少女の基礎修行・後編 慣れとは恐ろしいもので、は亀仙人が出す試練に、何とかついていっていた。 砂浜を延々と歩く修行。 悟空たちと、学術修行。 まきを延々と割る修行。 そして、一時間の片足一本立ち修行。 最も、ただ一つ”一時間の片足一本立ち”には、まだ成功していなかったが。 一ヵ月半も経つ頃、あまりに ”片足立ち” ができないは、切り株の前でうんうん唸っていた。 その様子をカメハウスから見ていた亀仙人は、何気なく彼女の横に立ち、わざとらしくタバコをすっぱーっと吸って、吐いた。 「難しいかのぅ」 「……難しいです」 遠くを見やれば、悟空たちが工事現場でせかせかと働いているのが見えた。 ……アレも修行。 それにしても、激しい修行だ。 自分のやっているのなんて、大したものじゃないと思える。 一度ついていったきりの、牛乳配達の仕事なんて、下手すると死ぬし。 (………余計な事考えてる場合じゃないか) また切り株をみてうんうん唸り出したを見て、亀仙人が誰に言うでもなく呟いた。 「全ての動作は繋がっておる。おぬしがしている事を、よく考えてみるんじゃな」 それだけ言うと、何でもない風に、さっさとハウスに戻ってしまった。 (全ての動作は、繋がってる――) 亀仙人の言葉が、頭をめぐる。 朝、浜を歩くのは、足腰の鍛錬のため。 勉強するのは、頭の修行のため。 まきを割る修行は、全身運動と、集中力の鍛錬のため。 では、片足一本立ちの意味は? 「…バランス力……」 大体、目を閉じて外界から視界を遮断してしまえば、途端に平衡感覚がおかしくなるというのは、小学生であるにだって分かる事だ。 バランスを取るためには、なにをすればいいのか。 しかも片足。 「全ての動作は、繋がってる…」 うーん、と頭をかきむしる。 出て来そうで出て来ない答えが、妙にもどかしい。 足腰鍛錬。 全身鍛錬。 集中。 バランス――平衡感覚。 そこまで考えて、はっとなった。 片足で立つことだけに意識を持ちすぎて、他の――足腰やら全身やらの筋肉に、全く集中していなかった事に。 (これが答えじゃないかもしれないけど、とにかくやってみよう!) 全ては繋がっている。 はまず、切り株の上に両足で立った。 「…よぅし」 トントンと二度ほどジャンプして、それからゆっくり片足で立つ。 集中するのは足ではなく、全身のバランス。 目を閉じると、より鮮明に全身の筋肉がどう曲がっているか、どう移動しようとしているかわかった。 集中箇所は、一点にしぼってはならない。 手の先、足先、頭の位置。 基点となる場所は、腹の下あたり。 常に全身に気を配る。 物凄い集中力を要した。 額に汗が浮き出て、流れ出してくる。 苦悶に顔が歪んできた頃、パンッ、と誰かが手を打ち鳴らし、それで一瞬で集中が解けて、前のめりになって倒れこんだ。 「っだ!!!」 前にいた人物の頭に思い切り頭突きを食らわしてしまい、思わずかがみこんで額をさする。 「ごっ…悟空…??」 「大丈夫かぁ?」 頭突きを食らわされたのは悟空。 だが、食らわした側のの方が痛みに呻いていて、悟空の方はケロッとしている。 ……石頭らしい。 「音鳴らしたの、悟空?」 額をさすりながら、立ち上がって聞く。 彼は 「ああ」 と、にかにか笑った。 「じっちゃんが呼んで来いって。一時間以上たっておるぞ、だってよ」 「え!! ホント!?」 一時間以上経っている――という事は。 「鍛錬クリアーーーーー!!!! やったぁぁぁ!!」 「おわっ!」 目の前にいる悟空に抱きつき、きゃいきゃいと喜ぶ。 悟空は何がなにやらよくわかっていなかったが、彼女が喜んでいるので、自分もとりあえず喜んでおいた。 そのうちは、自分が悟空に抱きついている事に気づいて、ぱっと手を外した。 「ご、ごめん。あまりに嬉しかったから」 「何で、あやまんだ?」 「……何でもない」 抱きつかれた――なんて程度で、感情を揺り動かされるタイプじゃなかったなと思い出し、は苦笑いしながら頭を掻いた。 「何でもいいや。とにかく、カメハウス戻ろうぜ!」 「おーけーおーけー」 悟空に手を引かれ、元気よくカメハウスへと戻っていった。 ……あんなハードな修行をして、どうしてこんなに元気でいられるのだろうか、彼は。 (…やっぱ、強いからかなぁ) その翌日。 悟空たちとの勉強という修行の後、いつものまき割り修行に入ろうとしたを、亀仙人が止めた。 「? 何か??」 「そろそろ、武術の基本だけはおしえておかんとな」 「????」 よくよく分からないが、ともあれに武術修行をつけてくれるらしい亀仙人。 まき割り用の斧を定位置に戻すと、亀仙人の側に寄った。 地面の上で、は亀仙人と対峙する。 「さてと。構えてみよ」 「か、かまえ…??」 構えろ、といわれても。 武術の基本の型も知らない彼女にとって、どんな構えをすればいいのかさっぱりだ。 とりあえず拳を握って、足を踏ん張ってみる。 (…………なんか、かっこ悪い…かも) 亀仙人が苦笑いした。 「……そうじゃなぁ、ああ、もう構えを解いてかまわんぞえ」 「はあ」 構えになっていた、かなっていなかったかはともかく、はその奇妙な格好をやめた。 「よいかの? 武術の基本は流儀は、流派によって数多くある。我が亀仙流は、悟空やクリリンがやっているもの全てに含まれておるのじゃが……ぬしには、ちと厳しいでな」 「うん」 「という事で、大体の武術の基本と思われるものを教える」 「はい」 彼女が頷くと、亀仙人はとりあえず拳を握るように言う。 言われた通りに拳を握る。 「左足を、一歩前へ。右足は動かすんじゃないぞ? さて、そこで少し腰を落とす。 うむ。左の拳は軽く前に――うむ、その位置じゃ。右の拳は胸の前辺り。……右足を拳一個分、右へ」 「………これで、大丈夫――かな?」 「うむ。それを覚えておくがよい。構えを解いてよいぞ」 ふぅ、と型を崩す。 亀仙人が地面に座り込んだので、も座った。 「流派は多くある。じゃが、その流派の構えにこだわる必要などない。おぬしはおぬしなりに、戦いやすい方法で戦えばええ」 戦う場がこの先にあるかどうかは判らないが、『強くなる』 ために覚えていた方がいいような気がして、一言一句逃さぬよう、集中して仙人の話を聞く。 「通常、構えの基本は 『半身』――つまり、さっきの型じゃな。敵に対して真正面を向いていれば――」 「それだけ、体の的が多い、って事ですよね?」 「さよう。じゃから基本は半身じゃ。これからの修行は、今までのものに今さっきやった『型』で、あそこにある木を一日五十回殴る事。よいな」 「五十……はい」 悟空とクリリンは、自分で気づかぬうちに、めきめきと武術の力を鍛えていっていた。 そして、も。 同年代の女子ではありえないほどの集中力と強さ。 それを身につけたと気づきはしなかったけれど――。 刻、刻、迫る。 『強くなりなさい』 その言葉の意味を考え始めたに、時が迫ってきていた。 基本の型、とか言ってるヤツは、昔の私の経験に基づいて、です。 ので、かなり適当入ってます。ヒロインは剄を理解するといいよなぁ。 2003・4・16 |