帰って来る人、来ない人 一旦宇宙船にピッコロを寝かせたは、すぐさま――手当てし出した。 致命傷に近いが、まだ息がある。 元々の生命力も考えれば、なんとか保てるはずだ。 「悟飯、ブルマをお願い!」 「わ、分かりました、行って来ます!」 悟飯を背中で見送って、ピッコロの傷に専念する。 しかしも先ほどのフリーザへの異能力使用で、自身を回復すらできないほど疲弊している。 集中しているのに、一向に力が使えない。 「しっかりしてよ私……っ!」 こんな所で、悟飯の恩師を死なせてたまるもんか! 仙豆もない。 治療ポッドもない。 では残るのは自分しかない。 息を止め、自分の中で完全に休止状態になっている異能力を引きずり出す。 ヒトカケの力が、ピッコロに流れ込んだ。 ほんの少しだけ息が穏やかになるが、この状態では長くもたない。 必死になって回復を施そうとする。 「――いっ……」 手に物凄い熱を感じ、は思わずピッコロから手を離した。 見れば、腕が火ぶくれを起こしている。 無理をしたため、引き上げるための力の経路がオーバーヒートしてしまった。 フリーザとの戦いでついた傷口――既に血は止まっていた――から、再度薄く血が浮き出た。 「どうしよう……」 暫く呆然としていたが、は気持ちを入れ替え、とにかく少しでもなんとかならないかと、あれこれ宇宙船の中を探し出した。 「……悟空、大丈夫かな」 大きくため息をつく。 既に万策はつき、傷に布を当てて止血するぐらいしかできない状況になってしまったは、ピッコロの容態に気をつけながら、ひたすら悟飯が来るのを待っていた。 ……金色の戦士。 最後に見た悟空の姿は、そう形容していい状態だった。 荒っぽくて別人のようだったけれど、でも、あれは悟空だ。 おそらくはベジータが言っていた、超サイヤ人になれた、悟空。 フリーザを倒して戻ってきてくれるのが一番だが、本当に1人で大丈夫だろうか? かといって自分たちがあの場にいても、足手まとい以外の何物でもなかったのだけれど。 「――?」 違和感。 なんだろうと外を見た。 「……なんでまた、空が暗く」 どうなっているのかと呆然としているうちに、目の前から視界が消えうせた。 あれ? と思っているうちに、柔らかな風が吹いてきた。 気付けば宇宙船の中ではなく、どこか、別の場所に移動していた。 周囲にはナメック星人と思わしき者たちが。 その中に、デンデがいた。 「デ、デンデくん! なんで生き返ったのか分かんないけど、ピッコロを治して!!」 「あ、はいっ!」 お互いに訳が分からない状況のまま、とにかく怪我人の治療をする。 デンデの力で、すぐにピッコロは目を覚ました。 「あの、あなたも怪我が……治しますね」 ボロボロだった手を治療してくれた。 その間に悟飯が駆け寄ってくる。 ブルマの姿もあった。 「よかった、悟飯もブルマも無事だね!」 「お母さん……ピッコロさん!」 「……どうなってる」 ピッコロの言葉に、は首を横に振る。 私にも分からないのだと。 少し離れた場所には最長老さまがおり、彼は状況が分からない者たちに説明を始めた。 死んだはずのナメック星人、そしてベジータが生き返ったのは、地球のドラゴンボールのおかげ。 そして地球のドラゴンボールで生き返った者たちのには、最長老もおり、そのためナメック星のドラゴンボールも復活した。 まだひとつだけ願いが残っていたナメック星の珠で、デンデが願いを叶えた。 ――孫悟空というサイヤ人と、フリーザを除いた全ての者を、地球に転送して欲しい、と。 最長老は次の最長老を決めた後、静かに息を引き取った。 ブルマが悟飯に問う。 「ねえ、なんで孫くんやクリリンくんはいないのよ」 「……クリリンさんは、フリーザに殺されました。お父さんは……残って闘って、帰ってきます、きっと!」 「の、残って闘っているだと!?」 ピッコロが驚く。 悟飯は深く頷いた。 「はい。そうする事をお父さんが自分で選んだんです。多分、クリリンさんの仇を……」 「ちょ、ちょっと待ってよ。クリリンくんはフリーザにやれたんでしょ!? ならどうして一緒に生き返らなかったのよ」 そういえばそうだ、とも思う。 「一度ドラゴンボールで生き返ったものは、2度目はないそうですから」 「あ、そ……そういえばそうだったわね」 失念していたらしいブルマ。 ドラゴンボールにも、色々な制約があるらしい。 でも、どうにかしてクリリンを生き返らせたい――。 が思っていると、隣からデンデが声をかけてきた。 「あ、あの。2度目は生き返れないって、地球のドラゴンボールはそうなんですか? ナメック星のでは、自然死でなければ、多分何度でも……」 おお、と喜ぶ悟飯に。 「だ、だったら、今度またあのデンデたちのドラゴンボールで願いを叶えられる日が来れば……!!」 「クリリンも、餃子くんも生き返れる!」 手を握り合うと悟飯に、ピッコロが静かに言う。 「それにしても、孫悟空のバカは無謀にも程があるぜ……。フリーザとの力の差は明らか。勝算はゼロに近かったのに、そこまでして死にたいのか!」 と悟飯は顔を見合わせ、ふっと笑む。 「ピッコロ、大丈夫。悟空はフリーザに絶対に勝つから」 「何故だ」 「お父さんは、なれたんです」 「「超サイヤ人に!」」 ――それから暫くの時間が過ぎた。 今後の事を話していたの隣にいたブルマが、突然上を見上げた。 