入院生活 1



 サイヤ人との戦いの翌日。
 西の都の病院に悟空、クリリン、悟飯の3人は入院していた。
 悟空は全治4ヶ月、クリリンと悟飯は3日あれば退院という、物凄い差のある入院生活である。
 悟空の場合は、元通りにならないかも知れないと、医師に通達されたが、カリン様が、仙豆が1ヵ月もすれば出来上がると言っているので、多分入院は1ヵ月程度になるだろう。
 はというと、入院するほどでもない傷の具合になっていた。
 まだあちこちに深い切り傷などはあるが、翌々日にはすっかり治るだろう。
 クリリンが笑う。
「しっかし悟空……お前まるっきりミイラ男だな」
 全身負傷の悟空は、ポッド型の機械に入れられ、首から上しか動けない。
「ミイラ男……確かに」
 くすくす笑いながら言うに、悟空も笑む。
「悟飯は、見た目ほど酷くないみたいで良かった。お母さん一安心」
 頭を撫でてやりたいところだが、頭部負傷もあるために自重する。
 代わりに、そぉっとほっぺたを突付いた。
 くすぐったそうに笑む悟飯は、とりあえず元気そのものだ。
 あれだけボコボコにやられてこの程度なのだから、さすが悟空の息子だと納得してしまう。
「お母さんは大丈夫ですか?」
「うん、見ての通り」
 暫く悟空の看病で、仕事の方はダメだろうけれど。
 亀仙人が持って来てくれた飲料を口にしていると、ブルマがなにやら慌しげに入ってきた。
「ねえねえ、ちょっとテレビ見て!!」
 ぱちっと音を立て、テレビがつく。
 そこにはニュースキャスターと――
「あ!! サイヤ人の宇宙船だ!!」
 クリリンの言う通り、サイヤ人が乗ってきた宇宙船があった。
 既に国の学者達が見つけて、保管しているようだ。
 持ち出すのに苦労しそうな場所である。
 しかしブルマは、そんな面倒な手続きを取る気は更々ないようで、面白そうだと、テレビに向かって、サイヤ人が使っていたらしいリモコンを操作し始めた。
 自分は天才だから大丈夫だと、なんだか物凄い根拠を口にしながら、ピピピとリモコンボタンを押す。

 が。

「……ね、ねえ。今どーんって音がしたのは……気のせいよねぇ?」
 が悟空の横からテレビを見つつ、紛れもない事実を突っ込む。
 気のせいどころか、テレビの画面上で、確かに爆発したのを確認している。
 ……気のせいだと否定して欲しいところだ。
「ひっ、ひええええーーーー!! なんで!? 今の自爆スイッチだったのかしら!!!???」
 一番驚いているのはブルマだ。
 絶対の自信を持って、ボタンを押したのだろうから。
 はガックリと肩の力を抜く。
「サイヤ人ってのは高度な科学力があるんでしょ? もしかしたら指紋照合とか……そういうのも色々噛んでたのかも」
 天才ゆえのミスというのもあるもんだ……ろう、多分。
 悟空が、テレビを見ていないながらも事態を察して、呟くようにに問う。
「き、筋斗雲じゃ……だめ、だよな?」
「宇宙空間だよ? 死んじゃうって……こっちのが異次元の地球と同じならだけど」

「おい」
「ぎゃーーーー!!!」

 ブルマの後側の窓からいきなり声が聞こえてきて、まん前にいた彼女は目玉を飛び出さんばかりに驚いた。
 特徴的な真ん丸の目。
 懐かしきやミスター・ポポがそこにいた。
 ……いや、浮いていた。
「誰かついて来い。宇宙船ある」
「へ?」

 宇宙船かどうか分からないから、誰か付いて来いというミスター・ポポ。
 彼に同行したのはブルマだ。
 他の誰でも良かったのだが、宇宙船ともなれば、科学者が必要だろう。
 ならば適任はブルマ以外にいない。
 という事で、ブルマはミスター・ポポと一緒に、俗に言う魔法の絨毯で瞬間移動していった。

