精神と時の部屋 3 「うわぁ!」 鈍い音と共に悟飯が吹っ飛んで、地面に背中を打ちつける。 衝撃でか、一瞬のうちに超化が解けた。 手を突いて起き上がろうとするが、力なく前倒しになって気を失った。 少し離れたところで訓練をしていたは、悟飯の様子を見に近づいた。 「……悟空、ベッド」 「ああ」 悟空が意識を失っている悟飯を抱え上げ、室内にあるベッドに運ぶ。 衝撃がないようにそっと寝かせて、が軽く治療をかけると、苦し気だった表情が少しだけ緩んだ。 眉根が寄せられていないことを確認してから、治療を止める。 起こさないように気をつけつつ、悟空と一緒に表へ出た。 「ちょっと無茶しすぎちまったかなぁ?」 「でも、あれで倒れるんじゃ、セルとかいうのと戦えないでしょ?」 「まあな。……でも、オラちょっと驚れえた」 なにが? と首をかしげると、悟空は腕を組んで言う。 「気絶させるなんて! って怒られると思った」 ……いや、確かに気絶はいいことじゃないと思うけれど。 悟空のすることが、絶対的に間違いではないとは言えないが、この場合、甘えさせても悟飯のためにならない。 「大丈夫。確実にピッコロの修行の方がきつかったはずだから」 「あー……そっか」 さらりと出されたピッコロの名前に、悟空は納得したようだ。 サイヤ人が来るまでの1年間。 悟飯から聞いた話では、よくもまあそこまでサバイバルなことをしたと、ちょっと感心すらしたものだから。 悟空は伸びをし、息を吐いた。 「さてと。、ちっとオラの修行の相手してくんねえか?」 「うん、分かった。……私でよければ、だけど」 実力でいったら、どうひっくり返っても敵いそうにないので。 一礼をし、悟空を相手に修行を始める。 とりあえず組み手をすることに。 「超サイヤ人になるけど、いいか?」 「大丈夫」 だと思う、という言葉は胸の内に引っ込めておく。 炎が灯るような音を立て、全身を金色のオーラに包む彼。 こうして見ると、彼が悟空だなんてちょっと思えない。 面差しも少しばかり変わってしまっているし、気配もちょっと違ったりする。 悟空は拳を握り、スピードをつけてそれを繰り出した。 ひらりと避ける。 そのまま流れで悟空に一撃を加えようとし、大きく空振った。 さすがに簡単に当てさせてはくれない。 「だっ!」 「……っ!」 苛烈な攻撃を仕掛けてくる悟空。 正拳突きを足を踏ん張ってガードするが吹っ飛ぶ。 空中でくるりと回転して着地した。 手が腕がひりひりする。 地を蹴って彼に接近し、拳を突き出す動きをする。 しかし拳を出さずに、すっ、としゃがみ込んで足払いをかけた。 彼が手を付いて受け身を取った瞬間に、上から腹部目がけて蹴りを落とす。 ――が、足を掴まれて放り投げられた。 「うーっ! 見えるのに攻められない!」 力を抜いた悟空は息を吐く。 「ぷは。……はぁっ。さすがに力はなぁ。んでもさ、動きを追えるっちゅーだけでも、凄えじゃねえか」 「見えてるだけじゃ意味ないって、分かってる癖に……」 小さく息を吐いて手首を回す。 「なんとかならないかなぁ……」 そう簡単に力がつくはずはないし、今だってもちろん基礎はしっかりやっているけれど、力の事に関しては限界に近い気がしてもいる。 自分の限界が見えるというのは辛いもので、ベジータが『自分の限界を悟って怒りに打ち震え、超サイヤ人になった』というのが分からなくもない。 特に彼はプライドが高いし。 「ねえ悟空。気の配分で力強くならないかな?」 「そうさなぁ……」 たとえば、拳に気を思い切り纏わせて攻撃するとかしたらどうかと聞くと、彼は首を横に振る。 そうすると他の部位が物凄く弱体化してしまい、悟空クラスの攻撃が当たったら即刻退場だからだというのは、自身でよくよく分かっている。 むむーと顔をしかめるに、悟空は苦笑した。 「まあ、そんなにしょげるなって。異能力の方だって改善余地はあんだろ?」 「……そだね」 「力を重視するこたねえよ。おめえにはおめえにしか出来ねえことがあんだからさ」 慰めなどではなく、本心からそう思っているらしい彼の言葉に、は笑む。 彼は、どうすればを戦いというものへの劣等感から救えるか、よく分かっているようだ。 は小さく息を吐いて、悟飯が眠っている神殿の方を見た。 一生懸命な瞳をしている息子が建物から出てくる。 「あ。悟飯起きた」 「よし。んじゃあ……続きやっか。悟飯と組み手でもしてみっかなぁ」 まだ、1年には時間がたっぷりある。 その中で出来ること、出来ないことをより分けようと決めた。 2人きりなのにらぶらぶしない…。 2006・10・20 |