どうしたのかと問うが、彼女はよく分からない様子であちこち見回している。 「……え、ヤムチャ? あれ??」 「父さんを伝ってるんだね」 が言う。 ヤムチャは界王を通して、ブルマの心に直接会話を仕掛けているのだ。 どうしてブルマ固定で話しているのだろうか? その気になれば、ここにいる全員に会話を聞かせる事ができるのに。 仕方なくは割り込みをかけ、自分にも直接聞こえるようにする。 『落ち着いて聞いてくれ。悟空は……フリーザを倒した』 「ほんと!!」 はホッとし、ブルマはその場にいる全員にそれを伝える。 「孫くんさ、フリーザをやっつけたって!」 「ほんとですか! やったぁ!!」 『そ、それだけじゃないんだ』 ……倒したというのに、ヤムチャの声はひどく硬質だ。 凄く悪い予感。 『ご、悟空は必死で脱出を試みたが……ナメック星の爆発に間に合わず……死んだ』 ――うそ。 「お母さん?」 一瞬で顔色が悪くなったに、悟飯が近づく。 どうしよう、あたまがうまく、まわらない。 「お母さん、どうしたの?」 「ご、はん……お父さんが、逃げ遅れて……」 「……お父さん」 落ち込むの肩をブルマが叩く。 「だ、大丈夫よ! ナメック星のドラゴンボールで生き返れるわよ! 孫くんも餃子もクリリンくんも生き返れる!」 だけれど、復活できると理解しても胸の痛みが消えたりはしない。 死んでしまった事に違いがないのならば、やはり現時点では悟空を失っているのだから。 なんとか安堵しようとしたのも束の間、界王のため息が聞こえてくる。 彼はブルマの言葉を、あっさりと切り捨てた。 『餃子はここで生き返る事ができるが、悟空とクリリンはナメック星で生き返る。だが、そのナメック星はもうない』 は眉根を寄せた。 という事は……生き返っても宇宙空間に放り出されるわけで……となれば、生きてはいられない。 冗談じゃない! 「父さん! なんとかならないの、界王でしょう、界王!!」 娘の言葉にウッと詰まるが、界王は間を空けることなく告げる。 『どうにもならん。あそこはわしの区域じゃないんだ』 「――じょ、冗談でしょう! そんなの絶対イヤ!」 「お、お母さん!?」 は異能力を使おうとしたが――視界が歪む。 ダメだ。 傷は治ったのに、力が上手く引き出せない。 界王が慌てたように言う。 『バカ者! 今更お前が飛んでいけたとして、どうする事もできんぞ!』 「そんなの、そんなの分かってるよ! 分かってるけど……」 ぐっと唇を噛む。 死なないって、約束したのに! 泣きそうになったを見て、ベジータが鼻を鳴らす。 「フン。……少しは頭を使え。こっちの方に魂だかなんだかを呼び寄せ、生き返らせりゃいいだろうが」 「あ、そ、そうよ! そうだわ!! あんたいい事言うじゃん!!」 ブルマが大喜びをする。 は出しかかった涙をなんとか引っ込め、空に向かって大きく息を吐いた。 ナメック星のドラゴンボールは復活が早いらしい。 地球産は1年だが、ナメック星産は物凄く早く、130日感覚での復活である。 カプセルコーポレーションの庭で神龍――ポルンガ――を呼び出し、まずは魂を呼んでもらう事にする。 暫く後、ポルンガが返答した。 『クリリンという者の魂はここへ呼び寄せた。だが、孫悟空という者の魂を呼ぶ事はできん』 「な、なんで!?」 驚くに、ポルンガは平然と告げた。 『その者は生きているからだ。生者の魂だけを呼ぶ事はできん』 「い、生きてる……」 『生きておるじゃと!?』 界王も様子を見守っていたのか、突然の心に声が入り込んでくる。 「父さん、どういう……死んだって言ったじゃない!」 『あ、あんな粉々の状態で行きとるなんて……いや、別の宇宙船を見つけたのか?』 「でもお母さん。生きてるなら、どうして戻ってこないんでしょう」 うーん。 宇宙船とかが壊れた? 最長老になったムーリが、の肩に手を置いた。 「なあに。神龍に頼んで呼んであげなさい」 「そ、そうだね! じゃあまずは……クリリンを生き返らせてー!」 が神龍に叫ぶ。 目の前に、サイヤ人の防御スーツを着たクリリンが表れた。 当人はなにが起こっているのかさっぱり分かっておらず、ただ状況に唖然としている。 バラバラになった肉体と服は、特別サービスで元通りにしてくれたらしい。 ポルンガ、顔の割に凄いなぁ。 「それじゃあ、次は」 今度はブルマが叫ぶ。 「孫くんをここに連れてきておくんなさーーーい!!」 ……。 ………。 …………。 「……反応、ないね」 不安げにが悟飯を見つめる。 ポルンガが頷いた。 『ダメだ。拒否された。そのうち自分で帰ると言っている』 ――うーん、そっか。 でも、生きているのが分かったなら――。 よからぬ事を考えているに、界王が釘を刺す。 『。悟空のところへ飛ぶなんて荒業は許さんからな』 「ば、バレてるし」 「でもどうしてお父さんは」 首を傾げる悟飯との横から、亀仙人が呟く。 「浮気でもしとるんじゃなかろうな?」 ……。 『、や、止めろよ?』 一瞬本気ですぐさま飛んでやろうかと思いましたとも。 浮気してるなんて、冗談でも考えられないけど。 とにかく、悟空を呼び寄せられないと分かったため、界王の元にいるひとりを復活させる事に。 ヤムチャが復活し、その130日後に天津飯、餃子が復活。 3つ目の願いでナメック星人たちは新しい星に移り住んでいった。 という事で、フリーザ編終了です。 2006・5・19 |