Wedding Panic 1




、もう少しで西の都だぞ」
「ん…」
 トントンと腿の部分を叩かれ、意識が覚醒した。
 父からもらったネックレスの蒼い石が、朝の光を受けてキラリと光る。
「…悟空、おはよう…。眠くない? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
 にっこり笑う悟空だったが、何だか少し悪い気がした。
 自分は悟空のあぐらの上で悠々と眠ってしまったが、己を上に乗せ、お腹の辺りで手を組んで落ちないように配慮しながら、筋斗雲で西の都へと向かう彼は多分、一睡もしていないのだから。

 結婚しよう。
 互いの想いが通じ合い結婚する事にしたはいいが、何か先行きに考えがあるでもなく、とりあえず当面の事を考えた。
 はっきり言って、悟空は世の中に疎い。
 にしても、ここ数年でこっちの世界に大分慣れたとはいえ、ブルマに頼っていた部分も大きく…。
 の服やら仕事用カプセルやら、ブルマの家にあるという事も相成って、西の都――ブルマ宅――へ向かう事にしたのだ。

 スピードを上げれば、さっさと都に着いたのだろうが、悟空が一緒に筋斗雲に乗っているを気遣ってか、少しでも長く二人きりでいたいという気持ちがあってか――実際はそんな色めいた想いが彼にあったのかは判らないが、都へ向かうスピードは割とゆっくりしたものだった。
 故に朝になってしまったのだが。


 西の都、カプセルコーポレーション。
 と悟空は、筋斗雲の上から飛び降りると筋斗雲にお礼を言い、飛び去るのを見守って、それからやっとインターホンを押した。
 早朝でもない時間だからまあ起きていてくれるだろう。
 ブルマは徹夜で作業をしたりする事も……ごくたまにはあるし。
 たいていは「お肌が荒れるから徹夜は厳しいわね」、とか言っているが。
 二度ほどインターホンを押すと、男の人が出た。
「ほいほい、どなたかね?」
「あっ、おっちゃんか!?」
「ご、悟空……」
 いきなり『おっちゃん』ってどうよと思ったが、向こうは悟空の声で分かったみたいだった。
「おお! 悟空くんか。待っとれ、今開けるからの」
「ああ、悪ぃな!」
 暫く待っていると扉が開いた。
 勝手知ったる他人の家。
 は先ほどインターホンに出てくれたブルマの父、ブリーフ博士に、お辞儀とご挨拶をした。
「おはようございます。おじ様ごめんなさい、朝早く……」
「いやいや。悟空くんと一緒とは……朝帰りか?」
「ち、違いますっ!」
 いや、まあ朝帰りには違いないのだけれど……。
 慌てるに、悟空は手を頭の後ろにしながら、「朝帰りってなんだ?」とまあ無邪気な質問をしてくれる。
「い、いいから……」
 微妙に頬を赤らめ俯く
 それを不思議そうに見る悟空。
 ブリーフ博士は暫く笑った後、ブルマを呼び出した。
「あーあー、悟空くんとちゃんが来とるぞ。リビングで待っててもらうからの」
「ありがとうございます」
「さんきゅーな」
 はお辞儀、悟空は笑顔で礼となし、リビングへと歩いて行く。
 あいも変わらずだだっ広いブルマ宅を歩き、目的の部屋へと辿り着く。
 柔らかそうなソファが、の眠気を再度呼び起こしそうになる。
「んー、悟空、コーヒー飲む?」
「オラはいいや」
「そっか。じゃあ私だけ飲むね」
 備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーを作り、カップに入れて飲む。
 ブルマのも作っておいた方がいいかと思ったが、いつ来るか分からないし、冷めてしまっていたら嫌だろうから止めておいた。
「んー……ちょっと濃すぎたかな」
 ソファにぽふんと座り、外を眺める。
何となしに向かいに座っている悟空に目をやると……
「……どうしたの?」
「ん? なんでもねえよ」
「そう?」
 それでもじっとの顔を見つめている悟空。
 始終見つめられていては居心地が悪い……。
「あの、悟空」
「なんだ?」
「私、なんか変?」
 別にどこも変じゃねえぞ? と返してくれるのはいいのだけれど、ならばなぜそんな穴が開くほど見るのだ。
 徐々に顔が赤くなっていくのが分かる。
 結婚すると決めたのだから、この程度で動揺していてはお話にならないと言われるかもしれないが、この二人、別れている時間が長い。
 たとえ想いあっているとはいえ、は悟空ほど無邪気になれない。
 初恋の人。
 大好きな人。
 手を伸ばせば届くなんて、今までからしたら幸せすぎるぐらいで。
 こくん、とコーヒーを飲み干すと、カップをテーブルに置いた。
 演技がかってなければいいけれど。
 強張ってる気はする。
「悟空、あんまりじーっと見ないで……」
「なんでだ?」
「は、恥ずかしいんだってば」
「なんで恥ずかしいんだ?」
 理由まで言わなくちゃダメですか。
 は小さくなり、ぽそっと声に出した。
「好きな人にずっと見られてるのは恥ずかしいのっ」
「オラだって好きだぞ?」
 ああああ、だからそうじゃなしに。
 ……伝わってくれないのが悲しい。
 悟空の好きは本当に純粋の好きで、それは嬉しいのだけれど……
(私ばっかり照れてるのって、ズルイかも)
 幸せだからいい……のかもしれない。

 シュン、と音がしてドアが開いた。
 入り口の方を見ると、ブルマが笑顔で入ってくる。
「はぁい! おはよう二人ともっ。朝帰り?」
「……博士と同じような事言わないでよ、ブルマ……」
 げんなりしつつ彼女を見る
 悟空はよく分からないという表情をしていた。





2004・6・18