お疲れモード



 毎日修行を続ける傍らで日常業務も続けなければいけないは、ちょっとだけ疲れていた。
 修行だけやっていればいい悟空と違い、患者さんの診察、家事全般をしなくてはいけないにとって、悟空やピッコロ、悟飯との組み手などはかなり厳しい。
 朝起きたら洗濯物を片付け、午前中で全ての治療を終え、昼までの少ない時間で昼食を作り、食べ終わった食器を洗ってから修行に励む。
 夕方には悟空たちより前に修行を切り上げて食事を作り、風呂を沸かし、夕食が終わったら片づけをして、それから風呂に入ってやっとこ自分の時間。
 今までもしてきた事だからそう苦痛ではないのだけれど、今回はちょっと密度が濃い。
 慣れるまで苦労するだろう。
 修行の休憩中にちょっとフラフラしていると、気が利く悟飯が心配そうにに声をかけた。
「お母さん、疲れてるんじゃないですか?」
「あー……だいじょぶ。確かにちょっと疲れてはいるけどね」
「明日、少し息抜きしたらどうですか? ブルマさんの所に行くとか」
「うーん……」
 確かに息抜きにはなるだろう。
「無理してると、疲れて倒れちゃいますよ?」
 悟飯の言う通りだ。
 倒れちゃ意味がない。
 こくんと頷き、明日はカプセルコーポに遊びに行こうと決めた。



 電話で連絡をし、カプセルコーポに向かう。
 悟空はとてもつまらなさそうな顔をしていたが、夜には戻るからと約束してなんとかなだめ、出かけた。

「こんにちはー!」
 中へ通してもらい、廊下にいたブリーフ博士に挨拶する。
「おお、ちゃんか。ブルマならリビングにおるよ」
「ありがとうございます。ところでベジータ、ここにいるんですよね?」
「おるよ。今は重力室で訓練しとるんじゃないかなあ」
 なるほどと頷く。
 でもベジータに会ったところで文句を言われそうだし、まあ出会わない限りはそっとしておいた方がいいだろう。
 リビングに入ると、コーヒーの匂いがしてきた。
「こっちこっちー」
「ブルマ」
 手招きされ、お邪魔しますをしてからソファに腰を下ろす。
 すぐさまコーヒーが出てきた。
 テーブルの上にはケーキ。
 思わずごくりとノドが動く。
「も、もらっていいの?」
「当たり前じゃない。なに遠慮してんのよ」
 キラキラ目を輝かせ、は生クリームで綺麗に飾られたショートケーキを前に、フォークを握りしめる。
「い、頂きます!!」
 フォークを刺し、ぱくっと口に入れる。
 甘いクリームと苺の酸味がとっても美味しい。
「おいし……幸せ〜」
 幸せそうにケーキを頬張るに、ブルマはちょっと呆れ顔。
「ケーキぐらいで……」
「パオズ山じゃあケーキ屋さんなんてないもん。帰るときに買いだめしようかと思うぐらい」
「自分で作ったりは?」
「うー。だって、お店の方が美味しいんだもん」
 ケーキにはこだわりがある。
 確かに自分でも作るけれど、やっぱり美味しいものはプロのものの方がいい。
「それにしても、あんた疲れてるみたいねえ」
「うーん、まあ確かに少しは疲れてるかも」
 界王星と自宅を行き来しながら修行していた頃より、洗濯物の数は多いため、ちょっとは疲れてる。
 ……否、結構疲れてるのかも。
 所詮は慣れの問題だが。
「ところでブルマ。ベジータってここにいるんでしょ?」
「え、ああ。いるわよ。って言っても、主に重力室にいるんだけど」
 あそこ、と窓側を示されてそこから下を覗きこむと、宇宙船がある。
 今は重力室として使っているみたいだ。
 まあ、普通に生活する上で宇宙船を使用する場面なんてありえないし。
「超サイヤ人になるのに、必死になってるみたいよー」
「……プライド高いしね」
 さすがはサイヤ人の王子だ。
 未来から来た青年と、悟空の2人が超サイヤ人化できて、自分ができないのは物凄くプライドが傷つけられるのだろう。
 凄いと思う。
「はー。でもブルマ、よく一緒に生活してられるよね」
「別に暴れたりしないし?」
「……そうだろうけど。私としては、悟空をべっこべこにされた覚えがあるから、ちょっと複雑」
 最後の一口を堪能し、はケーキ皿の上にフォークを置いた。
 それと同時にドアが開く。
 あれ、と思って入口を見ると、ベジータが立っていた。
 彼はずかずか入り込み、冷蔵庫を開けると、中からミネラルウォーターを取り出して飲む。
「……ふぅ。……カカロットの女か」
「名前ぐらい普通に言ってよー」
 苦笑すると、彼は鼻を鳴らしてまた水を飲む。
 首にかけていたタオルで汗を拭い、テーブルの上に水を置いた。
「カカロットと息子はどうした」
「修行してるよ。ピッコロと一緒にね」
「……フン。おい
 本当に名前で呼ばれ、ちょっと驚く。
 ブルマはギョッとしていた。
 ベジータはそんな事に頓着せず、出入り口に立つと、に背を向けたまま言い放った。
「キサマはサイヤ人じゃない。そうやって顔色を悪くして訓練しても、なんの意味もない。……少しは周りに流されず、自分の状況を見極めて修行するんだな」
 目を瞬くに見向きもせず、ベジータはそれ以後、完全な無言の状態で部屋を出ていった。
 思わずブルマに聞いてしまう。
「……な、なんかあったの? 今のって、私を心配して……たよね」
「そうねえ。でもアイツ、こう、いまいち言う事が嫌味っぽいのよねえ」
 コーヒーを飲むブルマ。
 はなんだか、ベジータへのイメージがちょっと変わってしまった。
 ……なんていうか。
 あれはあれで、優しい人、なのかも。


 少し遅くなってパオズ山に着いたは、家の扉を開けてちょっと驚いた。
 ……食事の支度ができている。
 キッチンにいた悟飯が、山盛りの白米を椀に盛りながら言う。
「お帰りなさい、お母さん。ちょうど夕ご飯の支度ができたんですよ」
「え、え……あの。悟飯が作ったの?」
「お父さんと一緒に作りました。……って言っても、お父さんは外で焼き魚したんですけど」
 大きな魚を捕ってきて、小分けしてから焼いたのだろう。
 食卓には油の乗った魚の肉が、どすんと置いてある。
 部屋にいたらしい悟空がリビングに来た。
「おけえり。腹減ったぞ〜。悟飯、飯にしようぜ。も食うだろ?」
 にこにこした顔で言われ、は驚きながら食卓に着く。
「……ありがと」
 ぺこりと2人にお辞儀をし、部屋の端の方に座っているピッコロに笑みかけた。
「「「いただきまーす!」」」

 その日、食器洗いも悟空と悟飯がやってくれたのだが。
 ……主に悟空は、食器をバリバリと壊していた。
 力加減をお願いします。




緩急話。次回いきなり3年後に飛びます。
2006・8・25