十五年目の真実・後編



「要するに…」
 は、自分の出生について、とりあえず自分なりに考えてみた事を、界王…父親にかいつまんで話した。

 自分は、元々悟空たちのいる、こっち側の 『地球』 の子供だった。
 だが、サイキック…要するに超能力者だったために、両親に捨てられた。
 この辺はよく分からないのだが、界王のいる星に、赤子の自分は 『空間転移』 したらしい。
 三週間程、界王星で暮らしたは、界王に能力がどれ程のものなのかを予測された。
 サイキック能力は二つ。
 バリア(物を止める)能力、物質破壊(変質)能力。
 他には、怪我を治す、治癒の力。
 ある一定の条件の下で発動する、空間移動能力。
 そして、それに付随する、空間適応能力。
 重力が十倍もの界王星で、赤子が普通にハイハイできていたのは、無意識に空間適応力を発していたからだ。

 界王は赤子にミルクを飲ませて、三週間程育てたが、本来あるはずのない、心に語りかける能力や、遠くを見通す、いわゆる千里眼能力までが開花。
 の興味をそそったのか、彼女に吸い取られたらしい。
 その際、界王の力の一部を、体に宿してしまったとの事だが、側に、今の所目だった問題は――あ!!
「もしかして、身長が伸びないのって、父さんの力が体にあるせい!?」
「う…実は、そうなんじゃ。お前は、界王の後継者の器を持ってるせいで、人よりも成長が……」
「じゃあこの先、このままのちびっ子さんなの? 私っ!」
「いやいや、ちゃんと成長するぞ? ただ、人と年の取り方というか……老け方が違うだけでの」
「……ま、まあ、それは今度聞く事にするわ…」

 界王がを育てられないのには、それなりに理由があるらしいが、かといって赤ん坊のの方は、自分が捨てられた 『地球』 に戻る気配は全くなかった。
 困った界王は、一つの考えをつむぎ出す。
 パラレルワールド――こことは違う、平行して存在する『地球』 があるのを、界王は知っていた。
 そして、そこに自分の分身を置いている事も思い出した。
 人間として存在している 『向こう側』 の自分なら、を育てるのに問題はない。
 界王は彼女自身の 『空間移動』 能力を使用させ、パラレルワールドである地球の自分に彼女を届け、そして今までずっと、育ててきた。
 向こうの世界では不要な ”力” を、ずっと封印し続けながら。
 だが予期せぬ事に、向こうの界王、つまり自分が病死してしまったため、力のタガが外れ、彼女はこちら側に戻ってきてしまった。
 どうしようもない喪失感が、元いた世界への帰路を、開いてしまったのだ。
 今回の母親の件でも、そのパターンで帰路を開いてしまった。
 間にあった、悟空を治療しに行く、というのだけは別格だったようだが。

「……でも、どうして? 力を封印とか…今も封印されてるの?」
「今はまだ封印されておる。外れかかっておるが。…おまえはわしの力を直に受けた、娘みたいなもんじゃ。育てていたのは、実際わしだった訳だしの」
 まるでゲームや漫画のような話だが、実際、は治癒の力を持っている。
 空間移動は、言わずとも…。
 向こうの地球で見ていた夢は夢でも、ただの夢ではなかったのだ。
 千里眼で、無意識にこちらを見ていた――。
 自身で耐え切れぬ事があると、空間移動でこちらに飛んでいた。
 空間適応というのも、あながち分からなくもない。
 ここに来た時の重量感は、今はないわけで。
「さて……わしは、おぬしに一つ、結論を出してもらわねばならない」
「何?」
 界王は、の胸元に光る小瓶を見ると、それを外すように言った。
 不思議がりながらも、言われたとおりにする。
 ずっとつけていたので、何となく胸がスカスカした。
「もし、このままこの 『地球』 にいるつもりなら、わしはお前の力の封印を解く。ただし、自力でコントロールする術を身につける、という条件付じゃが」
「コントロールって…赤ん坊の私は出来てたんでしょ?」
「赤子の時は、本能でやっとったんじゃろうな。じゃが、これからは使いたい時にうまく使えるようにならんといかん。物質破壊能力やらがポンと出てみろ。大変な事になるじゃろうが」
 そんなに威力があるのだろうか…。
 自分の手をまじまじ見てしまう。
「お前、今、地球の神のところにおるじゃろう。そこで修行せい」
「何でも知ってるんだねぇ」
「ふふん、界王じゃからな! お前は界王の娘じゃ。なろうと思えば後継者にすらなれる! 胸を張れ」
 ……実際、あんまり父親、という感じがない……というのは、言わないでおく。
「もう一つ。もし、パラレルワールドである方の 『地球』 に戻りたいなら、ここから帰る方法を教えてやる。……ただし、二度とこちらには来れぬようにしてしまうがな」
「えっ、どうして…!!」
 不満の声が上がるのが分かっていたのか、界王は表情を変えぬまま、に新しいお茶を入れてやった。
「昔、強くなれと言ったじゃろ? 逃げ場があるとそっちに行ってしまう。もし、こちらで辛い事があった時、向こうに逃げられるなんていう甘い考えがあると、人間成長せん。向こうに戻るというのなら、行った後、完全に力を封印する」
「………」
 確かに、その通りだった。
 今回こちら側に来たのだって、母親が死んだ事実を否定したくて――悟空に逢いたくて、現実を否定して――。
 だが、思ったのだ。
 こちら側の地球に来た時……還ってきた、と。
 向こうの友人の顔や母の顔がちらつくが、の決心は、とうに決まっていたかのように揺るがない。

「おと…こほん。父さん。私、こっちに残る。この世界で、暮らす。ここが、私の故郷だし――何より…」

(大好きな人が、ここにいるから)

 決意の程を察してか、界王はそれ以上何も言わなかった。
 の目の前で、パチンと指を鳴らすと、それまで安定していた何かが、突然揺れた気がした。
「今、お前の封印を解いた。コントロールするのは大変じゃが、頑張れ」
「うん」
「ここにはちょっとの力で来れるはずじゃ。…まあ、たまには顔見せに来るんじゃぞ」
「うん、わかったよ、父さん」
「…久々の響きじゃな〜」
 笑う界王は、の知っている父の顔とはまるで違ったけれど、雰囲気は何処となく似ていた。
 父親と、そう思えるぐらいに。
「…ところで、こっちの父さんも、ダジャレ好きなの?」
「勿論じゃろう」
「…………そ、そっかぁ」
 直して欲しい癖だったのに…というのは、彼女の心にしまっておく。


 天界の神殿に戻ったは、何だか晴れやかな気分になっていた。
 小瓶に入っていた砂は、界王星でばら撒いてきてしまった。
 あれは、この世界とパラレルワールドとの繋がりが強固らしいので、不都合が起きないために、残念だけれど、捨ててきてしまったのである。
 替わりに、蒼色のネックレスをくれたから、まあいいが。
「…明日から、修行がんばるぞー!」

 自分の、本当の出生を知って、スッキリしたのか、はベッドに転がり込んで、すぐに眠りに落ちた。

 明日からは、組み手も教えてもらおうと思いつつ。



界王の娘という事なんだよ、という話でした。
2003・7・18