「――という訳で、きっちり木星まで行けたのよ!! 宇宙船はバッチリオッケー。5日後には出発できるわよ!」
 たった1ヶ月で、ナメック星に到着できるという物凄い宇宙船は、中を少し改造して使う事になった。
 ナメック語を習得しなければならなくなったブルマは、強制同行。
 悟空は当然行けないので、ブルマ指名によりクリリンが同行決定。
 そしてもう1人。
「ぼ、ボクも是非連れて行ってください!!」
「悟飯!?」
 の横にいた悟飯が、突然言い出した。
 驚きの眼差しをしている自分に気付きながら、悟飯に顔を寄せる。
「本気?」
「本気です! お母さん、ボク、ピッコロさんをこの手で生き返らせてあげたいの」
 悟空が小さく笑む。
「そうか、よく言ったぞ悟飯」
「ちょ、ちょっと待ってよ悟飯。じゃあ私も――」
「お母さんはお父さんの看病をお願いします」
 きっぱり言われてしまい、ちょっとだけ面食らう。
 ……ほんと、凄くたくましくなった。
 彼女は暫く悟飯を見やり、小さくため息をつく。
「見送りは行くからね? それと! ……お願いだから勉強道具は持って行って」
 どんな状況でも一児の母親。
 息子の将来を考えない事はないのであった。
「えーと、それじゃあ10日後にカメハウスでね!」
 ブルマが仕切りなおすように言う。
 悟空は酷く残念そうに言った。
「オラも行きてえなぁ……」


 そして10日後。
 カメハウス前には宇宙船とクリリン、ブルマ、ウミガメに亀仙人がいた。
 筋斗雲でやって来た悟飯は、普通の服を着ていた。
「ぶははは!! お前髪型どうしたんだよ!!」
 第一声で思いっきりクリリンに笑われ、悟飯は頬を赤らめる。
 出発の挨拶をしに行った時、悟空にも笑われた。
ちゃんが切ったのか?」
 問われ、は全否定した。
「……ちょっと悟飯だけを旅行に、って村のおばあちゃんに言ったら、好意で髪の毛切ってくれたんだけど……そしたらコレに」
 好意を踏みにじる気は全くないのだが、ぼっちゃん刈りくさいのはどうなのか。
 お出かけ、イコール、ぼっちゃん刈り?
「それはそうと」
 ブルマが剣呑な目をに向けながら言う。
「異世界じゃ、宇宙船に乗るのに、こういう普通の服を着るわけ?」
「私が育った世界じゃ、宇宙船になんて乗る人は超エリートなの! それに、宇宙服なんて持ってると思う?」
「……それもそうね」
 一応は納得したのか、ブルマは深くため息をついた。

 円状の台に乗り、悟飯はに微笑む。
「それじゃお母さん、行ってきます」
「病気怪我その他諸々気をつけてね」
「はいっ」
 台はゆっくりと上がり、悟飯たちは宇宙船の中に入った。
 外からは、なにがどうなっているのか、サッパリ分からない。
………。
 暫し後、宇宙船は物凄い勢いで上昇して――消えた。
 こんな精度の高い宇宙船が、自分が育った異世界にもあったなら、サイヤ人みたいな宇宙人に出くわす可能性もあるのだろうかと考えつつ、暫く空を眺めていた。

 亀仙人が声を掛ける。
「はい?」
「茶でも飲んでいくか?」
「あー……ごめんなさい。私悟空のトコ戻んなきゃ」
 戻らなくてはいけない、というよりは、戻りたい。
 亀仙人はその辺が分かっているのか、無理に引き止める事はしなかった。
 は筋斗雲に乗り、病院へと直行する。

 飛び去ったを見て、亀仙人はウミガメに問うた。
「あいつら、新婚じゃない……じゃろ?」
「そうですけど、仲がいい事は素晴らしい事ですよ」
「…………」
 返す言葉はなかった。



2005・10・7