Wedding Panic 4 「46番倉庫……44、45……あった」 筋斗雲で上空から倉庫を確認する。 さして大きくはない倉庫だ。 見張りらしき人が外に一人いる。 ウェディングドレスの裾を風にはためかせ、裏手の窓から中をそっと覗いてみる。 中には銃を持った男が二人。 大きな段ボール箱があちらこちらに積み上げられているが、運良くは人質になっているハノを見つけることができた。 問題は、どこから入るかだ。 「……着替えてくればよかったかな」 自分の姿を見て、今更ながら後悔する。 折角ブルマが着付けてくれたし、一刻も早くハノを救出しなくてはという、ある種の切羽詰った感情に流されて着替えずにきてしまったのだが。 「汚さないように気をつけなくちゃ」 まさに純白のドレスなだけに、汚れは厳禁。 ブルマの気持ちが詰まったウェディングドレスだ、汚すことなどできない。 しかし三人をいっぺんに相手にするのは、結構厳しい。 亀仙人のように、銃弾を手で掴むなんていう人外なこともできないし。 「うーん、まずは表の一人を何とかしよう」 よし、と気合を入れると、は筋斗雲を犯人の上空に飛ばし、息を殺して待った。 (――離れた!) 入り口に張っていた男が扉から距離を開いた瞬間、は筋斗雲から飛び降り、男の背後に着地すると肘鉄を後ろから食らわせた。 「うっ!!」 痛みに呻く男のみぞおちに掌を思い切り打ち込む。 男は再度小さなうめき声を上げ、地面にひれ伏して気絶した。 「……う、うまくいった」 ほっと息をつき、男を手近な所に放置されていた縄で括り上げると物陰に横たえる。 扉に体を隠し、半身で倉庫の中の様子を覗き見た。 ……男二人。 他に仲間がいる様子はない。 もう少し様子を見るべきか――。 そう考えていた矢先、泣きべそをかいているハノに対して、男のうちの一人が五月蝿そうに銃を向けた。 更に火がついたみたいに泣き出す少女を見て、思わずカッとなった。 隠れることをやめ、一気に突貫する。 「な、なんだ!?」 「誰だ貴様!!」 男二人は突然現れたドレス姿のに驚き、一瞬対応が遅れた。 その隙に踏み込み、ふわりとドレスを舞わせながら回し蹴りを食らわせる。 「ぐはぁ!!」 男が吹っ飛ぶ間に、もう一人の男へと攻撃を仕掛けようとした時。 「っ!!」 頬を空圧がよぎった。 瞬間的に気配に反応して少し体を捻ったから大事なかったが、頬に薄っすらと一筋の赤みが差していた。 ゆっくり後ろを振り向くと…… 「合計三人じゃなくて、四人だったみたいだね……」 「その通りだ。花嫁さんがこんなトコロで何してたんだァ?」 人相の悪い男が、銃を構えてを威嚇していた。 しかしは臆することなく男を見据える。 「ハノちゃんを返して貰いにきたの」 「はっ! 冗談じゃねえ。こいつは大事な金づるなんだよ。邪魔をするなら消えてもらうぜ」 「わあぁぁん!! せんせー!!」 後ろの方で大泣きしているハノに笑顔を向け、 「大丈夫だからね」 言い――ハノに向かって銃口を向けている男に、軽い気功弾を撃ち込んだ。 男は悲鳴を上げる間もなく吹っ飛び、壁にその背をぶち当てる。 「な――」 何ごとだと口を開こうとしていた人相の悪い男を無視して、ハノを抱きかかえるとそのまま脱出しようとする。 しかし、ウェディングドレス姿でハノを抱っこし、その上で素早く移動というのは困難だった。 変に裾を踏んづけないようにと気を使ったせいでスピードが恐ろしく殺され、人相の悪い男に捕まってしまった。 「離して!!」 「そのガキを返せ!! ブッこ――ぐぼぁ!!」 セリフの途中で、人相の悪い男が非常に痛そうな声と共に真横に吹っ飛んだ。 ダンボールの中央に体が突っ込んでゆき、崩れ落ちてきたダンボールたちによってその体が埋められる。 がホッとし横を向くと―― 「でぇじょうぶか!?」 「ご、悟空……」 と同じく着替えてもいない、タキシード姿の悟空がそこにいた。 「無茶すんなあ。心配したぞ」 「うん、ゴメン……追ってきてくれたんだ……」 「あたりめえだろ?」 「ありがと……」 ハノを抱きなおし、怯えている少女に笑顔を向ける。 「もう大丈夫だよ。おじいちゃんトコに帰ろうね」 少女はコクンと頷くと、涙を拭いて、それから不安そうに聞いた。 「せんせ……ハノ、せんせの結婚式でていい?」 は間をおかずに頷いた。 「もちろん! さ、帰ろう。みんな心配してるだろうから」 悟空と、ハノの三人が外に出ると警官がやって来た。 ブルマが手配してくれたらしく、たちは何の事情も聞かれずにすんだ。 帰ってきて直ぐ、ブルマはの御色直しに取り掛かった。 折角セッティングした髪が戦った時の風圧で崩れてしまっていたからだ。 ドレス姿のまま戦って、髪の乱れ程度で済んだというのは凄いが。 「まったくもう……ああもう、ほら、ほっぺたのトコ切れてる!」 「うー……治癒治癒……」 「便利よねぇ」 ちょっとした傷なら治せてしまうのはの力の便利なところ。 ブルマは焦りながらも髪のセットを済ませ、ヴェールをかぶせた。 「結婚式前に戦う女なんて、聞いたことないわよ……さすが孫くんの妻、ってとこかしら」 「あ、あはは……ごめんなさい」 「それじゃ、行きましょう」 芝生の上に敷かれた赤い絨毯の上を歩き、神父と悟空のところまで行く。 ブルマの父のエスコートを離れ、悟空と一緒に神父の前に立つ。 もっと緊張するかと思っていたが、はそれほど緊張していなかった。 柔らかく笑んでいる悟空のおかげかもしれない。 神父が二人を見、それから言葉を口にした。 「孫悟空、あなたはこの者を妻とし、生涯愛しぬくことを誓いますか?」 「ああ!」 ……普通ははい≠ネのだが、悟空なだけに気にもならない。 「こほん。では、。あなたはこの者を夫とし、生涯愛しぬく事を誓いますか」 「はい」 「それでは、誓いの口付けを」 と悟空が向かい合う。 彼はヴェールを後ろに回し、を見た。 少々頬を赤らめているに笑いかけると、悟空はその口唇を奪った。 「この二人に祝福を」 神父の声で悟空が離れる。 頬をそっと撫で、彼はニッコリ笑った。 「」 「はい」 「ずぅっと一緒だぞ」 「――うんっ」 悟空に抱きしめられ、は涙をこらえる。 幸せで――幸せすぎて苦しくて。 2004・6・21 |