Wedding Panic 3



 有言実行の人だとは思っていたが、まさか本当に二週間で、全てを整えるとは思っていなかった。
 ブルマはあくせくと動き、逐一と悟空に確認を取りつつ、招待状から何から全部やってしまった。
 招待客は亀仙人やクリリンなど、見知った人ばかり。
 の仕事のお客は、自主的に来ているらしかった。
 ブルマには仕事客も招待すればと言われたが、一人一人に出していたら相当な人数になってしまうし、余り豪勢にやるつもりはなかたので、それは断った。
 大問題だったのは父親の界王だが……どう伝えればいいものか散々迷った挙句、結局、後で結婚した旨を通達することにした。
 もし反対されたらこれまた大変だし、第一あそこまでどうやって行けばいいのか。
 は父親の居住場所を、正確には知らないのだから。

 式は教会ではなく、ブルマ宅――カプセルコーポレーションの庭――ですることになっていた。
 ここの家の庭はむやみやたらに大きいし、別段なんの問題もない。
 あまりガチガチに形式ばったものではなく、ガーデンパーティーのようなものでいいと、側が進言した。
 教会なんて場所で式を挙げようとすれば、悟空がなにを質問してくるか分からない。
 それでなくとも、彼に堅苦しい場所というのは似合わない気がして。

「さーて、いいわよ!」
 ブルマの声に瞳を開くと、鏡の前には着飾った己の姿があった。
 不思議なもので、自分の姿だと認めるのに違和感がある。
 薄い化粧を施しているだけだが、奇妙な感じがした。
「どう?」
「う、うん……えっと、ありがとう……」
「どういたしまして! ドレスきつくない?」
「きついっていう程じゃないけど、でも堅苦しいなぁとは思う」
 しょうがないでしょー、と笑うブルマにも笑った。
 ドレスの裾を踏んづけないように立ち上がると、結った髪についた花飾りの位置を少しだけ直す。
 ふわりとした純白のドレスは、ブルマが無理矢理に仕立て屋で短時間で作らせたものだ。
 きめ細やかな細工の施されたドレスは、短時間で作られたとは思えない出来栄え。
 着ているのが己で、少し申し訳ない気もするとは思った。
「おーい」
 トントンと二度ほどのノック音の後、控えめにドアが開いた。
 クリリンと、彼に引き連れられてきた新郎――悟空の姿がそこにあった。
 ブルマがまじまじと悟空を見る。
「へぇぇ、ちゃあんと新郎らしくなってるじゃない!」
「当たり前ですよ。結構苦労したんですから、こっちも」
 クリリンが苦笑いと共にそんな事を言う。
 悟空とは、ふと目線をあわせ――笑んだ。
 普段と違った彼がそこにいるのがとても不思議であり、嬉しくもあり。
 自然と顔がほころんでしまうのだった。
「ちょっと孫くん、この子の姿見て何とか言いようないの?」
 人が気合を入れて着付けたのに、と文句を言うブルマ。
 悟空はうーんと言いながらも、をじっと見た。
「へ、変かなぁ」
 不安そうな声色で言うに、彼はニカッと笑った。
、キレーだなぁ! 服がヒラヒラしてて動きにくそうだけどさ」
「あ、あはは……ありがと……。実際動きにくいよ」
「オラも。こんなカッコじゃ動き辛えし戦えねえぞ」
 クリリンが呆れた声で横から突っ込む。
「戦わないって……」

 悟空とクリリンが部屋から出て暫く。
 別の来訪者があった。
「あの、すみません……」
「あら、何?」
 ブルマが応対する。
 式の手伝いをしてくれている、カプセルコーポレーションの女性社員の一人が、何やら困ったような顔をして部屋を覗いていた。
 何事かとが首を傾げると、その女性はブルマとに向かって一礼し事情を話す。
「あの、さんにお客様が」
 ブルマがため息をつく。
「今は大事な時なんだから……」
「私もお断りしたのですが……物凄く慌てていらして、それで……どうしようかと」
「どうする?」
 ブルマに聞かれ、はこくんと頷いた。
 折角自分を訪ねてくれた人を、無下に追い返すのは気分が悪いから。
 女性が少し後ろを向き、どうぞ、とその人物を入室させる。
「あれ、ホッグさん? こんにちは」
 ホッグなる初老の男性は、の患者だ。
 ブルマ宅ほどではないが、それなりの富豪で、ご贔屓にしてくれているお客さんである。
 お祝いに来てくれたのかと思ったが、どうも様子がおかしい。
「どうかしたの?」
「……こんな時に申し訳ないですが……ウチのマゴ、来ましたでしょうか」
「ハノちゃん? ううん、来てない……というか私は見てないんだけど」
「あぁ……ではやはり……!!」
 ガックリとうな垂れるホッグの側に寄り、彼の肩を叩くと顔をあげさせる。
 近くにいるブルマは何が何やらといった風に二人を見ていた。
「どうかしたの?」
「実は……ハノは先生の結婚式を見るんだと言って……此方へ一人で……」
「一人で!?」
 治療の際、ホッグと一緒にくっついて来ていたハノはまだ幼かった。
 同じ都の中とはいえ、西の都の治安が全てにおいて良好なわけではない。
 ホッグは深く息を吐いた。
「ワシもハノの両親も、都合で一緒には来れませんで……タクシーに乗せて、こちらへ向かわせたのですが……」
「いなくなった?」
「――これを」
 ホッグが手渡した白い紙を広げると、そこには。
「……46番倉庫に、1億ゼニー持ってこい、か」
 非情に分かりやすいというか典型的というか、警察に連絡すれば子供の命はない、ときちんと書いてある。
 は深くため息をついた。
 誘拐だ。
 ハノは自分の結婚式を見ようとタクシーで来て――誰かに誘拐されたのだ。
 以前から計画していたかどうかは分からないけれど、自分の式が引き金になったみたいで、気分が悪い。
「……うん、分かった」
 はくるりと振り向き、後ろにいたブルマに問う。
「ブルマ、46番倉庫って工業区の中の方だよね」
「え、ええ、そうだけど」
 よっし、と立ち上がると、は涙目になっているホッグに笑いかけた。
「ホッグさん、ちょっと待っててね。私に任せて!!」
 言うが早いか、は窓を開けて叫んだ。
「筋斗雲ーーッ!!」
 雲の隙間から一筋の黄色い線を引き、黄色の雲がの目の前に来た。
 何の躊躇もなく、ひょいっと窓から筋斗雲に飛び乗ると、部屋の中で唖然としているブルマに、
「ちょっと出てくる。すぐに戻るから!!」
 とだけ言い、あっという間に空へと舞い上がった。
 ……一瞬固まっていたブルマだったが、はっと我に返り――廊下へ通じるドアを思い切り開け、叫んだ。
「そ、孫くーーーんっ!!!!」




2004・6・21