修行で発覚



 舞空術を使えるようになったのは何日も前のことだけれど、今もまだ修行中の
 仕事が早く終わった日は、悟空の修行に付き合うこともしばしばであったが、今日は悟空の方がの修行に付き合うパターンだった。
 家から少し離れたところで修行する。
 家の側でもいいのだが森があったりするし、失敗して森に突っ込んだりしたら笑えない。
「んじゃ、ちょっとやってみろよ」
「うん」
 悟空に促され、気をコントロールする。
 体の隅々までに渡る力を意識しながら、自身の<気>で己の体引っ張り上げる。
 唐突にやって来る浮力感。
 バランスを崩すと体がくるんと一回転することもあったが、今回は大丈夫だったようで、均衡を保ったまま体が浮き上がった。
 最初の頃など10センチ浮けばいい方だったが、今では悟空の頭を超えられる。
 浮くのは問題ないのだが。
「このままスピード出して飛ぶのが難しいんだよね……」
「しょうがねえさ。は完全な武闘派じゃねえし、どっちかっつうと、超能力みたいな方を使うだろ? だからまだ、こなれてねえんだよ」
「うー……」
 浮いたまま悔しそうに唸るの傍に悟空も浮き、頭を優しく撫でる。
「でえじょうぶだ。オラと一緒に飛んでりゃ、直ぐに慣れるさ」
「…ん、分かった」
 気を取り直して頷く。
 悟空はそれを見て笑うと、と一緒にパオズ山周辺を飛び始めた。
 最初はゆっくり、でも段々とスピードを上げる。
 凄くゆっくりの変化だったから、は飛ぶスピードが上がっていることに、気づいていない。
 何の気なしに悟空と話をしながら飛んでいる。
「ねえ悟空、私ももう少し強くなりたいなぁ」
「そうか? じゃあオラと組み手でもしてみっか??」
 しかしはちょっと渋面を作った。
「……悟空と戦ったりしたら、私死んじゃうんじゃないかなぁ」
 ブルマからピッコロ戦のことを聞いていたは、とても彼と組み手して、無事でいられるとは思えなかった。
 勿論手加減はしてくれるだろうけど、それを考慮しても、悟空の相手になれるとは思えなくて。
 しかし彼は軽く笑った。
「そんな本気でやったりしねえよー。のこと怪我させたくねえし。それにおめえ、自分で思ってるほど弱くねえぞ?」
「どこから出てくるの? その発言の自信は」
「だってさぁ、今ちゃんとオラについて飛べてるじゃねえか」
 気のコントロールがちゃんとできてる証拠だと明るく笑う。
 言われて改めて周りをよく見た。
「け、結構スピード出てる?」
「ああ。筋斗雲よか、ちょっと遅いけどな」
 周りの風景が速い速度で流れていく。
 気持ちいい。
 暫く風に浸っていると――

「っ!!?」
「うわ! !!!??」
 悲鳴を上げる間もなく、いきなりは直滑降した。
 正確には浮力がなくなって地面――いや、山に叩きつけられそうになったのだ。
 すんでのところで、悟空が抱きかかえて、助けに入ってくれたからいいようなものの……一歩間違えば、死んでいたかも知れない。
 背筋が寒くなった。
、いきなりどうしたんだよ」
「う、うん……何か違和感が……イタタ」
「何だ、どうした!?」
「おなか、イタイ……」
 悟空の腕の中で丸くなる
 彼は急いで家近くの山村で診療所を開いている、顔見知りのタド医師のところへ飛んでいった。
 普段は舞空術や筋斗雲で村の中まで入らないのだが、が痛みを訴えているこの状況下で、悟空に普段通りに振舞っていられるはずもなかった。
 診療所につくなり扉を蹴破らんばかりに開き、叫ぶ。
「先生! がっ!」

 暫くして痛みの引いたは、タド医師の前でちょっと苦笑いした。
「ご迷惑おかけしました……」
 タドは人のいい笑みを浮かべて、診察室の外にいるであろう悟空の方を示す。
「いやいや、いい旦那さんじゃ。腹痛というだけであんなに慌るとはなぁ」
「悟空、優しいから。それに私が痛がってるのってあんまり見たことないんじゃないかな」
 何だかよく分からない弁明だと自分で思いながら口にする
 第一、弁明する意味もないのだけれど。
 少しの間を置いて再度口を開いた。
「すみませんでした。今はもう大丈夫なんですけど……原因は」
 ストレスかとも考えたが、そういう物を感じる状況下にないような気がする。
 舞空術を使ったからといって、腹痛が起きるようなものでもないし、そうであったならば、今までの修行中にだって起きていたはずだ。
 食べ過ぎでもない。
 ちょっと考え込んでいるに、タド医師が微笑んだ。
 何だか嬉しそうな気がするのは気のせいだろうか?
 タド医師は待合室にいる悟空を呼び、の隣に座らせた。
「何だ? どっか悪いのか?」
「今は痛くも何ともないんだけど……」
 2人して顔を見合わせ、それから医師の方を向いた。
 彼は2人に笑いかけると口を開く。
、おめでとう」
「?」
 何がおめでとうなんだか分からなくて、小首を傾げる。
 次の言葉は、不思議を吹き飛ばして衝撃を運んできた。

「おめでただよ。子供ができてる」

「オラの子がいるのか!!?」
 真っ先に反応したのは悟空の方。
 はビックリして唖然とし、悟空を見た。
! 子供だぞっ、子供!!」
「う、え……ホントに??」
 上手く頭が回らないに、タドは優しく言う。
「もう2ヶ月目ぐらいだろう。今後はあまりひどい運動をしてはいかんぞ。今回の腹痛は、何かとんでもない運動をしたからじゃろうな」
 確かに、舞空術はある意味でとんでもない運動かも知れない。
 知らなかったから不可抗力だが、あのままどこかに落ちていたりしたらと思うとゾッとする。
っ!」
「わ」
 悟空がぎゅうっとを抱きしめる。
 恥ずかしいやら嬉しいやらで、ちょっとしたパニックになりかかった。
「ご、悟空ってば!!」
「元気な子を生んでくれよなっ!」
「気が早いよぉ」
 言いながら、でも嬉しさが体を包む。
 抱き合う夫婦を見て、タド医師は微笑んでいた。


 そうして、何ヶ月も過ぎ。
 子供が生まれた瞬間にが発した言葉は。

「シッポーーーーーーーーッ!!!!???」

 そう。
 はその時まで悟空に尻尾があったなどと知らなかったのだ。
 生まれてきた子供に生えている尻尾を見た時、卒倒しそうになったのは、いたしかたないことだろう。
 ……実際、助産婦は卒倒した。

 悟空はというと、
「あー、シッポ生えてるなぁ……オラと一緒だ」
 と軽く言っていたという。




2004・9・7