セルゲーム 2


 リングに上がったサタンは、羽織っていた白いマントを脱ぎ捨てると、所謂チャンピオンベルトを外し、そうして胸からカプセルを取り出した。
 ぼむ、と音を立てて出てきたのは、大きな鞄。
 クリリンが恥ずかしそうに目を細めた。
「あっちゃー……あいつもしかして」
 確か以前、テレビでもやっていた気がする。
 サタンは鞄の中から瓦を取り出すと、それを丁寧に積み上げていく。
 本人は真面目なのだろうが……場違い感が否めない。
 彼は「ひょぉー!」と息を吸い、カッと目を見開くと、瓦に手刀を振り下ろした。
 瓦は順々に割れていく。
 ――んが、15枚中、14枚までしか割れなかった。
 しかしアナウンサーは大興奮。
「凄い! 凄まじい破壊力です!!」
 1枚残って残念ですねと心の中で思いつつ、はセルを見やる。
 ……特に文句も出ていない。
 案外付き合いがいい奴なのか、眼中にないだけなのか。
 サタンは壊れた瓦にビシッと指を付きつけ、
「セル! この粉々に砕け散った瓦を見るがいい!」
 一旦言葉を切り、ニヤリと笑む。
「これが1分後の……キサマの姿だ……」
「痺れた! 痺れました!! さすが世界のサタンですっ! わたくしは今、今、猛烈に感動しています!!」
 は頬をカリカリ掻き、どうしようかと腕を組んだ。
 アナウンサーはの心配など他所に、相変わらず叫んでいる。
 セルを見ながら非常に楽しそうに、作られたセリフのように、すらすらと言葉を綴っていた。
「びびっております! でかい事を言っていたセルも、さすがに今のミスター・サタンの破壊力を見てしまった今、恐怖するしかありません!」
 いや、呆れてるか、無視してるんだと思う……。
「しかし今更謝ってもやってしまった事は消せません! 世界の人々はセルを許さないでしょう!!」
 未だ、つらつらと喋り続けているアナウンサーの横で、サタンが臨戦態勢に入る。
「どうしよう。私あっちの人たちのトコに行って、護ってた方がいいかな? どっかに移動させるとか」
「うーん……がそうしてえなら、そんでいいけんど」

「うるさいっ!」

 セルの声にリングを見やると、サタンが片手で吹っ飛ばされていた。
 一応生きているらしいので、そのあたりは安心した。
 ピッコロなどは、はっきりと舌打ちを打っている。
「チッ……さすがのセルも、あんなのを殺すのは嫌だったようだな……」
「……さあ、さっさと始めるぞ。どいつからやるんだ。やはり孫悟空、お前からか」
「ああ、そうだ」 
 悟空は小さく笑み、リングに足をかける。
 はぎゅっと拳を握った。
「……悟空、気をつけて」
「おめえも、あいつらを安全なとこに行かしたら、ちゃんと悟飯のとこに戻るんだぞ」
「うん」
 背中を見送り、は呆然としているアナウンサー以下3名の所へ移動する。
 が口を開く前に、よろけたサタンが戻ってきたが、当人曰く、ちょっと足を踏み外した、だそうだ。
 少し休憩したらまた戦うという心積もりらしい。
 肩を落とし、は皆に言う。
 おそらく、聞いては貰えないだろうと思いながらも。
「戦いが本格化する前に、逃げた方がいいです。私が連れて行きますから……」
「馬鹿をいっちゃいけません!」
 アナウンサー、即拒否。
「ミスター・サタンが闘うんですから!」
「お願いです。ここは危険なんです」
「あなたのようなか弱い女性こそ、この場にいない方がよかろう」
 サタンの言葉には眉を潜める。
 ――ダメだ。
 気をトリックだと言うような人に対して、どう説明すればいいのか分からない。
「あなた達もいるつもり?」
 サタンの後ろに控えていた、彼の弟子たちに聞いてみる。
 マネージャーは勿論――弟子は非常に嫌そうな顔をしていたが――残ると言い張った。
 正面のリングでは、気がどんどん膨れてきている。
 双方とも、最初から本気でやるつもりはないようなので、今の所、そう危険はないかも知れないが……。
 はサタンたちの前に立ち、彼らを少し後ろに下げる。
「分かりました。ある程度までは護る事にします。――でも余りにも危険だと判断したら、意地でもあなた方を下げます。仲間の所になるべく早く戻れと言われているから」
 ニッコリ笑みかけ、しかし有無を言わさない雰囲気で畳み掛ける。
 サタンたちはごくりと息を飲む。
 なにやらアナウンサーとサタンがまだ騒いでいるが、は無視してリングを見つめた。

「こい」
 セルの言葉に、悟空が攻撃を仕掛け始める。
 勢いよく地面を蹴る。
 そのまま体重を乗せて蹴りを繰り出した。
 悟空の蹴りを、セルは難なく左腕で受け止める。
 すかさず悟空が拳を打ち込むが、そちらも右手で防がれた。
 セルが左腕で攻撃する。
 悟空は頭を下げて避けた。
 衝突音を立てながら、互いに攻撃を繰り返している。
 いったん離れた悟空に、セルが頭突きを繰り出す。
 悟空は両腕でそれを受け止め、両足でセルを蹴り飛ばした。

 はその攻防を、拳を握り締めながら見つめていた。
 2人からすれば、まだスピードは緩い。
 の目でも、充分過ぎるほどに追いつく。

 後ろのサタンたちは、消えた悟空たちが保護色を使って伏せているとか、物凄い事を言っていた。
 噴飯ものの台詞だが、今のに笑う余裕はない。
 しかし弟子のひとり、カロニーがに問う。
「あ、あの……あなたもしかして、見えてますか?」
「うん。今は上空」
 カロニーが上を向くと同時に、青い光が空に現れた。
 それは拡大し、一気にセルへと迫る。
 だが彼には通用せず、弾き飛ばされてしまった。
 上から叩きつけられるようにして落ちてきた悟空は、体勢を整えてリングに着地する。
 ダンッと大きな音がし、悟空が着地した部分の敷石にヒビが入った。
「あ、あのー、さっきの青い光は」
「気功波」
 言っても分からないんだろうなあと思いつつ、言う。
 常時であれば懇切丁寧に説明してもいいが、今は口を動かすより、目の前の事に集中していたい。
 次いで下りてきたセルがニヤリと笑う。
「準備運動はこのぐらいでいいだろう」
 ――そう、まだこれからだ。




苦手な戦闘シーンがやって来ました。
2006・12・1