戦いの終わり
ベジータは撤退していった。
クリリンが止めをを刺そうとしたのだが、それは悟空の懇願によって阻まれた。
ベジータよりも絶対に強くなって倒すから、今そいつを倒さないでくれ。
今戦での一番の功労者である悟空に、そんな懇願をされてしまっては、誰が文句を言えようか。
結局ベジータは、捨て台詞を吐いて、地球から飛び立った。
その後、迎えに来てくれたブルマや、亀仙人たちと一緒に、ピッコロを始めとする遺体を乗せ、飛空艇はゆっくりと病院へと進んでいった。
はというと、悟飯をクリリンに任せて、後部で横になっている悟空の側にいた。
片腕がまだ回復しきっていないために、悟飯を抱く事が出来ないのは、情けない限りだ。
とはいえ、自分の体の回復ならば、ある程度重傷でも回復できるので、入院は必要ないだろうが。
「悟空、あんまり役には立たないだろうけど、治療しようか?」
「オラはいいから、おめえ自分を治せよ」
「だって……」
どう考えても、酷い状態なのは悟空のほうだ。
ほんの少しでも治療すれば、多少の痛みは取れるはず。
「私はそんなに酷くないもん。悟空の方が酷い。だから……」
「おめえ、腕が折れてんだろ? ……仙豆もうねえんだから」
「だって……」
「見てるオラの方が辛ぇんだよ……な?」
暫くじーっと悟空の目を見て、それからはこくんと頷いた。
全力で腕に回復を施し、おおよそ治す。
他人の体もこれぐらい出来ればいいのだが、残念ながらそれは出来ない。
能力の限界というヤツだ。
腕はともかく、体全体を癒す事はまだ出来ない。
一日二日、ゆっくり力を体に充満させれば、翌日にはすっかり元に戻るだろうが。
腕だけ治し、は悟空の額に浮かぶ汗を、艇備え付けのタオルで優しく拭ってやる。
床にぽたん、と水が落ちた。
悟空が目線を上げ、を見やる。
「……? 泣いてんのか?」
「……ごめんね。私やっぱり力になれなかったよ……」
界王の元で修行したのに、やっぱりベジータに敵わなかった。
悟空をこんなに苦労させて。
だが彼はの言葉に小さく笑んだ。
「そんなこたねえさ。おめえやクリリンや悟飯がいなかったら、オラ死んでた。感謝してる。だから泣くなって。……手、出せねえんだぜ?」
苦笑いする悟空。
手が出せない――涙を拭ってやれないのだと、彼はあんに言っているのだ。
小さく笑み、涙を拭う。
「そうだね、次もっと強くなればいいんだもんね!」
「お、お主……まだ戦う気なのか?」
驚きの声を上げたのは、悟空ではなく亀仙人だった。
は仙人を見てあっさり頷く。
「……だって、私だって仲間だもん」
……ある意味究極の答えだ。
「クリリンくん、さっきの話、一体どういう事?」
ブルマの一言で始まったのは、ピッコロたちの遺体を乗せる前に、クリリンが話そうとしていた事だった。
ベジータがピッコロを見て、『ナメック星人だ』と言った事。
そして、ナメック星という星には、どんな願いも叶うという、不思議な玉があると言った事。
つまりそれは――
「もしそのナメック星に行く事が出来たなら、ドラゴンボールが手に入るかも知れない……」
クリリンが言った。
もし本当にそうならば、ナメック星のドラゴンボールを使って、ピッコロを復活させ、地球のドラゴンボールで、殺されたみんなを復活させられる。
しかしブルマは肩をすくめ、ため息をこぼした。
「ふぅ……素人は単純でいいわね。大体、そのナメック星ってのはどこにあるわけ?」
それには悟空が考えを示した。
界王様に聞けばいい、と。
はポン、と手を打った。
「そっか……」
「今からオラが聞いてやるよ」
『ナメック星か、勿論知っておるぞ。なにせ界王というぐらいだからな』
「こ、これは凄い! わしらにも聞こえるぞ……このお方が界王様か」
亀仙人が驚いたように言う。
他のみんなも目を丸くしていた。
「界王様、みんなも聞いてるみてえだから教えてくれよ……」
『うむ、その前に一言言わせてくれ。おぬしら皆本当によくやった! 孫悟空がやられた時は、正直もう駄目だと思ったもんじゃ。たいしたもんだ』
しかし悟空は、界王拳が殆ど通じなかった事に、ショックを受けたと告げた。
界王自身、ベジータの強さは完全に誤算だったと言う。
『……さて、座標を教える前にもう1つ。……っ!』
くるかなーと思っていたは、やっぱりと大きなため息をついた。
一同の視線がに向かう。
『お前! 死にそうだと思ったら逃げると、約束したじゃろうが!!』
叫ぶほどの元気はないが、言われっぱなしはなんだか腹立たしいので、文句を言い返す。
「だって。あんな状況で逃げられるわけないじゃない……。それとも父さん、あのサイヤ人たちが私の事逃がしてくれると思った?」
