Catch a cold


 とある星の殲滅作戦中。
 はノドの痛みに、いつもより随分と多く水分を摂っていた。
 一緒に戦闘をしている仲間のうちのひとりが、そんな彼女に眉を潜める。
「おい、お前なんか様子がおかしくないか? 水摂り過ぎだろう」
「別に体に異常はないし、作戦に支障はないわよ。砂埃が酷いからね……ちょっとノドがひりつくだけ」
 その時は自分自身、そう思っていたのだが。


 惑星ベジータに戻ってきたは、あれよあれよという間に症状を悪化させた。
 作戦という肩肘の張る行為を終え、ある種の高揚と緊張から解き放たれたためか、最初はノドがひりつく程度だったそれは、翌日には生唾を飲み込む事さえ困難な状況になり、それでも放置していたらなんと熱まで出始めた。
 咳が殆ど出ないのが唯一の救いだ。
 そんなわけで、は先10日程の日程をすべてキャンセルし、水と栄養剤を側に置いてとにかく眠っていた。
 の部屋は個室であるため、他人にうつす確率がこれ以上なく低いのは幸いだ。
 もっとも、屈強なサイヤ人が風邪なんてものにかかる確率は、普通に考えると物凄く低いのだが。
「……ごほ」
 小さな咳を吐きながら、はプラスチックボトルに口をつけ、温くなったそれをノドに流す。
 腫れたノドでは、水を飲み込む行為が既に一苦労の部類。
 それでも何とか水を流し込み、蓋を閉じてベッドの上に力なく倒すと、布団の中でぐったりとする。
 何か栄養価のある食べ物でも持って、誰か見舞いにこんかいと意味のない毒づきをし、知人友人すべてが作戦任務中だったと細く息を吐いた。
 誰でもいいから暇つぶしに来い、とちらりと思った。
 すると、考えを読んだかのように突然ドアが開く。
 ズカズカと入ってきたその人物を見やり、思わず前言撤回した。
 ……誰でもよくない。

「ちょ、げほっ……あんた何――」
「黙っていろ」
 睨みつけられ、はノドの痛みも手伝って文句を言えなくなる。
 来訪者の名前はターレス。
 彼は自家用大型宇宙船を持ち、フリーザの命令を受けずに彼の仲間とあちこちを放浪して回っているという、サイヤ人の中でもかなり毛色の違う男だった。
 は一時期ターレスと任務をこなしている時期があって顔見知りなのだが、そういう男がいるという噂しか知らない輩も結構多い。
 そのターレスが、勝手に人の部屋に入って来たかと思えば、の腕を引っ張って宇宙船ドックへと向かう。
 収容されていた彼の宇宙船に連れ込まれ、ひとつの部屋へと引っ張り込まれた。
「いい加減に手を……げほっ!」
「口を開かず、静かに俺の先導に従え」
 サイヤ人の中でも非常に高圧的な態度だが、ターレスはこれが普通の態度だ。
 毎度の事なので慣れてしまったが。
 ターレスはを抱きかかえ、部屋に備え付けられているベッドに放り投げるとばさりと布団をかける。
「……ターレス?」
「ここでしっかり療養しろ。俺さまが直々に看病してやる」
 口端を上げてニヤリと笑むターレス。
 は眉を潜めて起き上がろうとするが、突き飛ばされて背中をベッドに寝かせる結果になった。
「あ、んた……いきなり、何で」
 声が出ないながらに必死に会話する
 彼はそれを無視し、ベッドサイドに用意してあったらしい薄い白濁色の液体が入ったボトルを手にし、の脇に座る。
 ボトルの液体を口に含み、ターレスはに口付け――液体を流し込む。
「ん、んぅ!」
 所謂、口移しというやつだ。
 ターレスなのだから何をするか普段なら分かろうというものだが、熱とノドの痛みに意識が持っていかれている今は、気付いたとしても反応が遅いし、第一力でも敵わない。
 口移しで流れ込んでくる白濁色の液体は、ノドを通って熱を奪っていく。
 不思議と痛みが引いてきた気がした。
 半ば無理矢理飲まされている中、ターレスは口唇を離し、もう一度液体を含んでに口移しをする。
 普通ならばぶん殴ってやる、とでも思うのだろうが、これが彼なりの優しさだと理解が及ぶと、殴るというのは行き過ぎな気も。
 ノドの熱がある程度引いてきたところで、ターレスが離れる。
 ボトルをベッドサイドに置き、不敵な笑みを零す。
「もっと飲むか。一気に飲んだ所で効用はないようだが」
「も、う……いい……」
 あれ以上のキスをされていると、別の熱が上がってきそうで。
 断るにターレスはつまらないと鼻を鳴らす。
「さっさと治せ。勢いのないキサマはつまらないからな」
「……ターレス、どうして、来たの?」
 宇宙船エネルギー補給などに立ち寄った、というのでなければ、ターレスは滅多に惑星ベジータに戻ってきやしない。
 今回計るようにして戻ってきたのは、一体どういう了見かと問うに、ターレスは不満気な瞳を向けてきた。
「キサマの知人とやらが、俺に通信をよこしたんだ」
「……よ、余計な……事を」
「何かあったらすぐに連絡するように言っておいたからな……俺が近くにいてよかったと思え」
 余りよくないと思ったのだが、先ほどの液体を飲んだ事でノドの痛みがだいぶ軽くなっている。
 はノドを擦りながら、ターレスに聞いた。
「あの、液体……なん、なの?」
「この間制圧した星にあった特効薬だ。何だかよく分からんものをすりつぶした奴らしいが、効いただろう」
 そんなよく分からないものを口にさせたのか、と睨みつけるが、ターレスから返ってくるのは、いつもと変わらない意地悪げな笑みだけだ。
 そりゃあ、確かに効いたし文句はないのだけれど。
「口移し……する必要は……ないじゃないさ」
「文句を言うな。久しぶりにキサマの口唇を堪能したかったんだからな」
 非常に艶かしい笑みを浮かべられ、は小さく息を吐いて布団を被る。
 心臓に悪いわ、この男は。
 ターレスはの体のラインを布団の上から撫ぜ、耳元で囁く。
「風邪などという馬鹿げたものは、さっさと治すがいい。そうしたらタップリと愛してやる」
「変態……どいてなさいよ」
「文句を言う元気があるうちは大丈夫だな」
 あやすように髪を撫で、ターレスは笑む。
「俺が看病をするのはお前だけだ……


 それから2日して、は完全に回復した。
 回復後、すぐさま燃え盛ったターレスに襲われてしまい、気づいた時には宇宙船が惑星ベジータを出発しているという事態になり、大喧嘩になったりしたのは、また別の話。


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65万ヒット御礼、松風さまからのリクで、ターレス夢、ヒロインはサイヤ人で、
風邪を引いているヒロインを看病するターレス。でした。
ある種王道といった感じのネタなので、内容が凄い分かりやすいというか…すみません。
実力不足でこんな仕上がりになってしまいました。もっと精進します!
キリリクありがとうございました〜。
2005・10・18