宇宙船内に異音が響き渡ったのは、もう少し重力を上げようかという話になっている折だった。



宇宙旅行路 5



「な、なに、一体……」
 突然の警戒音。
 はコクピットに駆け寄ると、赤いランプのついている計器を確認する。
『Out Of Orbit』
「……軌道を外れた?」
 航路表示モニタを出し、道筋を確認してみると――確かに。
 悟空が隣にやって来て首をかしげた。
「どうかしたのけ?」
「どうもこうも……軌道を外れてる」
「軌道……?」
 首をかしげている悟空を横目に、は窓の側へ駆け寄る。
 一気に血液が下にさがった――気がした。
 逡巡する暇もなく、コクピットに戻るとすぐさま機会をいじくり始める。
 しかし既に軌道はずれてしまっている上、元の軌道に戻るにしても避けられない障害がひとつ。
 まだ遠いが、既に目視できる距離にその星はある。
 星といっても、確認できる情報上では、地球のような星ではない。
 炎で構成されている、一種の小規模な太陽に見える。
 あれこれと考えさせてくれる時間はなく、は軌道修正をすると、悟空に向き合う。
「悟空、この宇宙船、小さな太陽をかすらないと、元の道に戻れない」
「な、なんでだ?」
「分からないけど……とにかく話は後。で、悟空にお願いがあるの」
 なんだと首をかしげる悟空。
 は彼を下の階に連れて行くと、宇宙服に着替えさせる。
 その間に強化ワイヤーを腰ベルトにがっちりとくくりつけた。
 不思議そうにしている彼に、外に出るための区画へ入るよう指示した。
「悟空、外に出たら上に登って、星が近づいてきたら思い切りかめはめ波を、星とは逆の方向に思い切り撃って。私は中から、船体とあなたをシールドで覆うから。星を抜けたら直ぐに戻ってきて」
「どうするんだ?」
「悟空のかめはめ波で、無理矢理もとの軌道に戻すの」


 上部――正確には船体の横――に移動した悟空の気配をさっすると、は彼のかめはめ波が撃たれる前に再度コクピット前に立ち、修正された軌道を見やる。
 ブルマならば軌道計算を簡単にできてしまうのだろうが、自分にその学はない。
 もしかしたら、もっと安全で確実な方法があるのかも知れないが、には思いつかなかった。
 丁度悟空とほぼ同じ位置に立ち、息を整える。
 ――以前の私の力量なら、悟空1人を支える事で精一杯。
 では、今はどうだろう。
 宇宙船全部に害をおよばさざるようにし、加えて悟空を護る。
 簡単ではないが、どちらも欠けさせてはならない。
「こんなところでつまずいてたら、とうてい皆と肩を並べられないもんね」
 気合を入れ、近づいてきた星から、悟空と宇宙船を護るための防御壁を張る。
 上部で気溜りの気配がし、数瞬後に一気に宇宙船が加速した。
 青い炎のような気の奔流に合わせて、船体のスピードが上がる。
 は異能力を全開にして、船と悟空を護った。
 赤く纏わりついてくる炎の壁を突っ切るように、船は速度を上げる。
 防御壁を壊さんとする勢いの熱気を何とか耐える。
 船内にいるよりも、船外にいる悟空のほうが辛いはずなので、泣き言など言えない。
 窓から差し込んでくる光はひどく明るい橙色で、しかも熱い。
「ん……ぐっ」
 両手で体を抱きしめ、外部の侵略に耐える。
 目をつぶって必死に耐えて暫く――ふっと外圧がなくなった。
 瞳をゆるりと開くと、窓から差し込んでいた橙色の光はなくなっており、推進力も通常の物に戻っていた。
 悟空のかめはめ波で進んでいるわけではない。
「……通り過ぎた……?」
 力を維持しつつ、窓に寄る。
 進行方向とは逆の方向に、過ぎるべき炎の星がある。
「よかったぁ」
 ホッとし、シールドを外すと地下へ降りて悟空を迎える。

 彼は隔壁区画の中で消毒を受け、室内へと入って来てすぐに宇宙服を脱いだ。
「ふへぇ〜、あちかった」
「ご苦労様。おかげで元の道に戻れたよ」
 心底ほっとして言う
 悟空はふへぇと息を吐く。
「よかったぞ。これで行き過ぎてたら、笑えねえとこだったさ」
「確かに」
 くすくす笑い、2人で上部へと戻る。
 先ほどまでの警戒音はなく、静かな空間が戻ってきていた。
さぁ、チカラ上がってんじゃねえか?」
 手首を軽くほぐしながら言う彼に、は首をかしげた。
「そうかな。まあ、前よりは……でもまだまだ」
「オラももっと頑張んなきゃなぁ」
 2人ともども気合を入れなおし、修行に戻る。


 ちなみに。
 何故軌道が外れたかというと、強力な磁気を持つ惑星に中てられたためなのだが、それをや悟空が理解することはなかった。


2006・3・10