住居と食材



「……結局、ブルマかなり大盤振る舞いしてくれちゃった……」
 筋斗雲の上でホイポイカプセルのケースを開き、中にあるカプセルを見て、は呟いた。
 後ろから覗き込む悟空は、
「まあ、いいんじゃねえか?」
 軽く言ってのけるが。
 自分の荷物だけで済ませるつもりが、結婚のお祝いと称して、あれこれとブルマがくれた物は、結構ある。
 住居カプセルに仕事道具から家具一式、それとの私物全部。
 ――総じて結構な値段になるのに、ブルマは全く気にせず、断ろうとするに半ば無理矢理全部のカプセルを持たせた。
 よって、手元には2つのカプセルケースがある。
 落ち着いたら、ちゃんとお礼をしたい。

 式が終わってから少し遅めの昼食を食べ、直ぐに筋斗雲で出発してしてから、延々と東へ向かっている。
 食事しながら既に決めていたのだが、やっぱり住む場所は悟空が育った場所――パオズ山にしようということになっていた。
 悟空はどこでもいいと言っていたのだが、彼はどう考えても都で生活する感じではないし、第一修行する場合、都では不都合極まりないだろう。
 そういったいきさつで、と悟空は一路パオズ山へと向かって飛んでいた。

、疲れてねえか?」
「大丈夫。悟空の方が疲れてない? 私やっぱり自分の筋斗雲使おうか??」
 悟空のあぐらの上に座っている状態のは、何となく申し訳ない気分になる。
 彼だって結婚式なんていう格式ばったもので疲れているだろうに。
「いいって。オラが言い出したんだしさ」
「……ん。疲れたら言ってね?」
「ああ」
 ちゃんと言う、と笑う悟空。
 も小さく笑い、彼の胸に頭を預けた。
 風が二人を撫でる。
 西から東へ移動していくと、景色が違ってくるのが分かる。
 かなりの距離があるのだが、筋斗雲を飛ばせばそんなに長い時間でもないのが凄い。
 まだ明るい時間にも関わらず、既にパオズ山までの空路は半分を超えていた。
 夕暮れには目的地についているだろう。
「ねえ悟空、悟空の住んでたところって山の中なんだよね?」
「ああ。結構山奥だぞ」
「……行ける?」
 何でだ? と顔を覗きこむ悟空。
「ちょっと、見てみたいなぁって思って……」
「そっか。じゃあちょっと行ってみっか!」
「うん!」

 東地区にあるパオズ山付近は、西に比べれば未開の地。
 文明地区にはないものが沢山ある。
 剥き出しの自然は、一応文明世界で生きてきたにはかなり衝撃的ではあるが、今後ここで生活していくのだから、慣れねば始まらない。
 とりあえず、恐竜やらとんでもない魚やらが山にいるのは慣れてしまわねば。
、あそこだ」
 悟空が筋斗雲を昔自分が住んでいた場所へと向かわせる。
 家の前に降り立つと、彼は中へ入って行った。
 も遅れて中へ入る。
「へぇー……ここが……」
 大きくはないけれど、どこか趣のある家。
 中には寝台が一つに、家具がちょこちょこと置いてある。
 悟空は寝台に座るとに笑いかけた。
「今のオラじゃ、ちぃっと窮屈かもしんねーなあ」
 確かに、今の悟空では寝台が小さい気がする。
 眠れるかもしれないけれど、手狭なのは間違いない。
 はクスクス笑った。
「大きくなったもんね。会った頃が嘘みたい」
だってそうだぞ? オラと大差なかったんだからさぁ」
 出逢った頃のは弱々しそうだったと悟空が言う。
 その通りだ。
 あの頃、はいじめられっ子で、頑張ることを、足掻くことをしなかった。
 悟空に出逢えたから――この世界に来れたから変われた。
 自分の出自はよく分からないけれど、でも、今はそんなこと問題じゃない。
 ――幸せだから。
、そろそろ家どこにするか決めた方がいいんじゃねえか?」
「それじゃあ、えっと……ちょっとだけ下におりよっか」
「そうだな」
 流石にパオズ山の中腹以上の場所で生活する気はない。
 便が悪すぎるし、仕事に支障をきたしてしまうから。

