも似た音を立て、青白い光線が空を突き抜けた。
 撃ち終わらないセルの背後に、悟空が突然現れる。
 そのままセルを蹴り飛ばした。
 リングに手を付いてバク転し、セルは悟空を睨みつける。
 悟空もまたセルを睨みつけた。
「何故だ。あのかめはめ波なら間違いなく当たっていた……。きさまは以前にも突然現れ、消えた事がある……」
 静かに問うセルに、悟空は答えてやった。
「瞬間移動だ。オラはそいつができる……」
「フン、そうか。そいつは厄介な技だな」
 様々な人の技を細胞に記憶させているセルであるが、ここ最近の悟空の技はインプットされていない。
 瞬間移動まで身に付けられていたら、更に厄介なところだったが。
 悟空は静かに聞き返す。
「オラも聞きたい……。オラが空に飛び上がらなければ、そのままかめはめ波を撃って、地球を破壊していたか?」
 問いにセルはニヤリと笑む。
「さあ、どうかな。だが、きさまは飛び上がるしかないと分かっていた」
「なるほどな。おめえはアタマもよさそうだ……」
 セルは地球を破壊する事などなんとも思っていないだろうと、は思う。
 実際その通りで、彼は
「地球が壊れたら、楽しみが減るといった程度の問題だ」
 などと言ってのけた。
 話はこれで終わりだとばかりに、セルがぐっと力を込める。
 悟空に向かって一直線に飛んだ。
 先ほどよりも速いスピードに、一瞬悟空の対応が遅れる。
 顔を殴られ悟空は反撃に出るが、セルが悟空の後頭部を打つ。
 地に伏せてから反動で体勢を立て直そうとするが、背後から更なる攻撃を喰らった。
 背中からリングに落ち、すぐに起き上がったその後ろ。
 セルは腕組みをして立っていた。
「わたしもスピードには相当自信があるんだ。瞬間移動とまではいかないがな」
 楽しげに笑うセルは、本当に死闘を楽しんでいる。
 なおも攻撃を続け、連撃を繰り出して悟空を痛めつけていく。
「っく……」
 よろけた一瞬を狙い、即頭部を狙って拳を繰り出すセル。
 悟空はそれを避け、空に向かってセルを蹴り上げた。
 すぐさま彼自身もセルを追い越して飛び、リングに叩き落そうとする――が、簡単にはやらせてくれず、避けられた。

「……悟空」
 上空で繰り広げられている戦闘に、は服の裾を掴む。
 もし悟空が負ければ、悟飯があれと闘わなくてはならない。
 もちろん、悟空だからいいという事ではないのだが、ベジータやトランクスでさえ体を震わせているような戦いにあって、悟空以外の誰が今闘えるだろう?
 お願い、と誰にか分からない願いを、小さく口にした瞬間だった。
 上空から悟空が叫ぶ。
「みんなーーーっ! リングから離れろーーー!」
 次の瞬間、セルがリングに向かって気を放った。
 当然だが、近くにいる者などお構いなしの威力。
 は慌てて周囲に防壁を張りながら、傍近くにいたカロニーとマネージャー、アナウンサーを引っつかんで飛ぶ。
 サタンやカメラマン、ピロシキは16号が手を貸してくれて、とりあえず事なきを得る。
 十分に離れた場所に彼らを下ろし、は小さく息を吐く。
「ごめん、ありがとう」
 16号に礼を言うと、彼は無表情のまま「気にするな」と口にした。
 次いで、サタンたちに向かって言う。
「お前たちは帰った方がいい。邪魔だ」
 情け容赦がないが、実際その通りだ。
 も悟飯たちの元へ戻ろうと思っているし、サタンたちを護り続ける自信などない。
 しかしアナウンサーはどういう思考をしているのか、去り行く16号の背中に向かって言う。
「そ、そういうわけにはいきませんよね。こ、この後、ミスター・サタンが闘うんですから……」
「あ、当たり前だよ!! だけどもうちょっと離れて見学しよーか」
 わははと笑う彼ら。
「悪いけど、私はあっちに戻るから」
「え!? い、いっちゃうの……」
 酷く心細そうなサタンの声に苦笑いしつつ、は悟飯の元へと戻った。



サタンと愉快な仲間を放置して、ヒロイン移動。
2006・12・5