界王の修行 7



 悟空が界王と修行を始めて暫く経った。
 は今日も仕事が終わってすぐ、界王星に飛んだ。

 何やら界王星に1本しかない道に沿って、白い柱が一定の間隔で何本も置かれている。
 悟空はその柱のある道の真ん中に立ち、何やら気を高めているようだ。
 は家の前にいる界王の側に寄る。
「……今日はなにしてるの?」
「おお、。いやなに、こやつに界王拳を教えたんで、ちょっと試させてみようと思ってな」
「カイオウケン?」
 それは技の名前なのだろうか。
 界王拳というぐらいだから、父が考え出したのだろう。
「それって強いんだよね?」
「勿論じゃ。悟空ならできるじゃろう……構想は前々からあったのじゃが、それを実際にできるような奴はおらんかったからなぁ」
 実際にできる奴がいなかった……。
 ということは。
 は首を捻って横にいる父を見た。
「じゃあ、もしかして父さんもできなかったの……?」

…………。

「コ、コホンッ。あー……その、なんだ」
「できなかったんだね」
 追撃するような言葉を言うに、界王はちょっと肩をすくめた。
「仕方なかろう……理論は立っておったが、それをできるかというと、それはちと別問題じゃったからのう……」
「そっか。でも悟空ならできるんだ……うん、さすが私の旦那様!」
 ニコニコと笑うに、ほんの少しだけムッとしてしまうのは、娘が大事だからだろうか。
 やはりどんな形であれ、娘が自分の手元から離れるというのは、気持ちのいいものではないらしく。
「……複雑じゃ」

 は自分の訓練を1時間ほどこなした後、ずっと待っている界王のところへと戻った。
 悟空はまだ気を高めているようだったが――急にがっくりと地面に膝をついた。
「はぁ……はぁっ」
「ご、悟空!?」
 力が抜けてしまったらしい彼の側に近寄る。
 治癒が必要かと思ったのだが、外部的に損傷は勿論まったくない。
 気が減った、ということでもない。
「どうしたの……?」
 不安そうに見やるに、悟空は小さく苦笑いした。
「ははっ、やっぱ難しいなぁ。そう簡単にはいかねえみてえだ」
「大丈夫?」
「ああ」
 よっと立ち上がると、体をほぐすためにか肩を回した。
 疲れという疲れはないようだが。
「どうじゃ、少しはコツが掴めたか」
 界王は2人に近寄り、悟空にそう問う。
 彼は苦笑いした。
「いやぁ……凄ぇ難しい。ちょっとずつ分かってきてる感じはあるけどさあ」
「父さん、私にはその界王拳≠チていうの、できないの?」
 じっと見つめるに、界王はほんの少し悩み、それから首を横に振った。
 無理だろう、という意味で。
 殆ど考えもせずに答えを出されて、少々眉根を寄せてしまう。
「なんで? やってみなくちゃ分からないじゃない」
「お前の戦闘スタイルとは合わないんじゃよ」

 異能力を使うは、力に頼った攻撃スタイルを習得し辛い。
 界王拳は、使用する者の基礎力を反映する。
 気を内面で激しく高め、その力を体の隅々にまで行き渡らせてコントロールする。
 力、破壊力、防御力、スピード。
 全ての戦闘に関わる力が上がる代わりに、コントロールを誤れば界王拳が瞬時に解けるどころか体に激しい負担をかけてしまう。
 負担が大きい故に乱用はできない。
 コントロール面で言えば、にもできそうなものなのだが、いかんせん界王拳は肉体的な力にも依ったものだから、彼女には向かない。

「お前が悟空と同じ程度の界王拳を使っても、おぬしは打ち負かされる。男女の身体的な差というのがあるからじゃ」
 元々持っている筋力その他を瞬間的に増幅する方法である界王拳。
 のスピードはともかくとして、筋力を上げたところでたかが知れている。
「筋力に頼った攻撃は、幾ら強化しても悟空には敵わん。残念ながらな」
「……近づくことはできても、追い越すことはできない……っていうこと?」
「まあ、そういうことじゃな」
「……うーん、そっか」
 残念そうに言うの肩を、悟空がポンと叩く。
 彼を見ると、柔らかい笑みを浮かべていた。
「いいじゃねえか。おめえには、おめえにしかできねえ事がある」
「悟空……」
にはオラと違う強さがある。今よりもっと強くなれる。それでいいじゃねえか」
「――うん」
 気遣ってくれているらしい言葉に、こくんと頷いた。
 人と同じである必要はない。
 自分には自分なりにできることがある。
 それが――そっちの方が大事。
 強さにばかり目を向けていると、大事なところが疎かになる。
 は深呼吸をして、彼に笑いかけた。
 悟空はそんな彼女の頭を撫でてやる。
「そんじゃ、頑張るか!」
「はい!」
2 人とも気合を入れなおし、は悟空の訓練する道から少し外れたところで、異能力の強化訓練を始め、彼はまた界王拳を習得しようと気を集中し始めた。
 界王は2人の様子を見やり、小さく肩をすくめる。
 ……なんだか、入り込めない空気に当てられた気がして。

「……わし、ちょっと寂しい……」



2005・4・21