宇宙旅行路 6 ――ナメック星到着まで、あと、1日。 悟空はその一日を、体を休めることに使うと言った。 修行の成果は上々。 10倍の界王拳にも耐えられるほどの力をつけていた。 はさすがに悟空ほど強くはならないが、それでも今までと比べれば格段の上達を見せていた。 自分も悟空に倣って、1日休憩をすることに決める。 重力を元に戻したので、体が物凄く軽くなった。 汗だくだったので2人交互に風呂に入り、宇宙船の中にしては豪華な食事を堪能し、後は寝るだけ。 室内灯を落とし、床に敷かれた布団に寝そべる。 布団は一組しかないので、がちんまりと悟空の横で丸まって眠っている状態だ。 悟空はほとんど裸の状態で眠っている。 寝間着がないので仕方がないことだが。 は悟空の隣に寝ながら、ふぅ、と息を吐いた。 その小さな、ため息にも似た気配に、悟空が動く。 「どうかしたか?」 「……うん、悟飯たち、大丈夫かなって」 修行中は余り考えないようにしていた。 心配しても、結局のところ、どうにもならないと分かっているからだったし、心配するよりも自分を鍛えたほうが、結果的に悟飯たちのためになるのではないかと考えたからだ。 しかしナメック星到着が目の前になると、不安が鎌首をもたげてくる。 ナメック星にはベジータや、フリーザという得体の知れない敵がいる。 最悪の事態に陥っていないとも限らない。 ――そんなことはない。無事なはず。 息子や友人たちの無事を祈れば祈るほど、不思議と不安感が膨らんで行ってしまう。 悟空は不安の表情を浮かべているに笑む。 「でえじょぶだって。悟飯、しっかりしてるし、クリリンだってブルマだってついてんだからさ」 「うん……そうだよね。フリーザっていうのにも、悟空がいれば勝てるよね」 「うーん、どうかなあ。でもさ、オラ死んでもおめえたちだけは守るかんな」 ――死んでも。 その言葉には目を伏せた。 「……?」 不思議そうな声。 は悟空の裸の胸に額を当てる。 「……やだよ」 なにが? と彼は問いながらの頭をそっと撫でた。 「悟空が死んじゃうなんて、嫌だ。あんな場面、もう見たくないよ」 あんな場面とは、ラディッツに殺された時のことだ。 悟空はがそのことを言っていると理解し、苦笑した。 「わ、悪ぃ……えっと、つい、言葉にしちまったっていうか。言葉のあやってヤツだ。おめえを悲しませるの、オラだって嫌だからさ」 「ほんとだからね、約束だからね」 は言いながら自分自身で思う。 ここで約束したからといって、真実その通りになるとは限らない。 だが――約束したことが、悟空の意志たる石垣のひとつになれば、それでいい。 死ぬか生きるかの瀬戸際には、確たる意志が必要だと、は思っている。 また悟空が屠られてしまったら。 想像するだけで身震いがする。 腹の底から体が冷えてゆく気がした。 泣きそうな顔をしているだろうと思いながら、暗闇の中で悟空の顔を見やる。 彼は、とても暖かな、いつもの笑顔でそこにいた。 不安に揺れるの口唇と、悟空の口唇が重なる。 「ん……」 髪を撫で、彼はを抱きしめた。 素肌の温もりが、肌の上を伝ってゆく。 体温がそのまま彼の意思となり、自分の魂を包んでくれている気さえした。 口唇を離した悟空は、はにかむように笑む。 「先のことは分かんねえ。オラは全力でやるつもりだし、もしかしたらフリーザっちゅーのと戦わなくてすむかもしんねえ。……多分、戦うだろうけどさ」 言う通り、敵との戦いを回避できる状況にありそうにはない。 だからこそ、不安なのだけれど。 「でもさ、オラ頑張るから。おめえにとって、オラや悟飯や、友達が死ぬのが辛いのと同じように、オラも、おめえたちが死ぬなんて嫌だから……だから、約束する」 悟空の口唇から言葉が発せられた。 約束という名の、鎖。 「オラ、死なねえよ。だから、おめえも死ぬな」 迫る脅威に対して、あまりにも小さな小さな約束の言葉。 それでも、時として願いは、思いは驚異的な強さや奇跡を発揮する。 だからこそ――2人は互いに約束を交わした。 決して死なないと。 宇宙の幾多の星の中、2人を乗せた宇宙船はナメック星へと飛び続ける。 戦いを無機質に運ぶ箱舟のように。 2006・3・14 |