ご対面 2




 克也と入れ違いに入ってきたチチを家へ招き入れ、お茶を出す。
 今日は思わぬ来客が多いなと思いながら、は席に着いた。
 チチの表情は明るく、シコリは何もないように思える。
 それが一時的なものか、そうでないのかには判断がつかないけれど、それでもここへ来てくれただけで嬉しく思えた。
 チチはお茶を口に運ぶと、一口、二口飲んでから湯飲みをテーブルの上に置いた。
 少々疲れているように見受けられる。
「はぁー、それにしても結構ここ遠いだな」
「チチんとこからだと、そうかもなぁ」
 悟空が笑いながら言う。
 彼はフライパン山がどこにあるか知っているから言えることだが、は詳しい位置を知らない。
 今度ちゃんと地図を確認しようと、密かに思った。
 ふぅ、と一つ息を吐き――チチは突然深く頭を下げた。
 何事かと驚いてお互いを見やると悟空に、彼女は静かに言う。
「……式、でらんなくてすまなかっただ。おら、気持ちの整理がつかねえで……」
 そういえば、ブルマはチチにも招待状を届けていた。
 来てくれないだろうと踏んではいたし、当日、やはり彼女の姿はなくて。
 残念だったけれど、女心から考えれば至極当然なことで。
 今までずっと想って来た人が、他の誰かの夫になる瞬間など見たくないだろう。
 は小さくなっているチチに向かって、笑顔を向けた。
「チチさんいいの。逆の立場だったら、私だって絶対そうしたもん。だから謝らないで」
 けれどチチには、もし悟空が自分と結婚したとして――式に出てくれと懇願すれば、絶対に来るタイプだと気づいていた。
 心中穏やかでないだろうが、それでも祝福できるような人。
 何しろ、無理矢理戦わせた自分の傷を、治してくれてしまうような人物なのだから。
「……それでな、お詫びと言っては何だが、今日はちゃんとお祝い言いたくて来ただ」
「さんきゅーなチチ!」
 悟空が笑顔で言う。
 チチもにこりと笑い、
「これ、受け取ってけろ」
 広げられたのは、カプセルケース。
 フリーズカプセルと通常カプセル。
「これって、中身は?」
 が問う。
 チチはにこやかに言った。
「悟空さが子供の頃物凄い食欲だったのを思い出してなぁ。ちゃん苦労してるんじゃないかと思ったで……中身は食料だ」
「うわ! ありがとうーーー!!!」
 思わず椅子から立ち上がり、チチに抱きつく
 悟空を知っているからこそのお祝いだと、まさにそう思う。
 一番食費が激しく飛んでいるから、これは物凄くいいお祝いだ。
 チチは予想以上の喜ばれように、何だか恥ずかしくなった。
「ちょ、さん離れるだよー」
「あ、ごめんなさいっ」
 えへへと笑い、席に戻り、悟空に『よかったよねー』と嬉しそうに語るの姿に、何故、悟空が彼女を護りたいと思い――それほどまでに固執するのか分かった気がした。
 素直で、優しい。
 本来ならば憎んでもいいような自分にすら、優しくあたる。
 自分との差がどこにあったかと言われれば――彼女は他人の痛みすら、自分のものにしてしまうことだろう。
 心底、優しくて温かい。
 チチは緩やかな笑みを浮かべ、悟空に向かって言った。
「悟空さ、を泣かしたりしたら、おらが許さねえべ」
「な、何だよいきなりぃ……」
「チチさん??」
「おら、断然の味方になるべっ!! 女同士仲良くしような!!」
 唐突に名前呼びになったことも驚いたが、味方発言にもかなり驚いた。
 嬉しいことは嬉しいから、にこやかに頷いて握手するとチチ。
 何だかよく分からないという表情の悟空は、静かにお茶をすすった。
、絶対幸せになるだよ」
「うん。大丈夫だよ、それは」
 悟空がいるから、と案に言っているのが伝わったのか、チチはくすりと笑う。
 はふとしたことに気づき、ぽん、と手を叩いた。
「ねえチチさん、今日はすぐに帰っちゃうの?」
「んや。明後日ぐらいに帰ろうと思ってるだよ」
「え、寝床は?」
 チチは手を振り、大丈夫だと言う。
「山村のタド先生っちゅーお医者様のトコに厄介になるだよ」
 以前、チチの父である牛魔王の診療をしたことがあって、それ以来の長い付き合いなのだそうだ。
「そっかあ……じゃあ克兄ちゃんに待っててもらえばよかったね」
「克兄ちゃん??」
 チチが不思議そうに問うと、これは悟空が答えた。
の友達で……ほれ、さっきチチと入れ違ぇに出て行ったやつだ」
 チチは、あぁ、と思い出す。
「あの茶色い髪をした兄ちゃんけ。兄ちゃんって……の兄貴だか?」
 違うと首を横に振る。
 確かにとってもそれに近い気はするけれど。
「凄く良くしてもらった人なんだよ。カッコイイし性格いいしで凄く人気あったんだ」
「へぇ」
 まあ、行けば会えるだろうということで、その会話はそこで打ち切ったのだが……。
 ふと横を向き、
「……で、あの、悟空? さっきから何をトゲトゲしてるの?」
 ずっと気になっていたことを口にする。
 何処の時点からかは分からないけれど、様子が変だったのは間違いなくて。
 しかし悟空はいつものキョトンとした表情で言う。
「別にオラ普通だぞ??」
「おらもそう思うだよ?」
 チチも同じようなことを言う。
 は小さくため息をこぼし、首を横に振った。
「嘘。なぁんかピリピリしてる」
「……そ、そんなことねえって」
 あははと乾いた笑いをこぼす悟空。
 は納得がいかなかったが、チチの手前、それ以上の追求は止めた。

「それじゃ、私チチさん送ってくるから」
 自宅の外で筋斗雲を待機させたまま、悟空に言う。
「ああ、そんじゃオラ家ん中にいる」
「うん、すぐ戻ってくるから」
 チチは悟空に手を振り、彼も手を振り返す。
 ぴょんと筋斗雲に乗り込むと、あっというまに山村の方向へとぶっ飛んでいった。


 1人取り残された悟空は、何だか複雑な表情をしていることに、自分自身で気づいていなかった。



2004・8・10