精神と時の部屋 2


 まずは悟飯を超化させる、という悟空の言により、まずは悟飯に重点を置いた修行を開始した。。
 悟飯はとにもかくにも超化するために、必死になって気を高めている。
「違う違う。それじゃ気をでかくしてるだけだ。超サイヤ人には怒りがきっかけでなる。切れるんだ」
 確かに悟空が超化したのは、クリリンが殺されたからだ。
 しかし元々の性格が温和な悟飯。
 それでなくとも、いきなりキレろと言われても難しい。
「ねえ悟空。なんかきっかけがないと、ダメなんじゃない?」
「そうだなぁ。……よし。じゃあさ、オラやピッコロや母さんが、セルに殺されそうなとこを想像してみろ」
 ……嫌な想像だなぁ。
 事実としてありえそうなのが、嫌なところなのだけれど。
「ボク、セルを見た事ないもの」
「じゃあフリーザでも、なんでもいいさ」
 すぅ、と息を吸い、悟飯はイメージを膨らませる。
「うっ……ぐぐ……!」
 ぞわ、と髪の毛が持ち上がる。
 いい感じだったのだが――
「はぁっ、はぁ……だっ、だめだ……!」
「いきなり上手くなれるわけねえさ。父さんだってベジータだって苦労したんだ。焦る事なんてねえよ。それにいいセンいってたぞ」
「うん。髪の毛持ち上がってた」
 超サイヤ人になると、怒髪天というのだろうか、髪が天を突く。
 それに近いものはあったから、上々だと思うのだけれど。
 その日、何度も繰り返して行われたけれど、結局彼が超化するには至らなかった。


 何日か経過し――外界では数分程度の話なのだろうけれど――なんとか、ほんの少しの時間、超化できるようになった悟飯。
 現在、髪が長すぎるという理由で、ちょっと髪切りのために休憩中。
 椅子に座っている悟飯の髪を、がざかざか切っていく。
「ふー。結構長くなっちゃってたんだねー」
 かみそりを使って襟首を整える。
「動かないでね。首切っちゃうから」
「はい」
 その横で、悟空は水を口に含んでいる。
「ぷは。オラちょっと腹減ったなぁ」
「んじゃあ髪切り終わったら、ご飯にしよっか。……でも、そんな時間?」
 部屋に備え付けられている『時刻用』の時計を見ると、確かに夕方をかなり過ぎた頃合い。
 いつもならば、とっくに食事を済ませてしまっている時間。
「今日もオラが作ってやろっか?」
 嬉しい申し出だが遠慮する。
 部屋に入ってきてから、悟空と悟飯が協力して作ってくれたりしているのだが……。
 その料理たるや、散々たる有様だ。
「……やめとく。だって悟飯に任せたら、お肉がウェルダン通り越して、黒こげの炭になっちゃったし。それに悟空は肉は肉だけって感じだし」
 はあ、と息を吐く。
 保存食とはいえ、一応の材料はあるのだから、それなりに工夫して作れば美味しい物が出来るのに。
 男2人ときたら、そのままある物をある状態で食べようとするもんだから。
 この2人だけでこの部屋に入っていたら、どうなったかとちょっと不安になる。
 じゃきじゃき切り終え、整えると、悟飯の髪はすっかり短く綺麗になった。
 首周りに巻いていたタオルを取り去り、切った髪を下に落とす。
「ごめん、髪片付けといてくれる? 私はご飯の用意するから。うーん、なんにしよっかなぁ……」
「お母さん、ボクも手伝います」
「オラもなんかやろっか? 髪片付けすぐ終わるだろうしさ」
 それじゃあ、とひとつ頼む。
 骨付き肉を『適度に!』焼いてくれと。
 肉と皿を渡し、は食料庫の棚の近くにある台に必要な材料を出す。
 ガスコンロもなければ火を起こす道具も全くないこの場所では、自分の気だけが頼り。
「うー、油、あぶら……げっ、ないし! ……あ、でもバターめっけー。これで行こう」
 ジャガイモ(らしき物)を湯がいて潰し、簡単に丸めて気で焼く。
 それから肉を薄く切って焼いて、丸めたジャガイモに巻いた。
 白米を水で浸してから、バターを放り込み、適当な材料を入れて気で炒るという、物凄い強引なピラフも作った。
 備え付けてあるテーブルに皿(というよりでっかい器みたい)を載せ、そこに出来上がった料理を山にして入れる。
 悟飯たちが焼き終えた肉も、別の皿に盛りつけた。
「……やっぱりちょっとコゲてるっぽいね」
「ご、ごめんなさい」
 しゅんとする悟飯の頭を撫でてやる。
「大丈夫。消し炭じゃないから食べられるよ。それじゃあ食べよっか」
「おー、美味そう! よく作れんなぁ、あの材料で。いただきまーす!」
 ガツガツ食べてゆく悟空と悟飯。
 もちまちまと食べてゆく。
 相変わらずサイヤ人の胃袋はおかしいなぁ。
 いい加減見慣れた風景だが。
「うめえなぁ。よくあの材料でこんなん作れるよなー」
「そりゃあ……一応毎日料理してるわけで。これで下手だったらちょっと凄いよ」
 ぱく、とジャガイモを口に運ぶ。
「食べ終わったらちょっと食休みいれて、それから修行はじめっぞ」
「「はーい」」


 超化したままの状態でいるのは、最初のうちは辛いらしい。
 は横で悟飯を見ながら、自分の修行も少しずつ始める。
 この場所、気温の上下は物凄く辛いものがある上、建物から少し離れた場所ではなにがどうなっているのか、突然氷柱が乱立したりする。
 かと思えば炎が燃え盛ったりと、一体どうなっているのか分からない事もある。

「ふはぁ。確かに普通に立ってるだけでも辛いや、ここ」
 少し離れた場所で基礎鍛錬を繰り返しながら、肩で息をする。
 悟飯と悟空のところへ戻ってきた
 丁度、悟飯が超化して、そのままの状態を保とうとしている所だった。
「よし、そのままゆっくり興奮した状態を抑えるんだ」
「うっ……ぎぎ……!!」
 力を込めて、興奮状態を抑えようとするのが見て取れる。
 しかし、すぐさま超化は解けてしまった。
 がっくりと膝をつく悟飯。
「はあっ……はぁ……む、難しいよお父さん……!」
「焦るな焦るな。少しずつだ。一気に興奮を抑えようとすっと、超化が解けちまう」
「は……はい……」
「色々難しいんだね、超化ってのも」
 やっぱり強くなるのに簡単な方法なんてないみたいだ。
 は息を吐く。
 ……勤勉な超サイヤ人に、敵う方法なんてあるんだろうか?



本当は精神と時の部屋、食料が粉とかしかなかった気がするんですが、前と同じくスルーでお願いします。
2006・10・10