人造人間 2 急いでいたため、周りの人がどう思うかを完全に失念していたが、幸いにもが降りた付近は人がいなかった。 走って大きな通りに面した道に出るが、普通に歩く人々ばかりで、怪し気な空気を発している者はいない。 いくつか人の集まっている場所を見てみるが――。 「……そもそも人造人間の顔を知らないんだから、探そうったって」 手当たり次第に、あなたは人造人間ですか? なんてバカみたいに聞けないし。 かといって見つけられないと、取り返しがつかない事になりかねないし。 仕方なく、当てもなく探していると、大きく気が乱れて減っていくのに気付いた。 気の質からして、ヤムチャだ。 ヤムチャがいる場所にすぐさま移動したと同時に、悟空たちも到着する。 彼は不気味な2人組みのうちの1人に攻撃を受け、既に意識がない。 腹部を突き抜けた手が引き抜かれ、ヤムチャは地面に無残に転がる。 悟空が彼の状態を見て叫んだ。 「クリリン、! ヤムチャはまだ生きてる! 仙豆をさっきのとこに置いてきちまったから、連れて行って食べさせてくれ!」 「う、うん!」 「分かった」 が先にヤムチャに近づき、仙豆までの応急手当をしながら山へ向かう。 さすがに治療しながら持ち上げるのは重くて、クリリンに彼を運んでもらったけれど。 「ちょ、ちょっとヤムチャ!?」 ブルマが慌てる。 クリリンがヤムチャを横にする間に、が袋から仙豆を1粒取り出す。 無理矢理口を開けさせ、中に押し込む。 無意識のうちにか口を動かしだし、すぐに回復した。 「よかっ……」 ――! 建造物が壊れる耳障りな音がし、眼下に見える町の一部が崩れる。 大よそ3分の1程が、おそらく人造人間のものであろう攻撃で崩れ、壊れた。 あちこちから火の手が上がり、消防車が緊急出動していく音が遠巻きに聞こえる。 酷い景色に怒りが募る。 「あっ、どこかへ移動するみたいだぞ!」 クリリンの言う通り、悟空たちがどこかへ移動するのが見えた。 「やばいぞ! 悟空たちに知らせないと!」 ヤムチャの言葉にクリリンが首を傾げる。 「あいつら、気を吸い取ってしまうんだ! 掴まれると、どんどん力がなくなっていくんだよ!!」 「お、教えないと!」 移動を始めた悟空たちに続いて、はすぐに彼らを追う。 そのすぐ後に悟飯、クリリンが続き、最後にヤムチャが追ってきた。 先行して飛んでいった悟空たちを追っていくが、結構距離が離れていたためと岩場に入り込んでしまったために、姿を見失ってしまった。 「や、やばいぞ。これじゃあ悟空たちが戦い出すまで、場所が分からない!」 「っ、そだ! 私悟空のトコに移動して気を高めるから!」 が慌て空間移動を始める。 悟空の傍に瞬時に移動できる力が、こんな風に役立つとは思わなかった。 ぱっと出たところは、岩山が周囲にある高原。 「おい、こっちに来い!」 ピッコロに言われ、悟空の傍から離れる。 よくよく見れば、既に敵と対峙していた。 は直ぐに気を発し、悟飯たちに場所を教えた。 悟空は超サイヤ人化して戦った。 でも、なんだか様子がおかしい気がして戸惑っているうちに、結局クリリンたちが悟空に気を吸い取るという事を教えた。 「……お母さん、なんか、おかしくないですか?」 「悟飯もそう思う?」 見れば見るほど、不安が膨れ上がってくる。 どうしてあんなに息を切っているんだろう。 闘い方にも物凄く焦りが見える。 それなのに……今までと比べると、全然物凄くない。 確かに普通の人から見れば驚異的なまでに強いのだけれど――本当の実力を知っているにとって、今の悟空は酷い違和感の塊だった。 「――あっ!」 悟飯がなにかに気付く。 が視線で言葉を促すと、彼は不安そうに見つめ返してくる。 「お、お父さん……もしかして……」 言い淀む悟飯。 悟空の姿を見て――も気付く。 どうして、胸に手を当ててるの? 胸――心臓。 未来からやって来た青年が、確かこう言ったと聞かされなかったか。 『悟空は、心臓病で死ぬ』 「や、やっぱりお父さん病気なんだ!」 悟飯の叫びに、天津飯がそんなはずはないと仙豆を投げてよこすが、全く効果がない。 一方的にやられ始めた。 胸を掴み、なにかに耐えるようにしている悟空。 ついには超化が解け、人造人間に首元をつかまれて気を吸い取られ始めた。 助けようと割って入ったピッコロがやられる。 ――そこへ、ベジータが入って来た。 彼は心臓病の事を分かっており、悟空を蹴飛ばしてピッコロに渡す。 「誰かそいつを自宅へ持って帰り、薬を飲ませやがれ」 人造人間は自分が倒すと言い、彼らと対峙した。 ヤムチャが悟空をつれてゆくという事になり、は一足先に家に戻る事にする。 「ゴメン、一緒に連れてければいいんだけど……とにかく早く家に帰って、薬を探すから!」 言うが早いか、自分だけ空間移動で自宅へ戻る。 ドアをぶち壊さんばかりの勢いで開き、リビングを見て愕然とする。 悟空が自分でしまった。 は、薬がある場所を知らない。 「〜〜っ!! 悟空、一体どこにしまったの……!」 慌ててあちこち探し出す。 引き出しを引っ張り出しては中を引っ掻き回し、薬箱の中を見ては放り出し。 あちこち無茶苦茶に探し回っているうちに、ヤムチャが悟空を連れて戻ってきた。 「ちゃん! 薬は!」 「ないの! と、とにかく寝室に寝かせて!」 悟空を頼み、棚を探し出す。 ふと視線を上にあげ、はっとした。 小さなプラスチックの箱が目に入り、それを開けて見ると中に薬が入っていた。 薬を持って寝室へ走る。 苦し気に息を弾ませている悟空に、それを飲ませた。 暫くすると、呼吸が落ち着いてくる。 「……よ、よかった」 深々と息を吐き、小瓶の蓋を閉めようとした。 「ウィルス性の心臓病らしいから、オレたちも飲んだ方がいい」 「あ、そっか」 こくんと一口飲み、ヤムチャに渡す。 彼もまた口にした。 後は、悟空のために残しておく。 「……死んじゃうかと思った」 彼の寝ている布団に顔をうずめ、ぎゅ、と布団ごと服を掴む。 やる事はいっぱいある。 人造人間は気になるが、悟空が第一だ。 布団から顔を離し、とにかくタオルを用意することに決めた。 2006・9・8 |