精神と時の部屋 1 「どうも、お待たせしてすみません」 出てきたトランクスを見て、はちょっと驚いた。 明らかに1日前とは髪が長くなり、身長が伸びている。 たった1日。 いや、精神と時の部屋にいたから1年経っているのだろう。 その過程で成長したと思われる。 「ちょっとーー! 皆いるのーー!?」 「あっ、ブルマさんの声だ」 表に出ると、確かにブルマだ。 背後に飛行機があるところを見ると、それで来たのだろう。 ……神殿って、飛行機で来ていいんだっけ? トランクスが驚いたように母を見た。 ここに来るとは思っていなかったという顔だ。 「あれ、あんたトランクス? なんで髪が伸びて……カツラでもつけてんの? あっらぁ!? ちょっとちょっと。背も伸びてない?」 カツラはないだろうと思うのだけれど。 トランクスは苦笑し、ブルマに説明した。 ここには不思議な部屋があり、そこでの1年は外の世界では1日なのだという事を。 そこで修行をしたため、トランクスの頭髪、身長が伸びているのだと。 「ねえ。でもその割にベジータは髪の毛のびてないじゃん」 そう言えばそうだ。 も彼を見るが、全然伸びている気配がない。 ああいう髪型だし、伸びれば直ぐに分かりそうなものだが……。 そもそも悟空といいベジータといい、伸びたら大変そうな髪形だ。 彼はどうでもよさ気に質問に答える。 「純粋なサイヤ人は、頭髪が生後から不気味に変化したりはしない……」 不気味と言うけれど、から見れば変化しない髪形というのは、不気味というより不思議だ。 「へぇ〜。そうなんか。どおりでオラも……」 自分の髪を手で触り、悟空が納得したように頷く。 ベジータは舌打ちした。 「そんな事はどうでもいい。一体なにをしに来たのだブルマ!」 「そうそう。ほら、ベジータに頼まれてた戦闘服さ、すごく防御力高いじゃない。だから皆のぶんも作らせてさ、持ってきたってわけよ」 ホイポイカプセルから収納用の箱を取り出す。 蓋を開けると、中にはサイヤ人が着ていたスーツが入っていた。 悟飯と悟空が早速着だす。 も着ようかと思ったのだが、やめておいた。 公衆の面前でお着替えはまずいし、なんだか胸がちょっと苦しそう。 「あんたたちは着ないの?」 ブルマがピッコロや天津飯に問うが、彼らはサイヤ人やフリーザどもが着ていた服を着る気はないと言った。 まあ確かに……分からなくはないけれど、スーツに自主性も主体性もないわけで。 使えるものは使った方がいい気もするけれど。 まあ、個人の趣味の問題だ。 悟空は笑う。 「まあそうこだわるなよ。なかなか動き易いぜ、これ」 ベジータがニヤリと笑う。 「さっきも言ったが、カカロット。キサマはその服を着てもムダだ。活躍の場がない」 「おめえがセルを倒しちまうからだろ? そんならそれが一番いいさ」 瞬間移動で連れて行ってやるという悟空の申し出を、ベジータは拒否した。 曰く、キサマの力なんぞ借りはしない、だそうで。 本当にプライドが高い。 「やれやれ。相変わらず突っ張っちゃって」 ブルマが嘆息する。 続いて行こうとするトランクスを悟空が止めた。 袋の中から仙豆を2粒渡す。 「頑張れ。だが、無理はすんなよ。やばくなったら逃げろ。いいな」 「はい。色々ありがとうございます。悟空さんも修行頑張ってください!」 「絶対に死んじゃだめよ2人とも!」 トランクスはブルマの言葉に頷き、ベジータを追って飛んだ。 「よし。そんじゃ行くぞ、2人とも」 「はいっ」 「うん!」 悟飯とが頷く。 悟空の後について、精神と時の部屋に入った。 部屋に入って直ぐ、熱気が襲ってきた。 酸素が少ないのか、なんだか息苦しくもある。 視界はほとんどが白で占められており、はっきり言って体にも目にも優しくない。 入口の扉の上に大きな時計がある。 外界とは違う進みをしているのだろう。 入るときに見た時刻とは全く違う。 そもそも時間を示しているのではなく、月を示しているのかも知れない。 「部屋の扉を閉めてしまえば、完全に外界の情報は届かなくなる。セルの気も、ベジータの気も感じねえだろ?」 言われてみれば、確かに自分たち以外の外部情報が全くなくなっている。 なんだか凄まじい所だ。 「左っかわが風呂とトイレ。あっちが食料庫」 確かにミスター・ポポが言っていた通り、とりあえず生きていけるだけの備えはあるみたいだ。 味に期待をしちゃいけなかろうが。 がなんの気なしに、表に出てみる。 「うっわぁ……」 「どうしたのお母さ……あ」 続いて出てきた悟飯も言葉をなくす。 2人でキョロキョロ周囲を見回した。 建物内も白いと感じたけれど、表に出たらそれがより顕著だ。 建物と、その脇に大きな砂時計が2つ。 それ以外、全くなにもない白い世界が、ただ見る者になんの感慨も与えず広がっている。 「ど、どうなってんの……!? 部屋の中だったのに、こんなに広い場所が……それに、なんにもない……」 悟飯の呟きにが頷く。 悟空が2人の後ろから言う。 「地球と同じ広さらしいぞ。気をつけろよ。遠くに行き過ぎると、ここを探せずに迷って死んじまうかも知んねえからな」 ……なんという。 地球と同じ広さだという事が分かっているのは、誰かが探したからだろうか。 それとも代々の神様が受け継いできた事柄なのか。 元々は、神様の修行場だったのかも。 「大変だぞ。気温は50度からマイナス40度まで変化するし、空気は地上の4分の1ぐらい。重力は10倍の真っ白な世界」 幼い頃の悟空が、1月で音を上げたというのが分かる気がする。 地球温暖化の進むの世界だって、50度なんていう気温はなかった。 少なくとも自分の周囲では。 あるとすれば砂漠だろうと思う。 「こ、こんなとこで1年も……」 唖然とする悟飯の背を叩き、修行を始める事にする。 「まずは、悟飯。おめえを超サイヤ人にする」 「ボ、ボクになれるかなぁ」 「もちろんだ。おめえもサイヤ人の血を引いてんだぞ。とりあえず超サイヤ人にならねえとな。本格的な修行はそれからだ」 確かに悟飯を超化させられれば、悟空の修行にも効果が望めるし、それに悟飯自身が強くなれる。 邪魔になるのでは、という悟飯の言葉に、悟空は頷いた。 最初は邪魔になるけれど、でも悟飯が超化しさえすれば、練習相手として助かる、と。 彼の理想としては、悟空を超えてもらうつもりらしいが。 「んで、はオラの手伝いしてくれ。悟飯の超化が落ち着くまで相手いねえし」 「うん、分かった」 「よーし。そんじゃ修行始めっぞ」 精神と時の部屋は、2人入りだとか何とかっていう気がしますが、スルーして下さると嬉しゅう御座います。 2006・10・1 |