ご対面 翌日朝早く。 「それじゃあ悟空、行って来るね」 「ああ、気ぃつけろ」 筋斗雲で気をつけなければいけないのは飛行機程度だろうと思いつつ、はコクンと頷いた。 「昼頃には帰ってくるけど、お腹すいたら冷蔵庫に食事作って置いてあるから、それで何とか凌いでね」 「ああ」 「じゃあねー!」 筋斗雲の上で大きく手を振って、は空へと舞い上がった。 これから、近場の街へと買い物兼仕事だ。 見送った悟空はというと、パオズ山へ修行に向かって行った。 ――昼。 腹が減り始めた悟空は、修行を中断して昼食を食べに自宅へと戻ってきた。 家の裏手から表へ出ると、家の前に誰かが立っているのに気づく。 薄茶色の髪をした男。 ここには悟空の自宅以外ないし、その他でここを通るような用事といえば、パオズ山へ本格的に登っていくような者しかいない。 それにしたって山道から外れている場所なのだから、普通、来るような場合、悟空宅に用事があるとしか思えない。 悟空は小首を傾げながら、その男に声をかけた。 「よう、何してんだ?」 男は少々ビックリして振り向くと、悟空の姿を認め、少しだけ肩の力を抜いたようだ。 山に慣れた人間には見えない。 「あ……ええと、ごめん。ちょっといいか?」 「ああ」 頷く悟空に男は問う。 「ここの家に、っていう女の子がいると思うんだが……知らないかな」 「か? 今ちっと街の方に行ってんぞ」 何か用事か? 軽く問うと、男は少しだけ眉を寄せた。 別に怒っているわけではないらしく、迷っているといった方が適切だ。 悟空はあまりそんなことを気にはしないけれど。 「いや、そういうことでは……ないんだが」 「ふぅん」 しかしだからといって帰る様子もない。 少しの間があり、悟空は思いついたように笑った。 「なあ、家ん中で待ってろよ。もうそろそろ帰って来ると思うからさあ」 「いや、しかし……勝手に入るのは……」 問題があるだろうと眉根を寄せる男。 そんな彼の意思を半ば無視して、悟空は家のドアを開いた。 あっさり開いたことに男は驚いているようだが、例によって悟空は気にしない。 「でぇじょうぶだって。気にすんな!」 気にするなと言われても、とかなり困惑している男に、 「ほれ、早く入れよ」 軽口を叩き、悟空は1人でさっさと部屋の中へと入って行ってしまう。 暫く悩んでいた男だったが、取り残されてここでバカみたいに待っているのも何だと、困惑したまま家の中へと足を進めた。 家に入った悟空は即刻食事を始めた。 唖然とする男を気にもせず、が作り置きした昼食をガツガツと食らっていく。 物凄い量が彼の胃の中におさめられていく。 「……凄い食欲だな」 「ほぉか? おあ、ふぉんなふってへぇほほもふへほな」 「……何語だよ」 男は呆れ顔で悟空を見た。 ちゃんと聞き取れていたら、 『そうか? オラ、そんな食ってねえと思うけどな』 と言っているのが分かっただろうが……口に物を突っ込みながらでは無理がある。 それはさておき、食事が粗方すんだ悟空に向かって、男は自己紹介した。 「あの……俺は香坂克也と言う」 「オラ、孫悟空だ! おめえ、の友達だろ」 「何で知って……」 悟空は少しだけ道着の帯を緩めながら、ニッと笑う。 「が昨日、嬉しそうに話してたかんなあ」 「え、孫さんは……」 「悟空でいいって」 人懐っこい笑みで言われ、克也は素直に頷いて再度言葉を吐く。 「悟空はとどういう……」 「? ああ、一緒に住んでんだ」 「え!!!??」 信じられない、という顔の克也。 その克也の驚きようを不思議がる悟空。 何か変なこと言ったかと首を傾げるが、己が何か妙なことを口走ったとは思えず。 克也は一緒に住んでる発言をした悟空を見、首を振った。 「同棲か……? 信じられない。あんな大人しかったコが」 「変か? あいつ泣き虫だったけど、大人しくはなかった気がすっぞ」 悟空がに出逢った当初、彼女はすぐ泣いた。 けれど一緒に修行している時や生活をしている時――天界で一緒だった時――思い出しても、大人しいとは言えない気がする。 確かに言われてみれば、ブルマやランチたちと比べると大人しいが……最近はそうでもないし。 一緒に住んでいるから、そういうところを見る目が鈍化しているのだろうか。 うーんと唸る悟空に、克也は神妙な顔で問う。 彼にとっては一番大事かもしれない質問だ。 「悟空は……その、が好き、なんだろ? 一緒に生活してるぐらいだもんな」 「ああ! オラが好きだぞ。……おめえもか?」 首を傾げる悟空。 その様子に含むところは全く見られなくて、克也は思わず素直に頷いていた。 邪気のなさからか、そういうことを彼に言うのは躊躇われない。 「……ああ、俺も……彼女が」 「そっかあ」 「告白しようとした矢先に消えてしまったから……こうして会えるのは幸せだよ」 ある種の憂いを含んだ表情を見て、悟空は不思議な気分になった。 そうしてふと思い出す。 がいなくなった当初――自分も1人の時、同じような表情をしたことがあると。 彼は本当にが好きなのだ。 そしている間に、入り口のドアがいきなり開いた。 「ただいまぁ……って、アレ?」 「おう、。おけえり」 にこやかに出迎えてくれる悟空と、何だか苦笑いをしている克也の姿が、の目に入った。 2004・7・27 |