精神と時の部屋 4


「ねえお母さん。力の調節のコツとかありますか?」
 休憩中に悟飯に問われ、は水を飲む手を止めた。
 凄く困っているというか、戸惑っている様子の彼に首を傾げる。
「どうかしたの? 悟空には聞いた?」
 一応、そう聞いてみる。
 すると彼は頷き、でも、と付け加えた。
「なんていうか、上手くできないんです。だからお母さんのも参考にと思って……」
「セーブできないってこと? ぜんぶを全力でやっちゃうとか?」
「……全力っていうか……なんだか凄く減りが早いというか」
 なるほどと納得し、水をテーブルの上に置いて、とりあえず外に出た。
 悟飯も後からついてくる。
 悟空は現在、ひとりで修行中なために少し離れたところにいる。
 特に動きはない。
 超サイヤ人を超える超サイヤ人。
 つまり超サイヤ人2に向けて、なにやら大変な苦労をしている模様。
 自分も、異能力バージョン2とかにならないかな、なんて思う。
「さて、と。私で力になれるならいくらでもなるよ。力の調節のコツだっけ?」
「はい」
「でも、今でも充分に出来てると思うんだけど」
 の言葉に悟飯は首を横に振る。
「超サイヤ人で気功波の類を打つと、すぐに息切れしちゃうんです」
 基礎エネルギーの問題ではないようだ。
 確かに超サイヤ人は物凄い力の塊みたいなものだが、それだって限界はある。
 状況に応じて、的確に力を使っていかなければならないが、なにぶん悟飯は超化して日が浅い。
 いまいち、普通の状態のように力を扱えないでいるらしい。
 許容量が大きいために調節便も大きい。
 蛇口の捻り方が分からないのかも知れない。
「そうだね。ええと……例えば私は超サイヤ人に比べれば、気の絶対量が少ないでしょ。でも、だからってコントロールしやすいかっていうと、そうでもない」
 こくんと頷く悟飯。
「悟飯は、まだ超サイヤ人に慣れてないんだと思う。だから少しずつ――」
「でも!」
 急いている悟飯を手でなだめる。
 確かに、少しずつというのはまずかったかも。
「じゃあ、こうしよ。これから私が障壁を作る。それを悟飯が気で打ち抜いてくれる?」
「は、はい。分かりました」
「てんでばらばらなサイズで出すけど、それぞれサイズに合わせて力を使ってね」

 は悟飯用に防壁で的を作る。
 大きな物から、少しずつ小さなものへと変化させていく。
 悟飯は的確にそれを撃ち壊していった。

「はぁっ……はぁ……っ!! っく!」
「もう少しやるよー」
「はいっ!」

 瞬きする間も空けず、次々に目標点を作っていく。
 ほとんど脊髄反射的に撃たせるように仕向けた。

「はい、終わり。どう?」
「つ、疲れました……」
 がっくりと膝をつく悟飯。
 水を取ってきてやって手渡すと、彼はノドを動かして飲んだ。
「はぁっ。……あ、ありがとう」
「うん。……できたでしょ?」
「え?」
 なにを言っているのか分からないという表情の悟飯に、は笑みかける。
「さっきの壁は、ある一定の力がないと壊れないようにしてた。弱すぎれば壊れない。加えて大きいの小さいの、まあ大体中ぐらいのってバラバラに出す。そうすると、それにあわせて力を使わなきゃいけない」
 弱すぎる力を放ち、一度で壊せなかったものは、二度目の攻撃でしっかり破壊できていた。
 大きすぎる力を使うことなく、的に合わせた力を使って。
「無意識に、ちゃんと調節してたんだよ? ほとんど瞬きしない状態で出してたのに、ちゃんとコントロールできてる」
「……」
「信じられない?」
 自分の両手を見て目を瞬いている悟飯。
 案外、今まで培われた反射的な力の方が、自分自身の思考よりもきちんと状況を理解していたりするものだ。
 反射神経はバカにできない。
「……あまり、頭で考えちゃいけないってことなのかなぁ」
「そうとも言いがたいのが難しいところだよね。頭で考える部分がなくなっちゃうと、それは単なる考えなしだしさ」
「適度がいいってこと?」
「そ。力馬鹿もだめ。かといって考えすぎもだめ、ってとこかな。調節は難しいだろうけど、悟飯なら大丈夫だよ。なんたって悟空の息子なんだから」
「母さんの息子でもありますよ」
 嬉しいことを言うなあと、頭を優しく撫でる。
 まあとにかく、少しは自信がついてくてたようで安心した。
「ま、とにかく。コツ自体は自分でもう掴んじゃってるんだから、あとは頑張って修行するだけだよ」
「はいっ」
 うーん。
 素直な子に育ったなあ……ほんとに。




ざっくり余談でした。意味はない。そして悟空が全く出てこない…。
2006・10・27