――3年。
 時間は誰しも平等に訪れ、流れてゆく。
 普段と変わらぬ時間に起きたは、なんら変わらない日常の朝を迎え、食事を済ませ、動き易い道着に着替えて髪をひと括りにした。
 悟空たちも準備を追え、既に外に出ている。
 今日は、未来から来た少年が危険を示唆した日。
 少し遅れて外に出たに向かい、悟空は言う。
「よし。じゃあ行くぞ」


人造人間 1


 南の都、南西9キロ地点。
 その場所に到着してみれば、結構大きな島で、まずい事に割と大きな町まである。
「人造人間を他の場所に誘い出さないと、島の人たちが」
 悟飯の呟きに悟空が頷く。
 もし、こんな場所で戦闘を始めてしまったら、町の被害は大きくなる。
 島だけあって、西の都のように密集して家が建っているという感じは受けないが、それでも町中での戦闘は被害が大きすぎるだろう。
 気を探ってみるが、悪い者の気配はない。
 おそらくヤムチャたちのものであろう気が、山の一角にあるだけだ。
 このままボーっと宙に浮いていても仕方がない。
 とりあえず仲間と合流するため、気のある場所へと移動する。


「おーい!」
 ヤムチャが大手を広げて呼ぶ。
 天津飯の姿とブルマの姿もあった。
「ブルマ!」
「やっほー! 大きくなったわね、悟飯くん」
 にこにこ笑うブルマに、悟空が呆れた。
「バッカだなー! なんだっておめえまでここに来たんだよ」
「バカとはなによ。見学に決まってるじゃない」
 人造人間を一目見たら帰ると言うが。
 ……フリーザを見に来た辺りから、なんだか物凄く度胸が上がったというか、強くなったというか。
 それにしても。
「ブルマ……あの、その子……」
 が示す。
 ブルマは赤ん坊を抱いていた。
 悟飯がにっこり笑う。
「結婚したんですね、ヤムチャさんと!」
 しかし振り向いて見ればヤムチャはムスッとしていて、実に不機嫌そうな顔だ。
 不機嫌を隠そうともしない声で答える。
「オレの子じゃねえの。とっくに別れたんだよ、オレたちは」
 誰の子か聞いたら驚くと言う彼に、悟空は進み出て赤子に笑いかける。
「父ちゃんはベジータだよな、トランクス〜」
「――――え!?」
 もクリリンも、悟飯も驚いて目を見開いた。
「な、なんでそんな事知ってんのよ。驚かせようと思って、にだって報告してないのに」
 ブルマの言葉に悟空の顔が思い切り引きつる。
 ……なんか隠してるな?
「いっ、いやあ、そんな気がしたんだ、なんとなくさあ! ベ、ベジータにちょっと似てるだろ、顔がさ!」
「名前までずばり当たったわよ」
 超能力があるのかなあと笑って誤魔化す悟空。
 ……やっぱり、なんか隠してない?

 はブルマに近づき、そっとトランクスの頬に触れる。
 ぷにぷにで柔らかい。
 目をパチパチさせるトランクスに微笑みかけた。
「こんにちは。初めまして、トランクスくん」
 トランクスはにぱっと微笑み、手をパタパタさせる。
「ほーら、トランクス。孫くんのお嫁さんよー」
 言いながらブルマはトランクスをに渡す。
 母親から離れて、少し不安そうな顔をしていたトランクスだが、があやしてやると、すぐに笑い出した。
 ぽふぽふと胸を叩かれて、ちょっとくすぐったいやら恥ずかしいやら。
 悟飯の小さな頃を思い出す。
 ベジータはこの場にいないが、来るだろう。必ず。
「今何時ですか、ブルマさん」
「ええと……」
 腕時計を見て確認する。
「9時半だから……あと30分ほどね」


