街へ出かけよう!




 ブルマが用意した部屋は、気を使ってくれたのか、大きすぎず小さすぎず、適度な広さの部屋で、四階にあった。
 クローゼットに勉強用に適した机、柔らかそうなベッド。
 靴のまま入っていくのは、外国方式だなぁと一人で勝手に思った。
 ベッドにぽふっと座り、そこから見える窓からの景色を眺める。
 チューブ道路とビルの間から、青空が見えた。
(…悟空は、修行頑張ってるかな)
、ちょっとー?」
「ブルマ?」
 驚かさないような配慮か、ノックをした上で、室内スピーカーで呼びかけるブルマ。
 はすぐさまドアまで行くと、ボタンを押してドアを開いた。
 ドアロックはかけていなかったが、問題ないだろう。
 それでも夜はかけてくれ、との事だったが。
 ブルマはポーチを腰に下げ、立っていた。
「さ、行くわよ」
「何処に??」
「決まってるでしょ、買い物よ、買い物」

「……しゅ、出世払いで……」
「気にしなくていいってば。次は洋服ね!」
 そう言うと、ブルマはを引っ張って、洋服売り場へと向かって行った。
 買い物とは、の私用の物を買うためのものだった。
 確かに何もない状態では、それこそどうにもならないので、好意に甘えてしまっているのだが…。
 しかし、量が結構な量で。
 とりあえず今までに買った物は、教材――要するに本。
 数学やら理科やら、とにかく向こうの地球でやっていた物から、裁縫だの、IC系だの、興味のあるものをとにかく。
 というか、ブルマがほいほいと買ってしまうので、止める暇もなかったりするのだが。
 荷物は、ホイポイカプセルからスクーターを出して乗っけているので、手荷物で一杯になってしまうという事はない。
 初めてホイポイカプセルを見た時はかなり驚いたが、この世界では常識らしい。
 その上、それを作っているのがブルマの家――企業だというので、大金持ちの理由もよくよく分かった。
 次に学用品などを買い、最後に、今ブルマが意気込んでいる洋服である。
「あれも可愛いわよ! あっ、こっちも似合いそう〜」
「ブルマ……ちょ…わっ」
「ほらほら! 着てみる!!」
 たんと洋服を押し付けられ、たじろぎながら試着室で着替える。
 そして、その大抵を買う事に……。
 確かに可愛くていいのだが…ずっと制服でいるわけにもいかないし。
 結局、好意に甘えてしまうしかなく…。
「…しかし孫くんも小さいけど、も結構小さいわよねー」
「…せ、成長するって、これからっ!」
 力説するに、ブルマはあははと笑っていた。

「さーて、それじゃあ、そろそろ帰りましょうかね」
「うん」
「っと、その前に…あそこのアイス屋寄っていこ。美味しいんだよ〜」
「了解っ」
 甘いもの好きなは、拒否せず、その申し出を受け入れた。
 ストロベリー味のアイスをブルマが、チョコチップ入りバニラアイスをが平らげる頃、いかにも僕たち不良です、といった感じの三人組が、ブルマとの乗るスクーターに近づいてきた。
 狙いはどうやらブルマ――らしいが、もついでに、という感じか。
「なあ、俺らとお茶しねえ?」
「ぶっ」
 は思わず噴き出してしまった。
 ………こんなにハイテク世界なのに、口説き文句はこれなのか、と。
 噴き出したに機嫌を悪くしたのか、一人を除いた二人の割合長身の男が、彼女を睨みつける。
「あぁ? 痛い目見たくなかったら、大人しく…」
「ちょっと、乱暴しないでよ!」
 ブルマが怒りの声を上げる。
 彼女の方を見ると、残った一人の男が、ブルマの腕を掴んでひねり上げていた所だった。
 なおも抵抗を試みるブルマに向かって、その男はナイフを取り出す。
 それを見たが、カッとなった。
 瞬時に、自分の目の前にいる二人の男に一撃ずつくれてやり、ふっ飛ばす。
 地面に叩きつけられた二人の男は、の攻撃を喰らった時点で、既に頭から星をめぐらせていた。
 驚いたのは、ナイフを持った男である。
「なっ…て、てめえ!」
「てめえ! じゃないわよ! ブルマを放しなさいよ!!」
 目だけで射殺さんばかりに、睨みつける。
 男は迫力に後じさりしながらも、ナイフをの方に突きつけた。
 距離があるから、問題はないが。
「うるせえ! 大人しく――」
 はナイフに意識を集中させ、最小限の力を行使した。

(壊れろ!!)

 瞬間、ナイフにはビシッと亀裂が入り、パリンと粉々に砕け散る。
「あ、え?」
 男がそれに気を取られている隙に、は男の横に回りこむと、蹴りを打ち出し、前の二人同様、地面と顔を密着させた。
「行こう、ブルマ」
「あ、う、うん……さすが孫くんの知り合いっていうか…スゴ…」
 地面と仲良くしている男三人を無視し、荷物を乗せたスクーターは、意気揚々と家路についた。


 リビングで、ブルマは例の男につかまれた腕をさすっていた。
「あの男……力いっぱい掴んでくれちゃって…」
「あー…赤くなってる…ちょっと、手、貸して」
「?」
 は集中すると、癒しの力でブルマの赤くなった部分を、綺麗に治してしまった。
 それを見たブルマは驚き、彼女の顔をまじまじ見てしまう。
「何??」
「話に聞くのと、実際見るんじゃ大違いだわ…、気功医療でもやれば?」
「え?」
 要するに、重病人とかではなく、軽い怪我とか、老人の腰痛とか、そいういうものを治してあげる仕事をすれば? という事らしい。
「それって、資格とかいる?」
「ううん、何なら、ウチの部屋貸すからさ」
「それいい! 出世払いじゃ心もとないしね」


 こうして、はアルバイト感覚で、”治療” の仕事をする事になった。
 意外にも、仕事として成り立って、有名になってしまった。
 他にも、ブルマに教えてもらって機械の修理方法を習得したり、勉強したり、修行したり、忙しい毎日を送る事に。

 一生懸命な毎日でも、悟空の事を考えない日は、一日たりともなかったが。



2004・3・4