2つの脅威 1



 その日の朝は至って普通に始まった。
 地球上のごく一部の者以外は普通に朝を迎え、そして普通に一日が終わることを信じて疑わなかった。

 午後0時過ぎ。
 は、ピッコロ、悟飯両名と共にいた。
 肌で奇妙な異常を感じ取っていた彼女は、東の都が大破したという情報が、テレビを賑やかすよりずっと前に、彼らが修行をしていた場に足を運んでいた。
 サイヤ人が最初に接触するとしたら、多分この2人だろうと考えたからだ。
 確証があったわけではないが、そこは母親。
 息子の側にいたいと願うのは、母親ゆえの欲と言うものだ。
 髪を1つにくくり、いつもより動き易い服で舞空術を使い、息子とピッコロの元へと飛んだ。

 やって来たにピッコロは一瞥をくれ、鼻先で笑う。
 そういう態度で来られる事は重々承知だったし、性格的なものだと思っても何やかんや言わないでいる。
 ここ何日かで、彼の性格はそれなりに分かっているつもりなので。
 精神集中をしているピッコロに視線を一度送り、それからその近くにいる息子・悟飯に目をやった。
 悟飯はの視線に気付いて少しまごついたが、ピッコロを気にしつつも近づいてきた。
「ね、ねえお母さん……お父さん来るよね?」
「こらこら悟飯。敵さんを目の前にする前から、お父さんを頼っててどうするの」
 こつん、と頭を拳で軽く叩くと悟飯は小さくテレ笑いを浮かべた。
「大丈夫。ちゃんと来るよ……」
 ドラゴンボールで復活は果たしているが、どれほど早く来られるかは不明だ。
 父・界王から、帰りの時間を計算していなかったという、物凄いミスをしたと、ため息混じりに聞かされたのは、サイヤ人たちがやって来る直前で。
 蛇の道を延々と帰ってこなくてはいけない悟空が、戦線に入ってくるのは、従ってどうしても遅くなる。
 それまでに、出来れば敵の体力を削っておきたい所ではあるが、実際、そんな生半可なレベルの連中でない事は知らされているし、この地を踏んでいる2人のサイヤ人の気ときたら、バカみたいに強い。
「……大丈夫だよ」
 悟飯に、というよりは自分に言い聞かせるように、は呟いた。

「あれ?」
 ふとは見知った気を感じてキョロキョロと周りを見回した。
 ピッコロと悟飯も同じように、周囲を見回している。
 とつ、と地面を踏んだ影を見て、は思わずホッとしていた。
「クリリン……」
 ピッコロは臨戦態勢だった体を少し緩めて、口の端を上げた。
「貴様か……邪魔者にでもなりに来たのか」
 辛らつな物言いにも、どこか以前とは違う和やかな空気があるのか、クリリンは笑いながら
「これでも少しは腕を上げたんだ」
 と軽口を叩いている。
「それよりさ、どうしてちゃんがここに……戦う気かよ」
「うん、まあね」
 気後れなく言う。
「そ、そんな! 悟空が反対するんじゃ……」
「死にそうになったら逃げるって約束してあるから大丈夫」
 ……筋が通っているようだが、死にそうになったら逃げられないというのは、以前ブルマに突っ込みを入れられている。

「おしゃべりはそこまでだ。来たぞ」
 底冷えするようなピッコロの声。
 上を見上げれば男が2人浮かんでいる。
 濃厚な気配を放つその2人を見て思わず呟いた。
「……サイヤ人」


 サイヤ人2人は、ピッコロの事を知っていた。
 ラディッツがつけていたスカウターが通信機になっていて、ドラゴンボールの事をも聞いて知っていた。
 にとって、ピッコロが宇宙人だと言うのは余り衝撃ではなく、そうだったのかと事実としてするりと受け入れられたのは、多分彼と過ごした時間が、余りに短いからだろう。
そもそもにとって、地球にいる人型以外の人たちは、皆宇宙人に見えるんだけれど。
「それにしても……女がいやがるとはな」
 サイヤ人の1人、ナッパと呼ばれる男がを見てにやりと笑った。
「別に、いちゃいけない訳じゃないでしょ」
 他の仲間と違って飄々としているは、もう1人のサイヤ人、べジータの興味をもそそったようだ。
「ほう、その声はカカロットの妻だな」
「だから?」
「……地球の女にしては戦闘力が高いな。度胸もいいようだ。ふん、カカロットが選んだにしては、趣味がいいじゃないか」
 なんだか非常にバカにされている気がする。
 自分がというより、悟空がだ。
 この場に至って、気後れせずに堂々としているのは、母としての強みがあるからだ。
 子供の前で逃げ腰なんて、冗談ではない。
「さて、と。ナッパ、栽培マンが6粒ほどあっただろ。出してやれ」
「お遊びが好きだな、ベジータも」
 ナッパは、何やらよく分からないものを取り出し、種のとおぼしき粒を地面に埋めると、その上から液体をかけた。
 サイバイマンとは奇妙な名前だ。
 ギャグを言うようなタイプには見えないのだが。
「お、お母さん……」
 悟飯がくいくいと裾を引っ張る。
 示された場所に目を凝らせば、土が盛り上がっているのが見える。
「……なるほど」
 思わず納得する
 その間にも<サイバイマン>は大きくなり――お世辞にも美しくない容姿を持った生命体が、地中から全容を現した。
 緑色の肌に、奇妙な赤系の目をした栽培マン。
 お友達になりたくないタイプ。

 戦列に加わった天津飯や餃子、ヤムチャなどを見て、ベジータがひとつの提案をする。
 6人の栽培マンと1人ずつ戦えというものだった。
 側は7人なのだが、ベジータは女のを数から除外する事に決めたのか、それともこちら側が負けると、最初から決めて掛かっているのかは分からないが、ともかく天津飯が1戦目を勝利し、2戦目にヤムチャが出た。


 そして。


 は、彼が自爆した栽培マンと共に、命を散らしたのを目の前で見る事になる。



2005・6・16