セルゲームまで 2


 カメハウスにある島へと到着した悟飯とを、クリリンやヤムチャ、亀仙人が出迎えた。
 まずは中に入れてもらい、亀仙人にお土産を渡す。
「ほうほう、茶菓子か。さっそく頂こうかの」
「じゃあお茶淹れますね」
 がキッチンに立ち、他人の家とは思えぬほど、テキパキと紅茶葉を取り出し、皆に紅茶を淹れる。
 悟飯に湯気の立ったカップを渡しながら、みんなが呆れ顔で見つめているテレビを見た。
 画面いっぱいに、なにやら嬉しそうな声を上げている、女性やら男性やらが映っている。
 中央に青いリングがあるあたり、ここは何かの会場での中継か。
 のイメージとしてはプロレスかボクシングなのだが、こちらの世界で、テレビ中継されるような格闘技は見た事がないため、漠然とそんな感じ、という程度だ。
 みな、一様に名を叫んでいる。
 『サタン』と。
 暫くすると、入口らしきところが大写しになった。
 そこから更に、バスを引っ張っている男性が大写しになる。
「……この人がミスター・サタンって人?」
 はしげしげと、モニタの中にいるその人を見つめた。
 悟飯が頷く。
 ヤムチャが呆れたように、ため息をついた。
「世界格闘技の王者らしいよ……」
 ミスター・サタンはバスをリング近くまで引っ張ると手を離し、バス横に移動した。
 カメラワークのよく分かっている人らしい。
 司会者らしき人物が、サタンにマイクを向ける。
「ミスター・サタン、あのセルゲームに参加をなさるおつおもりだと伺いましたが!」
 サタンはひどく格好をつけながら笑う。
「そうとも。世界を混乱に巻き込んだ犯罪者の、あのセルとかいう奴を倒せるのは、この世においてわたししかおらんからな」
 なんとも凄い自信だ。さすが悪魔という名前を持っているだけある。
 しかしの見た感じ、彼は超人領域に片足どころか、足先すら踏み入れていない気がする。
 彼は、自分に絶対の自信を持っている言動を繰り返し、
「セルなど、このわたしの敵ではない! セルゲームではこのわたしが、あのヤローをメッタメタのギッタギタにしてやるぜ!」
 そう言いながら、バスの腹に拳を突き入れた。

 ――拍手喝采。

 ヤムチャは殊更深くため息をつき、クリリンは苦笑いし、亀仙人はサングラスで表情は見えないが明らかに呆れている。
 悟飯は困ったようにしているし。
「……多分、あれが普通より強い人なんだよね……うん」
 は頭の後ろを掻いた。
 クリリンがため息を転がす。
「まあな……。世間一般様では、そうなんだろうなあ」
「でもさ、そうするとやっぱり……悟空やクリリンは、小さい頃から普通じゃなかったんだよね」
「そりゃ、ワシの教えを受けたからじゃな」
 と、亀仙人。
 確かにその通りだ。
 最も、本人たちの素質があってこそだろうけれど。
 悟飯が首を傾げる。
「でも亀仙人さまは、世界一強いって認識されてたんですよね」
「まあのう。ただ、何十年も何百年も、大会なんぞに出てはおらんからの。今じゃ記録上に残っているだけじゃろうて……記録すら、なくなってしもうておるかも知れんのう」
 それは非常に勿体無い気がする。
 ともあれ。
「この人、セルゲームに出たりして大丈夫でしょうか?」
 見ていて痛い人であれ、やはり放っておけないのか悟飯が言う。
 唸るの横で、ヤムチャが軽く笑った。
「大丈夫なワケないだろ。でもどうしようもないからなあ……オレたちが行っても、止められないだろうし」
「……そうだよね。私もそう思う」
 説明しても、聞いてくれそうにないタイプだ。
 最終手段は殴って気絶させるなどだが、それは立派に暴行であり。
 軽く俯く悟飯の肩を、クリリンが叩いた。
「平気さ。あいつだってセルを目の前にしたら、実力の差が分かって、手を出さないだろうし……多分」
 ……それに賭けるしかない。


 それから暫くし、悟空がやって来た。
 軽く挨拶を済ませてから、『デンデが地球の神様になった』と告げる。
 デンデというと……確かナメック星にいたときにお世話になった、あの子だ。
 顔を思い出し頷く。
「その子が神様を引き受けてくれたの?」
「ああ。も行こうぜ」

