宇宙旅行路 1



 西の都、カプセルコーポレーション。
 敷地内の広い庭が見えた辺りで、筋斗雲は高度を下げ、乗っていた2人が飛び降りるとまた上昇し、青空へと消えていった。
 すとん、と軽い音を立てて地面に着地した2人は、とりあえず周囲を見回した。
 宇宙船らしき物は見当たらない。
「家ん中で作ってんのかなあ」
 悟空が、の腰にまわしていた手を外しつつ言う。
 も見た限り、宇宙船と思わしき物は発見できなかった。
 カプセルコーポの敷地面積はかなりあるし、割合高めの建造物があったりもするので、それらが遮蔽物となって、見えないのかも知れなかった。
「多分、外にあるとは思うんだけど」
 もし家の中などの建造物中で作っている場合、飛び出す際に、上部を開閉する装置まで作らなくてはいけない。
 そういう場所があるのかも知れないが、それだったら、最初から外で作っていた方がいい気がする。
 ――雨が降らない限りは。
 とりあえずブリーフ博士を探うことにし、家に向かおうと足を向けて直ぐ。
 花壇の間辺りから、声がかかった。
「あらま、悟空ちゃんとちゃんじゃない」
 ひょっこりと顔を出したのは、ブルマの母。
 あらあらまあまあと言いながら、彼女は2人の前に立った。
 はお辞儀をする。
「どうも、お邪魔してます」
 実の娘のようにを扱うブルマ母は、にこにこと笑みを浮かべたまま、
「そんな他人行儀にしないでちょうだいな。寂しくなっちゃうわ」
 気安い雰囲気を押し出しつつ言った。
 続けて、ブルマ母は悟空に笑顔を向ける。
「体はもうすっかりよろしいの?」
「うん、ぜんぜん大丈夫だ。でさ、ブルマの父ちゃんに頼んどいた宇宙船の改造、できてっかな?」
「どうかしら〜。まだ何かやっていたみたいだけど……とにかくついていらっしゃいな」
 ブルマ母は、悟空との真ん中に入ると、2人と腕を組んだ。
 微妙に動き辛い……。
 ブルマ母は、目的地につくまで、おいしいケーキ屋を見つけて嬉しかったことなどを話し続けていた。
 曰く、悟空ちゃんたちがサイヤ人をやっつけてくれなかったら、見つけられなかった、と。
 ……実にマイペースである。

 そうこうしている間に、目の前に巨大な球体が現れた。
 悟空とが目を瞬かせる横で、ブルマの母が博士を呼んだ。
「あなたー! 悟空ちゃんとちゃんがいらしたわよー!」
「おーおー、もう治ったのか悟空くん。仙豆っちゅうのはほんとに凄いもんらしいな〜」
 球体の中から出てきたブリーフ博士は、まあとりあえず中へ来いとばかりに、背中を向けた。
 ブルマ母は、飲み物とプーアルたちを連れてくると言い、組んでいた腕を外してその場から立ち去った。
 と悟空は宇宙船の中に入る。
 中は広い空間で、これがあのサイヤ人たちの乗ってきたものと、同型の宇宙船が原型とは思えないほどだ。
 悟空は両腕を広げて上を仰ぎ見る。
「すっげえなあ。これならバッチリ修行ができそうだ!」
「苦労したぞ。殆どの部分を作り変えたしの。しかしサイヤ人たちの科学力といったら、素晴らしいものじゃったぞ」
 も中に入ってきょろきょろ周囲を見回す。
 円状の床のど真ん中に、支柱のようにして立っている太い装置。
 そこから少し離れた場所に、下へ降りる階段。
 それと、コクピットらしき椅子と機械がちんまり置かれている。
 窓は、円形のものがいくつかついていた。
 異世界で、自分が見た事がある宇宙船とは、限りなく違うとは思う。
 もっとも、サイヤ人の乗ってきた規模の宇宙船を見れば、違いは歴然としているが。
 悟空が博士から説明を受けているのを聞く限り、既に重力装置も完成しているし、飛ぶこともできるようだった。
 しかし、まだ完成には至らないらしい。
「な、なあ、どこがまだ出来てねえの!?」
 焦れる悟空が博士に問う。
 も不思議に思いながら聞いていた。
 ――博士から返ってきた答えは、
「ステレオのスピーカーの位置じゃよ」
 力を抜けさせるには、充分すぎるお答えであった。
「そ、それだけ!?」
 はガックリしつつ言う。
 かたや悟空は叫んだ。
「ス、ステレオはもういいから! オラ今すぐ出発すっから!!」
 言いながらコクピットに座る彼。
 ひとつしか椅子がないので、は地下へと下りる。
 驚いた事に畳造りだ。
 冷蔵庫にキッチンにトイレにお風呂。
 この宇宙船だけで生活できる。
 ……当たり前かも知れないが。
 上でなにやら叫んでいたかと思えば、いきなり静かになり――数瞬後、いきなり体に負荷がかかった。
「っ!」
 息を飲み、側にあったベッドのパイプに掴まる。
 ひどい揺れ。
 飛行機に乗ったときのような感じを受けた。
 実際は、それよりひどいのかも知れないけれど。
 数分後には、揺れなどなかったかのように静かになってしまったが。
 は息を吐き、下の階から上へと移動する。
 ちょうど、悟空がコクピットから離れたところだった。
「もうっ。飛ぶなら飛ぶって一声かけてよぅ……」
 彼は頭に手をやり、てへへと笑った。
「悪ぃ。急いでて声かけんの忘れちまった。……にしてもさあ、宇宙って随分くれえんだな」
 窓の外を示す彼。
 は示された場所――窓――から外を見た。
 当たり前だが、星が物凄く鮮明に見えたりする。
 カッシーニはあるのだろうかと、かなりどうでもいい事を考えたり。
「今、宇宙って夜なんかな?」
 既に修行の準備体操を始めつつ、悟空がとんでもない質問をする。
 は苦笑いをこぼした。
「宇宙ってずーっと暗いんだよ?」
「なんでだ?」
「え、えーと」
 理由など知らない。
「く、暗いから……です」
 太陽が傍にないからだとか、色々考えた結果、全く答えになっていない答えを返す。
 が、悟空は気にせず、
「ふーん」
 納得したような、そうでないような声を出した。
「ま、いいや。とにかく修行はじめねえとな」
「そうだね。私も頑張ろうっと」
 どこまで悟空に付いて行けるか、知れたものではないが。

 彼は重力装置を動かし、20倍重力の負荷をかけた。
 途端には立っていられなくなり、ぺたんと腰を落とす。
 悟空は何とか立っていられるようだが、動きは変に遅い。
「で、でえじょうぶか?」
 心配する彼。
 は、気にせず修行してくれと言った。
「うん、大丈夫。ちょっと……びっくりしただけだから」
 言い、全身に力を入れて立ち上がる。
 懐かしい感覚だ。
 界王星で『適応能力』を完全に切っていた時のものに等しい。
 もちろん、今も異能力を切っている状態だ。
 そうでなければ、重力など関係なく動けてしまうので。
「さて、修行開始!」
 勢いづけて、と悟空は修行を始めた。



2006・2・17