界王の修行 6 界王星で修行している悟空がバブルスを捕まえた日、界王に稽古をつけてもらっていたは、1つの提案をされた。 「お前、少し悟空の修行に付き合う気はあるか?」 腰に手を当てたまま言う父・界王に、は小首を傾げ――言わんとすることを理解して頷いた。 界王はバブルスを捕まえて少し休憩している悟空を側に呼ぶ。 悟空は素直に側にきた。 「なんだ?」 「次の修行じゃが……を捕まえてもらう」 「へ? をか??」 ちょっと驚き、を見やる彼。 彼女は父を見やって口を開いた。 「私、悟空に捕まらないように逃げればいい……のかな」 「そういうことじゃ。手加減は互いのためにならんぞ」 それは充分に分かっていると頷く。 悟空と顔を見合わせる。 「えっと……よろしくお願いします」 何となしに言うと、彼は笑みを浮かべた。 「ああ、一緒に頑張ろうな!」 家の前に立った界王から少し離れ、一定の距離を取った状態で立っている、悟空と。 界王は2人を見やって、声を発した。 「よいか悟空。を捕まえればそれで次の段階へ進む」 「ああ。、本気で行くからな!」 「もちろん。私も必死で逃げるからね」 ニッコリ笑い、界王を見る。 界王はそれを受け、手を振り上げ――降ろす。 「はじめー!」 声と共にと悟空が動き出す。 追いかけっこの開始だ。 ――追いかけっこといっても、 『待てよー』 『うふふ、こっちよー』 なんていう生易しい追いかけっこではない。 重力は地球の10倍。 それに慣れた悟空は、スピードをつけてを追いかけている。 「っくそー、速えなぁ……」 思わず口をついて出る言葉に、先を行くが小さく笑う。 バックステップをしている彼女にも追いつけない悟空。 「私だって頑張ってるんだからね」 言い、くるりと正面を向いてスピードを上げる。 背中を追いかけるのがやっと。 彼女が相当ここで鍛錬を積んだ証拠だ。 悟空が蛇の道を走っている間、彼女はずっとここで修行していたから、その間の差なのだろう。 その日、界王がストップをかけるまで悟空はの近くに寄ることすらできなかった。 物凄く速い。 彼女が作った食事を口に運びながら思う。 まさかこんなに速いと思っていなかった。 バブルスよりも、少し速い程度かと悟空は思っていたのだ。 だが――とんでもない。 自分が死ぬ前と比べると雲泥の差だ。 まじまじとを見やる悟空の視線に気づいて、彼女は首を傾げた。 「どうかしたの?」 「え、ああ……今日、捕まえらんなかったからさあ」 その言葉に界王がわははと笑った。 「当たり前じゃ。おぬしより長くここで訓練しとるんじゃからな」 言い、界王はの作った料理を口に運ぶ。 悟空は唸り、食事が終わったらまた修行再開だと意気込んだのだが、それは界王によって止められた。 悟空は疑問符を飛ばした。 「メシ食ったらまた修行すんじゃねえのか?」 「バカモノ。はお主と違って死人ではない。睡眠だって必要なんじゃぞ?」 「あ、そっか」 今更思いついたみたいにポン、と手を叩く悟空。 基本的に死人に睡眠は必要ないのである。 勿論、疲れれば眠るが、それは生きる人間と違って必ずしも必要なものではない。 は何だか申し訳ない気がしてならない。 確かに死人としてここにいるわけではない彼女には睡眠が必要だし、それに仕事だってある。 ずっと界王星にいて、悟空の修行に付き合ってやることはできないのだ。 「じゃあ、オラがいない間どうしてればいいんだ?」 「グレゴリーを追いかけるんじゃ。よりは遅いがな」 「そっか……んじゃ、もっと頑張らねえとな!」 勢いづいて食事を始める悟空。 食器が山のように積み重なっていくのを見て、は腕をまくって皿洗いを開始した。 そうして何週間か経った頃。 「今日こそぜってえ捕まえるぞ!!」 