元気玉!!



 界王に、気のコントロールが甘いと言わしめる悟空。
 そうは言っても、その格闘センスたるや、どんな武道家でも勝てるようなものではなく。
 確実に力をつけているが、界王拳が使えるようになった後にも、修行は困難を極めた。

 空に手の平を向け、気を集める。
 徐々に集まってくる、界王星からの<元気>を受け取り、ゆっくりとその力を練り上げる――のだが。
「……っく……」
 悟空は眉根を寄せ、手の中にある元気という名の気を、何とかコントロールしようと必死になっていた。
 温かい力の流れは、ともすればあっという間に霧散してしまいそうで気が抜けない。
 額に汗が流れるのも無視して、両手に集まっている力を右手に流し込む。
 しかし――。
「っ!」
 ばちん、という音と共に両手にあった力が弾けて飛び散った。
 折角集めた元気は消えてなくなる。
 ため息をこぼして肩を落とす悟空の傍に、界王とが寄った。
「悟空、大丈夫?」
「ああ……別にどっかが痛いとかはねえから」
 頭を掻いて苦笑いする悟空に、は唸った。
 悟空が<元気玉>という技を訓練し出して暫くになる。
 彼ほどの力量をもってしても難しい技なのだから、自分には到底無理そうだ。
 界王拳も習得するのにかなり苦労したようだが、この技も相当な難度のものらしい。
 大地や空や人から、少しずつ力を借りて放つ技。
 言葉にするのは簡単だが、よくよく考えると凄まじい。
 大地や人から力を借りるということは、即ち、世界を構築する物から力を借りること。
 地球1つのエネルギーにしたって、とんでもないことになりそうだ。
 界王が口をすっぱくして、『使い方には気をつけろ』と、しょっちゅう言っているのが、分かる気がする。
 悟空は伸びをしてから、界王に話しかけた。
「なあ界王様、オラなんかまじいことしてんのかなぁ……」
 上手く行かないんだと告げる彼に、界王は答える。
「元気を集める所は問題ない。じゃが、それをコントロールするコツが、まだ掴めておらんのじゃろう。位のコントロール力があればのう……」
 いきなり自分に話が及び、思わず界王の顔を見る
 悟空も界王の顔を見た。
「コントロール力だけ見れば、の方が少々上手じゃ。じゃが、こやつは元気玉のための元気を周りから集めることができんでな」
「どういうこと?」
 の質問に界王は界王星を見回し――それから彼女を見た。
「普通はな、この星程度から元気を集めることだってできんと言うことじゃ。常人は集めることすらできん。お前は集められても、手が集まった元気で、焼けてしまうじゃろうなぁ……。残念ながら耐性がない」
「焼ける?? 耐性って……??」
 今度は悟空が質問する。
 界王は続けて説明した。

 ――そもそも気というものは体内エネルギーである。
 体内エネルギーは各個人の中に存在し、個人差は激しい。
 常人は気付くことすらない気の力であるが、悟空やは、それを引き出す術を覚えている。
 自転車の乗り方のようなもので、引き出し方を覚えれば、忘れることなどはない。
 一度使えることができたならば、体の感覚がそれを覚えている。
 忘れはしない。
 だが基本的に、体内エネルギーは個人のものであるから、力量というものはその人物の力に依る。
 が元気玉を使えない理由はここ――エネルギーは個人のもの――にあるのだ。
 悟空は、他からの気を体に受けても、大丈夫なほどの力を持っている。
 気に対する耐性というか……サイヤ人特化の力か、悟空のみの特性かは知らないが、他からの力を体に巡らせても、なんら支障がない。
 だがは違う。
 元気玉は、巨大な気を自身の体に受ける。
 そうしてから練り上げるのだが……の場合は、その練り上げる作業はともかく、 大きな気を体に受け取ることが難しい。
 手の平を基点として、全身に気を受け入れるので、許容エネルギーを超えてしまった場合は、手が焼けるように熱くなるだろう。
 ……焼けてしまう可能性の方が大いにある。
 悟空から受け取って、元気玉を作り上げることはともかく、彼女自身が最初から元気玉を作ることは不可能なのだ。
 気のコントロールはやたらと難しいし、体の中に荒ぶった気を受け入れる衝撃たるや、並大抵のものではないのだから。
 彼は普通にやってることなのだが――その辺にサイヤ人の格闘センスがあるのかも知れない。

 界王は一息つくと、ともかく、と付け加えた。
は無理じゃ。習得不可能」
「うーん、残念」
 苦笑いする
 まあ、己の能力のあり方は、異能力に起因しているところがあるから、なんとなく結果は分かっていたのだけれど。
「私と悟空を2で足して割ると、丁度いい感じなのかな……」
「まあ、そんなこと言っても始まらねえからな。気合入れてもいっちょやっか!」
 ぐっと握りこぶしを作り、少し離れた場所へと移動してまた空に手を上げる。
 元気を集めるところから始めないといけないというのは、なかなかに大変な気がする。
 実戦で使うには、少々根性が要りそうな技だ。
 ……こうやって元気を集めている間に攻撃されないとも限らないのだから。

「2人のサイヤ人が来るまでもう少し……。私も頑張らなくちゃ」
 とりあえず、次に界王星に来る時には、悟空のために、パオズ山の材料を使ったお弁当でも作ろうと決意し、は自分の修行を始めるのだった。



2005・6・7