第二試合、悟空とチチ





 第一試合は天津飯が苦もなく勝ち、優勝へのコマを一つ進めた。
 どうも対戦相手とは、何かしらの因縁があるらしかったが、事をよくしらないは、単純に知り合いが勝った事を喜んでいた。
 そして、第二試合。
 悟空対――……が気にしていた、あの女の子との対戦だった。
 可愛いのに、その表情は怒りに満ちている。
 向こう様は悟空を知っているようだが、彼の方に覚えはない様子で。
 無論、は知らない。
 何しろ、こっち側の地球にいた時間が短いのだし、他の人物との接点も数少ない。
 色々考えながら、戦っている悟空と女の子を見る。
 実力は、もちろん悟空の方がはるかに上であったのだが――女の子の大声発言に、耳を疑った。

「おらの事、お嫁にもらってくれるって、約束しただぞ!!」

 これには、知り合い一同、大声で驚いてしまった。
 ですら、
「何っ、お嫁ってっ」
 と、汗をたらすほど。
 だが、当の悟空はポカンとしていた。
 どうもオヨメの意味が分からないらしく、クリリンに意味を聞いていたりする。
 ……キスも知らなかったから、分からんでもないが、とは思った。
 今や、の不安は、大きくなるばかりだった。
 ウーロンだけは、爆弾発言をした女の子が分かったらしく、見物場にいる以外の全員は会っているという。
 そんな事を話しているうちに、『悟空が勝ったら、名前を教える』という事になったらしく、彼は拳を繰り出した衝撃波だけで、彼女を吹き飛ばした。
 壁に激突した彼女は、頭をさすりながら仕方なさそうに名前を教えてやった。

 自分は、牛魔王の娘の 『チチ』だと。

 ブルマは不安そうなの気持ちを察してか、直ぐ隣にいてくれている。
 悟空は、事の事態を納得したようだ。
「あーっ!! 思い出したぞ!!」
 彼の大声に、更なる不安が募っていく。
「いった! オラ確かにヨメもらいにくるっていった!!」
「やっと思い出しただか…」
 チチは満足げに笑っていた。
 悟空の事だから、食べ物か何かとヨメを混同していたのだろうと、勝手に予測する
 ――が、次の瞬間の彼の言葉に、全てが、止まった。
 そんな、気がした。


「じゃあ、ケッコンすっか」
「んだ」


 周りの観衆が歓声を上げる中、は完全にその動きを止めていた。

 誰と、誰が、ケッコンするって??

 頭の中が真っ白になり、空っぽになる。
 知り合いも皆、呆然とし、そんな彼女の心境を察する人間は、その場にいない――と思われた。
 だが、そうではない人間が、一人、いた。
 誰でもない、ブルマである。


「ち、ちょっと待ちなさいよーーーーーッ!!」


 その声に、周りの歓声がピタリと止み、悟空とチチの動きも止まった。
 は彼の目をじっと見つめていた――それだけしか、できなかった。
 何と言えばいいのか、まだ……分からない。
 隣のブルマは怒り心頭で、悟空を睨みつけている。
「な、何だよブルマー」
「あんた! はどうすんのよ!!」
 言いながら、彼女を少し前に押し出す。
 チチの視線が刺々しく、痛い。
「へ? ケッコンて、二人とはできねえのけ?」

「「「「「当たり前だ、アホーーーーーー!!!」」」」」

 あまりの発言に、ウーロンやクリリン、ブルマたちが一斉にアホ呼ばわりする。
 チチは悟空の腕をぎゅっと掴み、離さない! という意思を秘めた目で、をじっと見ていた。
 彼女はがどんな気持ちなのか――分かっているのかもしれない。
 悟空は困ったように、とチチを見やっていた。
 ブルマの激昂はおさまる所を知らない。
「アンタねえ、が今までどんな気持ちでいたと思ってんのよ! アンタに見合うように強くなりたいって、一生懸命頑張って、勉強までして、仕事もしながら、ずっとこの日を待ってたっていうのに!!」
 ブルマの声は、怒りの余り震えている。
「アンタだって、に会って嬉しかったんでしょう!?だからっ……それなのに……っ」
 最後の方は、ブルマの方が胸一杯になってしまったようで、少々涙声になっていた。
 チチがそれを見て、痺れを切らしたのか、ビッとを指さす。

「おめえ!おらと戦うだ!!」
「わっ、私…!?」
「そうだ! 悟空さにどっちがふさわしいか決めるだよ! 勝った方が結婚する。いいべ!」
 悟空の了解も得ず、チチが言う。
 ヒートアップしているブルマが、「いいわよ!」 と勝手に言ってしまった。
 は仕方なく、闘技場に下り立った。
 アナウンサーが、戸惑いながらも場をフォローする。

「えー…で、では、これより、予定外ですが、チチ選手対……えーと…」
だ」
 悟空が教え、クリリンの側に歩いていく。
 アナウンサーが再度、発言した。

「これより、チチ選手対選手の対決を始めます。では両者………はじめっ!!」




2004・5・25