『……そ、それはそうじゃが……』
途端に弱腰になる父。
と界王の関係を知らない者たちが、驚きの視線を向けて、固まっている。
代表のように亀仙人が呟いた。
「……か、界王様の娘じゃったのか、は」
「オラも死んでから知ったんだ」
悟空が苦笑いを零した。
と界王は話を続ける。
「……ごめんなさい。でも、同じ状況に陥ったらやっぱり私は同じ事すると思う。でも、悟空の判断には、ちゃんと従ったよ?」
『全く……しかも結婚してるのは聞いたが、息子がいるとは知らなんだぞ!』
「言ってなかったっけ?」
けろっと答える娘に界王がガックリくる気配がした。
なんとなく。
『こ、こほん。えー、とりあえず……座標じゃな。地球の言い方だと……SU83方位の……9045YXか』
その座標にブルマが驚きの声を上げる。
心なしか焦っているようにも見えた。
亀仙人と操縦を代わり、物凄い勢いで計算を始める。
「ねえ父さん、ナメック星ってどんなトコ?」
の問いに界王が答える。
『非常に美しい星だったんだが……随分前に酷い異常気象が起きて、その時ナメック人たちは死に絶えたと思ったが』
「星そのものは?」
再度の質問に界王は唸る。
『昔のように戻りつつあるが……ちょっと待て、調べてみる』
側にいたカリン様が、納得したように頷いた。
「なるほどな、それで、やがて神になった1人のナメック星人が、地球に逃れて来たんじゃな。当人もその事を忘れていたのは……記憶を失ったかよほどの子供だったか」
「なあなあ」
ヤジロベーが突っ込みを入れる。
「ナメック星人ってのは、どうしてドラゴンボールに異常気象を止めてくれ! って頼まなかったんだ? どんな願いも叶うんだろ?」
それには亀仙人が答える。
「神龍は、ドラゴンボールを作った者の力を超える願いは、叶えられんらしい」
それが出来るのであれば、今回来たサイヤ人を、排除してもらう事だって可能だったはずだ。
だが強大な力には逆らえない。
ドラゴンボールにも不可能はあるのだ。
どんな願いでも、というのは多分――昔の人が考えた一種の理想のようなものだろう。
もしくは、そんな窮地に立たされた事がないために、考えもしなかったか。
『おーー、おったおった! わずか百人足らずだがナメック星人がおるぞ!』
「本当!?」
が喜んで顔を上に向ける。
……上を向いたからって、父が見えるわけではないのだが。
『ナメック星人は本来穏やかな種族だ。ピッコロ大魔王というのは、地球の神が、神になる前に出会った地球人たちの、邪悪さに影響されて生み出されたもんじゃろう』
「……ピッコロ大魔王かー、私会った事ないから邪悪って言われても分からないなぁ」
ピッコロ大魔王ではなく、ピッコロには会っているけれど、と何気なく呟くと、ヤジロベーがに呟く。
「どっちも似たようなもんだぎゃ」
「えー、違うよー」
全然違う、と手を振るに悟空が小さく笑んだ。
「では、これで皆が蘇る可能性が出てきたってわけじゃ!」
亀仙人の、喜び溢れる声に異を唱えたのは、ブルマだった。
「確かにナメック星ってとこの場所は分かったわよ? でもどうやって行く気なの」
「どうやってって……宇宙船かなにかで」
クリリンが言うと、ブルマは更に食って掛かる。
「それがまるっきり甘いってのよ。試しに、父さんが作った世界最高のエンジン搭載の宇宙船で、到着するまでの時間を計算してみたわ。一体どれ位かかると思う?」
ぴ、と計算機を見せる。
数字にクリリンが目をまん丸くした。
ブルマが、見えない者にも分かるように声に出して読む。
「4339年と3ヶ月。人間長生きしなきゃねー」
どんな長寿だそれはと、思わず突っ込みを入れるだった。
「父さん、界王様! お力で何とか!!」
変な頼み方をする。
しかし大事な娘の頼みでも、こればかりはどうにもならないのか、界王は肩をすくめた。
『そ、そんな事言われたってさ……』
しん、とした静寂が流れる。
それを破ったのはクリリンだった。
「へっへっへー、その事だったら、多分大丈夫だと思うけどね! サイヤ人の乗ってきた宇宙船を使わせてもらうんだよ!」
「サイヤ人の?」
悟飯が呟く。
クリリンが更に言葉を続けた。
「ベジータってヤツの宇宙船を見たけど、どう見ても1人乗りですよ。って事は、死んだもう1人のサイヤ人の宇宙船だって、どっかにあるはず」
「そ、そっか!」
ブルマが、ぱっと明るい表情になった。
「ソレを探して分析すればいいんだわ!」
クリリンがついでにと、リモコンらしき物体をブルマに渡す。
は悟空の横からそれを見た。
なんだか小型計算機みたいだ。
「い、いけるわ……いけるわよきっと!!」
希望が見えてきたと喜ぶ一同。
界王も一安心である。
2005・9・16 |