おかえりなさい 2



「ひゃー、久しぶりだなー」
 家に帰ってきた悟空は、総計すると恐らく1年どころか2年近く帰っていない自宅に、ちょっと感動を覚えているようだった。
 考えてみれば、一番最初のサイヤ人、ラディッツが来てからずっと帰ってきていない。
 あの世で1年。
 そこからベジータ、ナッパと闘って重傷を負い、そのまま病院で寝泊り。
 更に病院から宇宙船でナメック星へ向かい、更に帰ってくるのに1年。
 ……やっぱり2年近く帰っていない計算になる。
「なあ、。オラの寝床、捨てちまってねえよな?」
「当たり前でしょ。悟空のベッドを捨てちゃったら、私だってどこで寝ればいいか分からないじゃない」
 悟空とのベッドは一緒。
 捨てるはずがない。
 第一、帰ってくると分かっているのだから、彼の私物のひとつたりとも捨ててはいない。
 悟空はドアを開け、家の中へ入る。
 後ろにいた悟飯も駆けて入った。
「……ピッコロは? 中入りなよ」
「う、ウム……」
 凄く妙な顔をされたが、ピッコロはの招待に乗って家に入った。



 家の中は、1年前とそう変わりはないはずだ。
 あちこち中を見ていた悟空がリビングに戻ってきた。
 ピッコロに水を出し(お茶は飲まないそうなので)、悟飯にジュースを出していたが、悟空用にも飲料を出す。
ー、悟飯の部屋によくわかんねえ機械があんだけど」
 悟飯が首を傾げた。
「もしかして、パソコンの事ですか?」
「ぱそこんちゅーやつか? テレビみたいなの」
 問いに悟飯が苦笑いする。
 まあ、確かに悟空には謎の物体なのかも。
「あれ、いろいろと便利なんですよ」
「ふぅーん。も使えるんか?」
「まあ、一応」
 最初パソコンを買おうと思ったのは結構自分のためが入っていたのだが、考えてみればインターネットかメールぐらいかしか使わない。
 それも、なんだかの知っているものと違っていて、結構苦労した。
 ちなみに、全部カプセルコーポレーションマーク付き。
 ブラウザもメーラーも、当然の知るものなどひとつたりともない。
「今はねー、ブルマとメールで話したりするんだよ」
「……あんなハコでか?」
 ハコって。
「ま、まあ……うん、そんな感じ。それより、ピッコロどこに寝かそうか」
「あー、そうだなぁ」
 いきなり話題に出され、腕を組んで仏頂面をしていたピッコロの表情が少し動いた。
「オレは外でいい」
「え、そんな、ピッコロさん」
 悟飯が眉を寄せる。
「私がどっか別の場所で寝るとかいう方法もあるし……」
「ダメ!」
 の提案に、悟空が物凄い勢いで反発した。
 あまりの勢いに悟飯とは2人で顔を見合わせる。
「な、なんで?」
「ダメだったらダメだ! オラはヤダぞ! と一緒に寝る!」
 …………。
 だ、駄々っ子。
 ピッコロが宇宙最強の男(現時点では)のお子様っぽい様子に目を見開く。
「お、おい悟飯。こいつは以前からこうなのか」
「ええと。はい、結構……こんな感じです」
 あははーと後頭部に手をやりながらいう悟飯に、ピッコロが深々とため息をつく。
 物凄く強いのに、どうしてこう、昔から全く変わらない部分があるのだろうか。
 闘っている時とそうでない時に雲泥の差がある。
「えっと、でも……」
 そうか、とはポンと手を叩いた。
「そうだよ、悟飯の部屋で一緒に寝ればいいんじゃない?」
「そうだな。悟飯はそれでもいいよな!」
 にかっと笑って悟空が言う。
 悟飯に反論などあるはずもなく、こっくりと頷いた。