 山のふもと近くに山村があった。
 集落として集まっている人たち以外にも、あちらこちらに家が点在しているらしい。
 悟空とは山村から外れた、パオズ山の中腹より少し下のところに家を構えた。
 山から食料調達するのに便がいい。
 山村は住居より東に暫く行った下の位置にあることになる。
 カプセルハウスというのは便利なもので、家具なんかもきちんと備え付けられている。
 私物などは後々入れるとして、とりあえず家の中を見てみる。
「部屋は寝室と居間あわせて四つ……結構でっかい。お風呂も洗濯機もついてるし」
 かなり高額な気がする。
 中国風なのが新鮮だ。
 ますますもってブルマに頭が上がらなくなると、は一人苦笑いした。
ー、オラ腹減っちまったぞ」
「そういわれれば……私も少しお腹空いた。ご飯にしよっか」
「材料あるか?」
「えーと」
 冷蔵庫をかぱっと開く。
 それなりの材料は、事前にブルマが入れてくれていたらしく入っているが。
「悟空、これで足りるかなぁ……」
「何か獲って来るか?」
「……狼とかムカデとか勘弁してね」
「んじゃ、適当なところで魚だな」
 悟空が魚を獲ってくる間に、はちゃかちゃかと料理をしていった。
 前の地球では調理なんて余りしたことはなかったけれど、ブルマの家にいる間に相当訓練した。
 カプセルコーポレーション内では料理なんて殆ど必要がなかったのだが、ブルマの母に延々と料理を頼み続けているのも気が引けて、手伝ったり自分で作ったりするようになったのだ。
 したがって、料理下手ではない。
「えっと……とりあえずこんな感じでいいかな」
 肉料理やら何やら作って皿に盛り付け、テーブルに置く。
「……悟空そろそろかなぁ」
 言った矢先、悟空が外から声をかけてきた。
、獲ってきたぞー!」
「ありが……とう……」
 ドアを開け、目の前にある物体に目を見張った。
 ……悟空の身長の半分はあろうかという、肥え太った魚。
「えーと。……焼こうか」
「ああ!」
 ……野生料理というのも勉強しなくてはいけないと、ひしひしと思うだった。

 風呂にも入り、疲れを取って後は寝るだけ。
 寝室は左右にあるうちの、入り口から見て右側を選んだ。
 といっても、そこにしかベッドがなかったからだが。
「んじゃ、寝るかー」
「そうだねー」
 電気を消してのそのそと寝室に移動し、悟空は布団に入る。
 ブルマの考慮かは分からないが、ベッドは普通のものより大きめだ。
 二人で寝ても余りある。
 ……というか、ベッドがそれ一つしかないから、必然的に一緒に寝ることになるのだが。
 子供の頃一緒に寝ていた経験があるからか、悟空は全く気にした風もないが、は少しだけ困った。
 先に布団に入った彼は、不思議そうに立っているを見た。
? どうしたんだ??」
「え、うん……何でもないよ」
 悟空は『こっちだ』と、自分の隣をぽんぽんと叩き、にぱっと笑った。
 何だか気分が緩み、彼の隣に滑り込む。
「……悟空」
「ん?」
「蹴っ飛ばしたり殴ったりしないでよね」
「あははー、でえじょうぶだって」
「ほんとかなぁ……」
「あ、
「??」
 寝ようとした時に呼ばれ、彼を見る。

 ちゅ、との口唇に彼の口唇が触れた。

「な、な……!!」
「ブルマが教えてくれた。お休みの……えーと、キスってヤツ」
「まったく」
 ブルマは何を考えてるんだか。
 赤くなる顔を彼の胸に押し付け、縮こまる。
「……恥ずかしいです」
「そっか?」
「そうなの!」

 ベッドの上で笑いあう二人。
 夜は懇々とふけていった。



2004・6・22