「それにしても、ブルマらしいというか……」
 トランクスをブルマに返す。
 彼はの指を掴んで、ふるふると振ったり握ったりして遊んでいた。
「まぁねー。でもわたしは、未だにアンタから悟飯君が生まれた事の方が驚きだわよ」
「そうかなぁ……?」
「だって」
 こっそり耳打ちするようにして言う。
「孫くんの子よ?」
 ……なんか、それは分かる気がする。
 しっかり聞こえていたのか、悟空が横から割って入った。
「なんでオラだと驚きなんだ?」
「だって。小さい頃は人のパンツ脱がしてみたりしたし、子供の作り方が分からないって散々迷惑かけたし」
「クリリンさん、そうなんですか?」
 物凄く言いにくい事を軽く聞く悟飯。
「えーと……ま、まあな!」
 乾いた笑が地面に転がる。
「……ねえ。今、『人の下着脱がしたり』って言ったよね」
 の言葉に、ブルマの表情が固まった。
 言わなきゃよかったと思っているのか、口が滑ったと思っているのか。
 今更遅いけれど。
 悟空を見れば、ちょっと心配そうにを見ている。
 焦ってもいる。
「が、ガキん頃の話だし!」
「分かってますー。でも気持ち的にはそういう問題じゃないんですー」
 ぷーっと頬を膨らませる。
〜」
 へにょっと困ったような表情を浮かべる悟空に、は苦笑した。
 向き直って笑いかける。
「まあいいけど。私も克兄ちゃんに、スカートめくりぐらいはされた事あるしね」
「……」
 ――あ。今度は私が失言だったかも。
 誤魔化すように町の方を見ていると、ピッコロが静かに呟いた。
「何者かがこっちに来る。邪悪なものではない……」
「え、ベジータさんかな」
 悟飯の呟きに、クリリンが突っ込む。
 あいつは邪悪だろ、と。
 小型飛行機が近づいてきて、その中にいる人物を見て悟空が笑む。
「あっ、ヤジロベーだ!」
 ヤジロベーは着地し、機械から降りる。
「おめえも戦いに来たのか?」
「……これ、カリン様から仙豆だ」
「おっ、助かりー! さっすがカリン様だな!」
 仙豆の入った袋を渡すと、ヤジロベーはすぐさま飛行機に乗る。
「あれ? ヤジロベーも闘うんだろ?」
「バカこくでねえ。オレはおめえたちのようなのと違って、死にたくねえんだよ。いちいち付き合ってられっか」
 ……うーん。
 凄く本能に忠実と言うか、普通の人を象徴していて、はその姿を新鮮だと思う。
今度、カリン様の家に遊びに行こうかなとどうでもいい事を考えたりして。

「妙じゃないか」
 天津飯の呟きに、一同が彼を見る。
「10時はもうとっくに過ぎている。なのに敵の気配が全く感じられん」
「そういえば、そうだよね」
 の同意に、悟飯も頷く。
 ヤムチャが希望的観測を口にした。
「やっぱりあいつのデタラメなんじゃないか? 人造人間なんて」
「そうかしら。10時頃って言ったのよ? 今10時17分だから、わかんないわよ」
 ブルマの言葉に、けれどヤムチャは笑う。
「それだって、強い気なんてまるで感じられないんだぜ。そんなに凄い奴らなら、この地球のどこにいたって分かるさ」
 しかしヤムチャが言葉を終えた瞬間、ヤジロベーの乗った飛行機が爆発した。
 ピッコロが叫ぶ。
「なにかいるぞ! あれが攻撃したんだ!」
 飛行機の爆発地点からほんの少し上空。
 明らかに飛んでいるとしか思えない人物が2人いる。
 遠い上に爆発のモヤが邪魔をしていたため姿が見えず、彼らはそのまま下の町に降りた。
「見えたか!?」
 クリリンに問われ、は首を横に振る。
 悟空も同じように首を振った。
「ダメだ。どんな奴か分からなかった……!」
 町を見下ろしてみても、高い山の上からじゃどこに降りたのか分からない。
 すぐに見失ってしまったのだから。
「ど、どういう事だ……。ま、まるで気を感じなかったぞ」
 悟空の言うとおり、強い気などなかった。
 もしあれば、ヤジロベーの飛行機が爆発する前に分かったはずなのに。
「じ、人造人間だからだ……」
 悟飯が言う。
「気なんてないんだよ」
 当たり前の事だが、気を感じ取れないのであれば、直接肉眼で確認するしかない。
「よし。みんな散って探そう! 深追いはするな。発見したらすぐみんなに知らせるんだ!」
 悟空の進言にみなが頷く。
 悟飯はヤジロベーを助けるように言い、それぞれが散る。
 も例に漏れず、町中を探し出した。



2006・9・1