 という事で、4人で瞬間移動をし、神様の神殿へ飛ぶ。
 そこには確かに、まごついているデンデがいた。
「わー、デンデ!!」
「悟飯さん、クリリンさん!」
「うっわー、久しぶりだなオイ!」
 喜ぶ3人の後ろから、が声をかけた。
「こんにちは、デンデくん。地球の神様になってくれたって本当?」
さんこんにちは! 本当です。まだまだ未熟ですけど、良い神様になれるよう頑張ります!」
 うん、イイコだ。
 早速デンデに頼み、ドラゴンボールを復活させる。
 ひとつの願いで、沢山の人間を生き返らせるようにしたため、叶えられる願いは2つに減ったものの、とにかくドラゴンボールは復活した。
 ピッコロが優秀だと頷く。
「よっし、じゃあオラがドラゴンボールを探してくる。悟飯、おめえもう修行はいいから、デンデと遊んでてやれ」
 悟空の進言に驚愕する、トランクスやピッコロ。
 言われた悟飯ですらも驚いている。
「で、でも……お父さん」
「あ、あの悟空さん」
 トランクスが微妙な表情で、悟空に声をかける。
 は悟空から、彼がこんなに余裕をかましている理由を聞いているが、聞いていない者たちにとっては、彼の行動はかなり不可解だと思う。
 所謂、やけっぱちにも見えなくはないし。
「あの……もしかしてその自信は、セルの弱点を見つけたとか……でしょう?」
「……いやあ、アイツ弱点なんてあんのかな」
 真面目に考え込む悟空に、トランクスは目を丸くし、肩を落とした。
「そ、そう……ですか……」
 言う事がなくなったトランクスを見、悟空は伸びをする。
「んじゃあオラ、ブルマにドラゴンレーダー借りて行ってくっからよ」
「あ、悟空、私も行きたい!」
 手を上げてが言う。
「いいけどよ。なんで?」
「だって、私今までドラゴンボール探しって、した事ないんだもん」
 だからお願い、と頼み込むと、あっさり快諾してくれた。
「んじゃ行くか」
 悟空はの手を掴み、瞬間移動する。
 残された者たちは、悟空のあの余裕ぶりに一同首をかしげるのであった。



 ブルマからレーダーを借り、瞬間移動でまずはカメハウス周辺へ。
 そこから探し出す。
 レーダーを最大検索値にして、逐一確認しながら、舞空術で目的の場所へ向かう。
「ドラゴンボール集めってさ、昔は凄い苦労したんでしょ?」
「んー、まあな。オラもガキだったしなあ」
「レーダー持ってない人とかだと、人生費やしちゃうよね」
 こちらの世界は広いと、今では理解している。
 異世界の地球にある大陸全てをくっつけたより、もっと広い。
 きちんと開発されている地区と、そうでない所の区別があるため、文化レベルはまちまちだが、中の都など強烈に広かったりする。
 都という名がついているが、の意識の中では都というよりはひとつの国だ、あれは。
 そういう世界で、レーダーもなくドラゴンボールを探す人からすれば、確かにあの珠は『伝説級』だろう。
 昔の人は偉人だ。
「っと、ここら辺かな?」
 空気中に埃っぽい感じがしていたと思ったら、下を見ればそこは象牙色の砂だらけ。
 いつの間にやら砂漠地帯に入っていた。
 悟空はレーダーを操作し、縮小値にする。
「やっぱここら辺だな」
「おりよっか」
 とん、と砂地の上に立つ。
 この周囲にある事は間違いないのだが、ざっと見たところそれらしき物はない。
 手分けして探してみるが、やはりなかった。
 夕暮れ時まで探し続け、結局見つからない。
 悟空がレーダーを見ながら首を傾げる。
「うーん……ぜってえここら辺なんだけどなあ」
「水ぐらい持ってくるんだったね」
 少しばかりノドが乾いてきたが、ふと砂の上を走る風に目を留めた。
 砂が舞いあがっている。
 少しだけ砂を手ですくってみると、やはりサラサラで簡単に風に乗った。
 ――では恐らく。
「ねえ悟空、砂の下に埋まっちゃってるんじゃないかな。砂嵐とかが来れば、簡単に呑まれちゃうでしょ」
 ふむ、と考え込み、悟空はを引っ張って上にあがる。
 そうしてから、地面に気合を叩き付けた。
 彼の気でぶわりと舞い上がる砂。
「うへー! ちょっとやりすぎじゃないの!?」
「ぺっぺっ、範囲が広かったかなー」
 足元一帯の砂が、ごそりとクレーター状に抉れている。
 その右端の方に光るものが。
 が下り、それを手に悟空のところへ戻ってくる。
「見つけた!」
「よっし、まず1個だな」
 次に、今いる場所から一番近い所へ向かう事にする。
「どうでもいいけど腹減ったなー」


妙に平和。
2006・11・17