2つの脅威 2 「避けろ!!」 ピッコロの叫びも虚しく、ナッパが天津飯の腕を、気で纏った拳で切り落とす。 は、一瞬のうちにそれが回復不能である事を理解した。 断面は綺麗だし、腕をくっつける事はできる。 ただ、それは通常の場合であり、戦闘中に出来る芸当ではない。 己の力の不足が嘆かわしいが、嘆いている状況でもない。 天津飯に近づこうとしたクリリンに向かって、ナッパのエネルギー波が飛んでくる。 「クリリン!!」 反射的に、はクリリンに直進してくる気の流れに、己の気をぶつけた。 瞬間的だったために、大して力の乗っていない気だったが、それでもナッパのエネルギー波は少々流れ、クリリンを避けて着弾した。 激しい炸裂音と共に大地に穴が空く。 「ナッパ! 後を見てみろ!!」 突然にベジータが楽しげな声を出す。 気付けば、衝撃波で吹き飛ばされていたと思っていた餃子が、ナッパの背中にべったりとくっついていた。 天津飯の顔が変わった――その時には、餃子は光り輝き――自爆を果たしていた。 は目の前で次々と起こる死に、体が強張りそうになっていた。 ここで折れてはダメだと言い聞かせると、ほんの少し体の強張りが取れる。 ピッコロがこっそりと、作戦を練って聞かせた。 「……いいか、奴は攻撃の際に一瞬隙が出来る。そこを叩くぞ」 「いい作戦だ。健闘を祈るぞ」 聞いていたらしいベジータに睨みを効かせ、 「随分と余裕ね」 皮肉ってが言ってやると、ベジータはにやりと笑った。 少々カチンくる。 「……そうやって笑ってられるのも、今のうちなんだから」 ピッコロが発言の後を引き継ぐ。 「孫悟空が来たら、そのマヌケ面の笑みを凍りつかせてくれるだろうぜ」 「……ソンゴクウ?」 とっておきなのかとニヤついているベジータを無視し、はピッコロにこっそり感謝した。 彼が悟空を認めてくれるのは、物凄く強みのある事のような気がしたから。 「はあああーーーー!!」 「今だ!!」 ナッパが天津飯に攻撃を仕掛けようとしたその一瞬に、ピッコロはナッパの横っ面を殴り飛ばした。 攻撃の隙をつかれたナッパは、対応できず、ピッコロの攻撃をマトモに喰らう。 吹き飛んだ先でクリリンが蹴り上げ、その上で待機していたが、拳を固め頭に攻撃を喰らわせる。 勢いをつけて地面に落ちていくナッパに、悟飯の攻撃が入るはず――だった。 「悟飯!! 撃て!!」 「悟飯!!」 ピッコロとクリリンが叫ぶ。 しかし悟飯は、恐怖で体が硬直しているのか震えており、落下してくるナッパの姿 見るだけだ。 「俺たちで撃つんだ!!」 ピッコロの叫びに、悟飯以外の3人が一斉に気を撃ち出すが、与えてしまった時間を有効に使わない敵ではない。 撃ち込んだ気から、あっさりと逃れてしまった。 「……っく……」 唇を噛む。 怒りに震えたナッパが標的を替えたらしい下から、天津飯が片手の気功砲を放つ。 どんな技か、は知っていたわけではない。 けれどその後、直ぐに息絶えた彼の姿を見て、その技は体に異様な負担をかける物だったと知る。 それを喰らって尚――ナッパはピンピンしていた。 化物だ。 悟空の名を呼び、早く来てくれと叫ぶクリリンの気持ちは、多分ここにいる皆が思っている事だろう。 意気揚々と攻撃を仕掛けようとしたナッパに、ベジータの声が飛ぶ。 ナッパは楽しみを中断させられて、少し驚いたようだが、ベジータはそんな事は全く気にせず、4人に質問をぶつけてきた。 「お前達が言うソンゴクウとやらはカカロットの事だな? その様子だとドラゴンボールで生き返ったらしいな……それにしても」 はははと突然笑い出し、少々ギョッとする一同。 自信たっぷりな表情のままでいるベジータが腹立たしく、は思わず叫んでいた。 「なにがおかしいのよ!」 「ラディッツにさえ歯が立たなかったあいつが来た所で、どうなるというのだ」 「この間なんかより、全然ずぅっと強くなってる」 きっぱりと言い放つ。 ベジータは、しげしげとの顔を見つめた。 「よほどの信頼だな……よし、3時間だけ待ってやる」 「な、ベジータ!!」 咎めるナッパに、きつい視線を投げかけて、彼の行動を止める。 ベジータの方が群を抜いて強いという事だろうが、そんなの、こんな時に知りたくはない。 「3時間だ。それが過ぎたら待つつもりはない。それと、そこの女」 「……なによ」 「暇つぶしにこっちへ来い」 悟飯が心配そうにを見つめる。 優しく頭を撫でてやり、精一杯の笑顔を見せる。 悔しいが、母親としてできそうな事はその程度だ。 「だいじょーぶよ悟飯。心配しないで、ピッコロとクリリンと一緒にいなさい」 「……でも」 大丈夫だからと念を押し、はベジータとナッパの近くへと歩いて寄った。 ナッパに背中を押され、ベジータの前に出る。 変に普通に座っているベジータに、は眉根を寄せた。 「暇つぶしって、なんなの」 「安心しろ。別に変な事をするわけじゃない……興味があるだけだ」 「興味って……?」 はサイヤ人という人種を、ラディッツしか知らない。 確かに、悟空はサイヤ人なのだろうけれど、彼女にとっては地球人――いや、それ以前に、孫悟空という1人の人間としてしか、扱った事はない。 彼らの考える思考など、さっぱり分からない。 怪訝な表情を向けているに、ベジータは淡々と問う。 「貴様、カカロットとはどういう馴れ初めだ」 「…………はい?」 言ってる意味がサッパリなんですが。 よほど驚いた表情をしていたのか、ベジータが小さく口の端を上げた。 「マヌケな顔をしていないでさっさと答えろ」 「こ、答えろって……なんでそんな事知りたいの?」 戦闘民族サイヤ人から出てくるセリフとは思えず、目をパチパチさせてしまう。 「単純な興味だ」 「……??」 余計に分からなくなるに、ベジータは少々語気を荒める。 「さっさと教えろ」 「イヤよ」 なにをどう知りたがっているのか知らないが、残念ながら今先ほど仲間を殺された身としては、質問にほいほい答えてやる気にはなれない。 「まあいい。どうせカカロットの事だ……貴様を無理矢理手に入れたという感じではないだろうな」 の後ろにいるナッパが、ニヤついた声で言葉を投げた。 「快楽主義のサイヤ人には考えられねえぜ」 「悟空とあんた達を一緒にしないで」 サイヤ人がどうやって結婚するのか知らないし、もしかしたら結婚なんていう制度はないのかも知れない。 けれど、自分はカカロットという男性と結婚したつもりはないし、痛めつけられて一緒になったわけじゃない。 サイヤ人だろうが地球人だろうが、関係ない。 悟空は、悟空だ。 ぐっと拳に力を入れ、ベジータを睨みつける。 睨みつけられた方は何の反応も見せず、ただ無感動にを見返した。 「……貴様は本当に地球人か?」 「意味わかんない事言わないでよ。そうに決まってるでしょ」 異世界経由もしているが、立派に地球人だ。 ベジータは暫くの顔を見つめていたが、興味を失ったのか横を向いた。 はそのまま地面に座り込み、悟空が来るのを待った――。 そして。 「時間だ」 ベジータの声が無情に響いた。 2005・6・21 |