界王の修行 4 五体全ての感覚を常に意識しながら、高めた気を体に留める。 は毎日毎日、あきれ返るほどの回数を――界王星から戻ってからさえも――ずっと訓練していた。 鍛錬が行き過ぎて倒れることもあったが、それでも止めたりしない。 さすがに仕事中は、気を表に引っ張ってきていると、異能力――治癒力――が使えなくなるのでやめていたが。 気を一時に引っ張り上げることにも大分慣れた。 界王は体に気を纏わせて自然にしている彼女に向かって、新たに説明を始める。 「よいか。今お前は気を表にして扱っている。普段座を占めている異能力は、今は裏側に潜んでいる状態じゃ」 「……裏側」 言われてみればその通りである。 2つの力は本来独立したものだ。 まさに表裏の関係として、の体の中に横たわっている。 超能力――異能力がどういう性質を持っていて、どういう位置づけをされているかなど、考えた事はなかった。 あまりに自然に使いすぎていたから。 界王は言葉を続けた。 「お前、気と異能力を一時に使ったことがあるか?」 「えっと……1度だけ」 確か悟空の兄であるサイヤ人と戦った時に、だめもとでやってみたことがある。 威力は相当なものがあったような気がするが……。 「そうか。これから、気を訓練しながら次の修行……気と異能力の融合をさせる」 「どうやって……第一そんなことが」 できるのかと聞こうとし、一度だけとはいえできたのだから、不可能ではないのだろうと口をつぐんだ。 父親の言うことが今まで無駄だったことはないし。 「でも、どうやって」 問うに界王は腕を組んで考え――ぴ、と地面に指を示した。 その場所に柱が現れる。 「気を高めたままの状態で気弾を撃ってみろ。ただし、お前の異能力――物質破壊力を気に混ぜて」 「混ぜる……って言われても」 「1度やってみたことがあるんじゃろ? 深く考えず、その時の感覚を思い出してやってみろー」 やってみろと言われ、少々迷いながらも気弾を打ち込む。 「やっ!!」 の右手から発せられた青白い気は、柱を的確に捉え、派手な音を立てて破壊した。 しかし界王は首を横に振る。 「ダメじゃダメじゃ。それじゃ単に気を撃ちだしてるだけに過ぎん」 「……うーん」 界王はもう一度、と柱を立て直した。 異能力はほとんど無意識下で使っている力で、今までそれと認識したことは、あまりなかった。 気と能力は別個のものだと勝手に思い込んでいたし、それが合わさるなんて、ラディッツの時のことがなければ考えられないことだと思っていたに違いない。 しかし実際に気と能力の融合は、はラディッツの着ていた防御スーツに、ダメージを与えるほどの力を発揮した。 ――あの時、自分はどうやった? まじまじと手を見――拳を作る。 意識の下層にあるであろう異能力を意識して上に持ち上げる。 気を使うように使えれば……。 ゆっくりとした動作で右手を岩の柱に向けて突き出し――気を溜める。 その際、異能の力を気に纏わりつかせ―― 「行けぇ!!!!」 撃ち込んだ。 破壊音と共に、石の一片すら粉々に吹き飛ぶ。 「おおーー!」 界王が横でぱちぱちと拍手をした。 はというと慣れないことをしたためか、前傾姿勢で膝に手をやって、息を弾ませている。 何だか、最初の頃、一気に気を放出した後の感覚にちょっと似ていた。 気弾を放った後に、体中に疲労が廻っていく感じがある。 これも慣れれば克服できるようになるのだろうか……。 そうでなければ、乱発はできない。 考えている内容を何となく察したのか、界王が声をかける。 「なぁに、何事も慣れじゃよ。まだ力同士を混ぜるのに時間がかかるが、それだって何度もやれば大分マシになるじゃろう。これはこれとしてちゃんと修行するが、次の修行に入るかの」 「え、もう?」 「急いで強くなりたいのじゃろ? ここからは3ついっぺんにやるからの。融合力使いながら組み手……まあ実戦訓練じゃ。怪我やら打ち身やら酷くなるじゃろうから、気合入れてやれ」 「……ま、まあ怪我の類なら自分で何とかできちゃうからいいけど」 第一、痛いものは痛い。 できるなら、訓練で怪我などしたくはない。 難しい顔をしているに界王が構えた。 「さあ! かかってきてみろ」 激しい打ち合いの音。 と界王の攻防は時間が経つほどに激しさを増して続いた。 「ほれほれ! 気が散じておるぞ!!」 界王の拳がのみぞおちに入る寸前、彼女は柔軟な体を仰け反らせ、地面を蹴り上げてバク転し、何とか構えを元に戻すと、そこから体勢を低くしたまま界王に突っ込む。 突きを出すがそれは海王の手によって防がれ、弾かれる。 「たりゃーー!!」 連撃を繰り返すが、全て防がれてしまう。 「手が遅い!! それに手ばかりに気を取られると」 「わっ!」 足払いを掛けられ、すとんと腰から崩れ落ちた。 「足が弱点になる。ほれ、休んどらんと、さっさとかかってこんかい」 暫くそうして攻防を繰り返していると、の攻撃を受けながら界王が言う。 「ようし、そろそろ融合力やら気やら使ってみろ。切り替えが大事じゃぞ。お前はまだ全ての気に、異能力を混ぜるほどの力はないからな」 「うん」 ばしばしと物凄い音を立てながら攻撃をし――界王が間を少し空けた瞬間に、気弾を打ち込む。 しかしそれは融合を使わなかった気弾で、しかも彼によってあっさりと弾かれてしまった。 ――弱い。 「くぅ……今度こそ!!」 「そう何度もタダで撃たせやせんぞ!」 「きゃあっ!!」 力のこもった一撃を喰らい、の体が吹っ飛ぶ。 何とか受け身を取るが、直ぐに体勢を立て直すことはできなかった。 その間に界王は追撃する。 「わ、わ!」 「しっかりせんと強くなれんぞー!」 のんびりした声の割に攻撃は熾烈。 は攻撃を受けたり流したりしながら自分も手を出す。 何回も何回も手を出して、やっと1度当たる。その程度。 もっと――もっと強く――。 誰かを護りたいと言いながら、このままでは口だけで終わってしまう。 悟空とピッコロが必死になって戦ってくれたというのに、気絶していた自分。 そんな情けない――弱くて泣いている自分にだけは、戻りたくない。 界王が離れた一瞬の隙に、は一気に気合を込める。 「はーーーっ!」 「む!」 打ち出された気を弾こうと界王は力を込めるが、先ほど受けたものと違って、やらたと重い。 融合力が混ざっているためだ。 「おお、なかなか……じゃがまだ甘い!!」 腰をすえ、気弾を上に弾き飛ばす。 がっくりとの膝が地面についた。 「は、ぁ……はぁ……」 「よしよし。少しは使うタイミングが分かったみたいじゃの。これを続けておれば、それなりになるじゃろ。少し休むか」 「まだ……もう少し、お願い……」 折角掴んだタイミングと感覚を覚えておきたかった。 必死の思いを込めた声に界王は笑って応じてくれた。 悟空が蛇の道を走り始めて半年ほど。 やっとのことで蛇の道を終えた悟空は、界王星にたどりついた。 「……か、界王様、修行たのんます……」 10倍の重力に苦戦しながらも界王に一礼する悟空。 しかしその『界王』はペットのバブルスだと知る由もなく。 「……なぁにやってるんだお前は」 界王当人に呆れられたというのは、が疲れにより地上で寝込んでいる最中だったりした。 2005・1・13 |