人造人間 3


 今のところ静かに眠っている悟空。
 はヤムチャに悟空を見ていてもらい、タオルや着替えなどを用意していた。
「……はぁ」
 こうしていると、ふとした瞬間に嫌な思い出が持ち上がってきて。
 ふるふると頭を振り、考えを振り飛ばそうとする。
 あまり成功しているとは思えなかったが。
 なにしろ、は両親を心臓病で亡くしているのだ。
 ちょっとの気も抜けない。
 悟空まで心臓病で失ってしまったら――。


 寝室に移動しようとしたとき、玄関をノックする音が耳に入った。
「はーい?」
 玄関を開けると、クリリンと――あの未来から来た少年がいた。
「あれ、あなた」
「ど、どうも……」
 丁寧にぺこりとお辞儀をする。
「悟空は?」
「うん。薬を飲ませてからは落ち着いて眠ってるよ」
 そうか、とホッとするクリリン。
 寝室からヤムチャが顔を出し、お、と笑顔を向けた。
「お前、未来から来た……そうか。人造人間を倒してくれたんだな!」
 まだ話したそうな彼を遮り、クリリンは話を進める。
「詳しい事は後で話すけど、急いで武天老師さまのところへ移動しなければいけないんだ。みんなそろって!」
 神妙な顔に、とヤムチャは顔を見合わせた。
「……新手の、もっと恐ろしい3人の人造人間が、そのうちここへやって来るんです」
 その言葉は、2人を驚愕させるに余りある言葉だった。

 クリリンとヤムチャに、悟空を飛行艇の中に運んでもらう。
 その間に話を聞いたが、あれから、たちが見た人造人間たちは、ベジータによって倒されたと言う。
 しかしそのうちの1人がドクター・ゲロ当人で、彼が作り上げていた新手の人造人間――こちらは未来から来た少年が言っていた奴ら――を世に放った。
 彼らには超サイヤ人化したベジータも歯が立たず、ボロ負けした。
 人造人間たちの目的は悟空を殺す事。
 つまり、この家に確実に来る。
 このまま悟空を我が家に居させれば、間違いなく殺されてしまう。
 だから、移動しなければならない事態になったのだと。
 は息をつき――ふいに見知った気を感じ、上を見上げた。
「お母さん!!」
「あ、悟飯!」
 ブルマを送り届けていた悟飯が戻ってきて、彼を乗せて飛行艇はすぐにその場を離れた。
 飛行艇の中で、もう一度クリリンが悟飯に経緯を話す。

「……というわけで、奴らにとってはゲームみたいなもんだろうが……とにかく悟空を殺しにやって来るはずだ」
「そ、そんなに強いんですか?」
 悟飯の言葉にクリリンは頷く。
「ああ。トランクスの話以上だと思っていい」
「トランクス?」
 が首を傾げる。
 ……未来から来た。
 超サイヤ人になれる。
 そこから導き出されるのは、
「そっか。ブルマの子供が大きくなった姿なんだ」
「え、ええ、はい」
 なるほど。
 よくよく考えれば、タイムマシンを作れるほどの天才といえば、ブルマぐらいしか思い当たらないし。
 トランクスは眉根を寄せたまま、今まで考えていたらしい事を口にする。
「オレがタイムマシンでもっと昔へ行って、人造人間が動き出す前に壊してしまうというのはどうでしょう。ドクター・ゲロの研究所の位置はもう分かったし」
「ちょっと待ってよ。タイムマシンって、完璧じゃなくて、その上往復分のエネルギーを溜めるのに凄く時間がかかるんじゃ?」
 が言う。それに、とクリリンが後を引き継ぐ。
「昔へ行って、ちゃんともとの未来に戻れるのか?」
「そ、それは……」
 分からない、と顔に出ている。
 こう言ってはなんだが、としては悟空の命の恩人に、あまり無理をして欲しくはない。
 悟飯がトランクスの顔を見ながら言う。
「あの〜〜。例えばですよ? トランクスさんが少し過去に行って、人造人間を壊したとしたら、今いる人造人間はどうなるんでしょうか。ふっと消えちゃったり?」
「そ、そうか! 忘れていた!!」
 目を丸くするトランクス。
 根本的な誤りに気付いた様子で、彼は事実を口にした。
「オレが過去に行って人造人間を壊しても、助かるのはその世界の未来だけで、既に動き出したこの世界はなにも変わらない……」
 は頷く。
「歴史が、枝分かれしちゃうって事だよね」
 悟空を見やり、小さく息を吐く。
「今こうして悟空は助かってるけど、死んじゃった未来もある……。トランクスくんの未来では、やっぱり悟空は死んじゃってて、人造人間は動いてる、と」
「じゃあなんでお前はこの世界に?」
 わき見運転しながらヤムチャが問うと、トランクスは笑む。
「母さんが……人造人間にやられっ放しじゃシャクだから、奴らを倒した平和な未来があってもいいんじゃないかって」
 なるほど、ブルマらしい。
 溜飲を下げるという意味合いがあるのかも知れない。
「でも一番の目的は悟空さんと人造人間の戦いから、奴らの弱点を見つけることだったんです。
 それが無理なら悟空さんにタイムマシンでオレたちの未来に来てもらって倒してもらうとか……そういう事だったんですが」
 けれど彼は、彼の知っている過去とは少し違う過去に来てしまった。
 悟空が心臓病になるタイミングも違ったし、人造人間は3人になってしまったし。
 なにより、彼らの強さがトランクスの知っているものとは、極端なまでに違った。
「でも、なんでそんなに違ってしまったんでしょう」
 悟飯の問いかけに、トランクスは分からないと告げる。
 学説的なことなど、にはよく分からないけれど、未来からトランクスが来た時点で、この世界に歪みが生じたのは間違いない。
 幾つもの事象が重なり、未来と違ってしまう事は当然だ。
 だがそのおかげで、悟空は死なずにすんだわけで。
「でも、あなたが来なければ悟空は死んじゃってたんだもん。来てくれてありがとう」
 微笑みかけると、トランクスはちょっと赤くなった。



 そろそろカメハウスに着くという頃になり、クリリンがブルマに連絡を取った。
 彼女からの連絡により、トランクスの乗ってきたタイムマシンが、もう一機ある事が確認された。
 それを調べるため、トランクスと悟飯がその場所へ向かう。
 他の者たちはそのままカメハウスに向かった。



2006・9・15