 使うかどうかは分からないが、とりあえず布団を悟飯の部屋に一式置く。
 それから、他に必要な物をピッコロに聞いてみた。
 どんな食べ物がいいとか、して欲しい事とか、色々。
 けれどナメック星人は水しか摂取しないし、して欲しい事もない、ときっぱり言われた。
 気を使っているという感じでもないし、もしなにかが必要なら悟飯に言うだろうと判断した。
「悟空、今日から修行するの?」
「ん、ああ。そのつもりだけど、夜には引き上げっぞ」
「そっかー。じゃあ私、明日から修行する」
 言うだろうと思っていたのか、悟空は反対するどころか、今日から一緒に修行できないのが残念なのか、少し肩を落とした。
「おめえ、今日はどうすんだ?」
「患者さん放り出してきちゃったから、ちゃんと治療する」
 言い、は診療途中で止めてしまった患者に電話をし、その人の自宅に行く事にする。
 悟空が戻ってきたから、夕食の買出しもしなくてはいけないし。
「じゃあ、頑張ってね」
「お母さんいってらっしゃい!」
「気をつけろよ」
 うん、と頷き、腕を組んで押し黙っているピッコロにも笑みかけて、近くの村へと飛んだ。



 診療を終え、村で買い物をして両腕で抱えられる限界の荷物を持って自宅へ帰る。
 まだ夕方なので悟空たちは修行しているらしく、家に灯りはない。
 誰もいない家にただいまと声をかけて入ると、テーブルの上に荷物を降ろす。
 冷蔵庫の中から料理に必要な材料を取り出すと、エプロンをつけてざかざか料理を作り始める。
 悟空がどれぐらい食べるのか計算しながら作っていくと、今までもそうだったがかなりの量になった。
 同時にお風呂も沸かしつつ。
 たいていの場合、室内のお風呂じゃなくて外の風呂に入ってもらっている。
 ……電気代とガス代がかかるという、とても日常的な理由でなのだけれど。
 夕暮れが過ぎ、夜が帳を下ろし始めた頃になって悟空たちが戻ってきた。
「ふぃー、疲れたぞー。、風呂沸いてっか?」
 おたまで中華鍋から料理を盛り付けつつ頷く。
「うん。入っちゃって。ピッコロも入っちゃえば?」
「……う、ウム」
「おめえはどうすんだ?」
「入るけど。片付け全部終わってからねー」
「……ちぇ」
 ……ちえーって、なに?

 食事を終えた悟空と悟飯。
 さすがの食いっぷりは健在で、洗い物が束になって増えていくのは半ば壮観ですらある。
 食後のお茶を出して、自身は食器を次々と片付ける。
 すっかり片付け終えるのに、1時間を要した。
 その間に悟飯とピッコロは部屋に移動していたのだが、悟空はその場にいる。
「はー、終わった終わった。お風呂入ってくるね」
「おう」
 バスタオルと着替えを持って外に出る。
 ゆっくり浸かって戻って来ると、悟空は寝室に引っ込んでいるのか姿が見えなくなっていた。
 安心したからかいつもより長風呂だったし、もう寝ているのだろう。
 お風呂後のお茶を飲んで一息つく。
 それから寝室に向かった。
 扉を開け、ちょっと驚く。
「まだ起きてたの?」
「寝てると思ったんか?」
 うん、と頷くき、ベッドの上で横になっている悟空の隣に滑り込む。
 色々な意味で疲れた日だったので、すぐにでも眠気が襲ってくる――と思ったのだけど。
「あの。悟空?」
「んー、なんだ?」
「なんだ、っていうか」
 この手は一体。
 悟空に背中を向けているを、彼は後ろ側から抱きしめている。
 それだけならともかく。
 手が動いてるんですけど。
「――もしかして、私がひとりで寝るのを反対したのって、このため?」
「だってさ。オラと寝てえもん」
 腕を緩めてもらい、悟空と向き合う。
 ちょっと顔が赤いのはご愛嬌。
「明日から修行だからね。無茶したらヤだからね」
「分かってるって。でもオラ止まるかなぁ……」
 物凄く不安な言葉を残し、悟空はに口付けた。
 ――どうか、悟飯とピッコロに声が届きませんように。


2006・8・22