「ふっ……宇宙って、もっとこう……ふわふわ浮くイメージが…あったんだけ、どっ……くぅ……お、重い……!」 が呻く。 悟空はそれより幾分か楽そうに 「仕方ねえ……だろっ。なんたって……修行中……なんだかんな……っくはー!」 宇宙船の中で、腹筋する2人が居たりする。 宇宙旅行路 2 宇宙。 それはの世界では、エリートのみが行ける場所。 星たちが瞬くその世界に、と悟空はいた。 ナメック星へと向かって飛び出した宇宙船の中、彼女たちは修行に明け暮れている。 片道6日。 その間で、敵に対する力をつけなくてはいけないので、寝ている暇もないほどだ。 悟空もも順調に訓練をこなしている。 目下のところ、基礎鍛錬に余念がない。 腕立て、腹筋、ランニング。 にとって20倍重力下での訓練は、悲鳴を上げんばかりに辛いものだった。 しかし、隣で訓練している悟空を見ていると、いかに自分が楽な行動をしているか分かろうというもので、泣き言も悲鳴も上げなかった。 彼と同じ腹筋回数はできない。 彼と同じ腕立てはできない。 にしてみれば、自分がいかに無力かを見せ付けられているようではあったが、これは仕方がない事だと割り切る。 「ふぃー……悟空、私、ちょっとご飯作って食べてきちゃうね」 「ああ。オラは修行続けてっかんなー」 「はーい」 黙々と腕立てを続ける悟空を背後に、は宇宙船下部へと移動した。 後で大量に作る事もあるだろうが、今の所、悟空はメシより修行のようだ。 キッチンと寝床があるその場所は、まだ使用した事がなかった。 むしろ、寝床などは何度使うか分からない。 修行に明け暮れ、下手すると1度使用すればいいだけだからだ。 「さーてと。なにしようかな」 冷蔵庫を開け、中にある物で、作れそうな献立を考えていく。 自分しか食べない(はず)ので、軽い物でいいだろうと、中から卵ひとつ、それからカンパンを取り出す。 卵をスクランブルエッグにすることにし、フライパンを取り出した。 「うわ!」 思わず卵を落としそうになり、慌ててキッチンの上に置くと、両手でフライパンを掴みにかかる。 「……な、なにコレ」 フライパンがやたらと重たい。 ハンマーでも持ち上げているような。 ぐぎぎと音を立てそうな動作で、フライパンを電気コンロの上に乗せる。 少々息を荒くし、それから卵を片手に持って――気付く。 この宇宙船全体に、20倍の重力がかかっている事を。 「うっわぁ……大変だよ……」 思わずスクランブルエッグを諦めようかと考えたが、腕のトレーニングと割り切って考え、料理を始めた。 油を引き、卵を割ってフライパンの上へ。 さいばしを使ってかき混ぜる。 左手でフライパンの柄を掴み、少し浮かせて前後に揺するが、この行動が辛い。 少しでも力を抜くと、一気に落下する。 手首がぎりぎりと鈍い痛みを感じるが、とにかく無視して一心に卵をかき混ぜ続けた。 すっかり焼けた頃、今度は出来上がったスクランブルエッグを小皿に移す。 さくさくと洗物をし、床にへたり込んだ。 「……はぁ、変に疲れた……」 カンパンをかじり、スクランブルエッグを咀嚼して食べる。 作る苦労に比べ、食べるのはひどく簡単で短かった。 「、でえじょうぶだったか?」 上の階に戻ったが、腕立てをしている悟空に問われる。 「ん? なにが??」 も腕立てを再開しながら、疑問を口にした。 お腹が一杯になって、少しだけ体力が戻っている。 こう重力負荷がかかっている状態では、食後のまどろみなど皆無だ。 「さっき、下でなんか騒いでたみてえだからさ」 「聞こえちゃってた?」 苦笑し、腕を曲げる。 息をなるべく止めないようにしつつ、腕を伸ばす。 背中には、大きな象から小さめの象に変化したぐらいの重みがかかっていた。 もっとも、は象を背中に乗せたことなどないので、感覚的な表現だが。 悟空も同じはずなのだが、彼はより筋力があるため、多少なりと楽に見えてしまう。 「料理するのにフライパン使ったんだけどね。重力かかってるから、やたら重くって」 「ああ、そっかー。料理する時は普通の重力に戻したほうがいっか?」 気遣いの言葉。 は首を横に振る。 「いいの。あれも訓練の一貫だと思うことにするよ……悟空の足手まといになっちゃいけないしね」 言い、ぐっと顎を引いて腕を曲げ――伸ばす。 汗がぽたりと床に落ちた。 と悟空は、順調に20倍の重力をものにしていった。 悟空の天性の才能には遠く及ばないであるが、それでも彼の邪魔にならない程度のスピードで、鍛錬をこなしていく。 悟空が軽々と動けるようになると、そのすぐ後につくようにしても大体に動けるようになる。 宇宙は真っ暗で時間の概念が分かり辛いが、宇宙船につけられた時計が状況を教えてくれる。 ナメック星まで5日半。 休みなく訓練を繰り返していたと悟空に、見知った声が届いたのはその頃合いだった。 2005・2・21 |