猛ダッシュする悟空が背面にいることを少しだけ意識しながら、は必死で逃げていた。 全力疾走していなければ、直ぐに捕まってしまう。 毎日毎日スピードアップする彼は、凄まじい勢いで成長していると言っていい。 ビュッとスピードを乗せて伸びてくる手に捕まらないように、速度を殺さないようにして身を捻り、何とか避ける。 高いジャンプは厳禁。 あっさり彼が追いついて捕まえるだろう。 ステップでタイミングをずらし、持ち前の柔軟な体で悟空の手を避けていく。 直線での速度は、もう悟空に敵わない。 何とか隙を見つけて避けるしか、逃げる方法がなくなっている。 「ま、まだまだ!!」 は気合を込めて走る。 「オラだって!!」 ドンっと大地を蹴って追走する悟空。 互いの距離はもう殆どない。 が何かしらしくじって、少しでも速度を走るスピードを殺せば、それで決着が付く。 界王は2人を見ながら、お茶をすすった。 「うーむ、悟空はさすがじゃなあ」 サイヤ人なだけあって戦いのセンスがあると、しみじみ思った。 彼がサイヤ人だということは悟空から聞いていた。 武道のセンスでは、が彼に敵うわけがない。 しかし娘がサイヤ人と結婚していると考えると……なんだか複雑であったりするということは、界王の胸の内にしまってあるのだが。 「……折角の婿候補をリストアップしてたりしたのにのう……」 どうでもいい事を呟きながら、逃げるとそれを追走する悟空を見やった。 はその瞬間、背中に違和感を感じた。 彼女にとって悟空の気配は、物凄くよく知ったものである。 背後から追われているという気配は分かるし、それが少し離れたところであったとしても、『気』を探らなくてもいいぐらいに見知ったもので。 その気配が――追走しているはずのそれが、一瞬揺らいだ。 「え!?」 消えたのかと思ったはスピードを落とさず、それでも気になって後ろを振り向く。 ――と。 いきなり体が浮いた。 「きゃあ!! な、なに!!?」 「つーかまえたっ!」 「!?」 正面を見ると、悟空がいた。 彼はを抱きかかえていたのである。 「捕まっちゃった……うー、残念」 「へへへっ、オラの勝ちぃ」 腰に手を回して抱っこしたまま笑う。 ……悟空は確かにを背後から追っていた。 だが、直線で逃げている彼女を凄まじい勢いで追い抜き――正面に出たのだ。 彼女が悟空の気配が消えたと思ったのは、彼が気配を消さんばかりに、勢いをつけてダッシュしたから。 ちゃんと気を探れば分かったことなのだけれど、疲れてきていたのと 足ばかりに気をとられて、察知が疎かになっていたので、結果、捕まった。 界王は2人の側によると笑った。 「よしよし、ようやったぞ悟空」 「これで界王様に修行つけてもらえるな!」 「よかったね悟空」 「ああ!」 やったーと嬉しそうに笑い、をぎゅーっと抱きしめる。 慌てるに、界王が大きな咳払いをした。 しかしそれでやめるような悟空でもなく。 「……悟空、いい加減を離すんじゃ」 「? ああ」 よく分からないけれど、どことなく不機嫌さを滲ませている界王の言葉を聞いて、彼は抱きしめるのを止めた。 ちょっとホッとする。 「よし、それでは次の修行に移ろうかの。、お前は己の能力を高めることに集中するんじゃ」 「うん、分かった。悟空の修行しっかりね!」 地球の命運がかかっているのだからと念を押し、は自主トレのために、少しはなれたところへ行く。 悟空は首を傾げた。 「なあ界王さま。もしかしなくても、かなり強くなってるか?」 「スピードだけだと思ったのか? 多分今のおぬしよりは強いはずじゃぞ」 「うへえ……オラ頑張らねえとな。護れねえ」 かりかりと頭を掻く悟空に、界王は笑い、そして構えた。 「さあ、かかってこい!!」 2005・3・5 |