※閲覧注意。裏っぽい表現あります。







 何も辛いことなんかない。
 ただ、腹立たしいだけだ。


無言の抵抗


 バーダックとシルパが行為をしたらしいその日から、1ヵ月近くが経とうとしている。
 はその間、ごくごく普通に生活していた。
 シルパとも何事もなかったかのように友人を続けている。
 リィフは事情を深く飲み込んでいるのか、バーダックに関することをほとんど口にしなくなった。
 セリパとは今でもよく部屋で飲んでいる。
 仕事をし、酒を飲み、休む。
 そんないつものの生活の中で、変わったことが1つだけあった。
 否、自らがそうして変えたのだが。



 トレーニングルームからの帰り、リィフと一緒に歩いていると向かい側に見知った人物が現れた。
 セリパと……バーダックだ。
 の姿を見つけたセリパとバーダックが近づいてきた。
 セリパが笑う。
、昨日はごちそうさん」
「うん、こちらこそ。また飲もうよ」
 オーケーと笑う彼女に、も笑った。
 視線は彼女に完全に固定。
 その様子に、隣にいたバーダックが声をかけた。
「おい
 視線を上げるどころか下に向け、小さく息を吐く。
 返事すらしない彼女に苛ついた表情を向け、バーダックは顔を上げさせようと手を伸ばす。
 しかしはすっと腰を引き、それを避けた。
「それじゃ、またねー」
 バーダックを完全に無視したまま、はセリパにだけ挨拶をしてさっさと先へ進んだ。
 慌ててその後をリィフが追う。


 残されたバーダックとセリパは、彼女の後姿を見てため息をついた。
 正確には、ため息をついたのはセリパだけなのだが。
 隣で非常にムスッとしているバーダックに声をかける。
「なあ。ずっとあの調子なのかい?」
「……」
 無言の肯定。
 セリパは呆れて首を横に振った。
 最初は結構流されやすいように見えたが、こうまで頑固だとは思っていなかった。
 まあバーダックがやらかしたことを考えれば、無理もないかも知れない……とも思う。
「じゃあ、ずぅぅっと無視されてんだ」
「うっ、うるせえよ! 何なんだアイツ!! 俺をまるで透明人間みたいに扱いやがって」
「やばい菌みたいでもあるよね」
 すっぱり酷いことを言うセリパに、バーダックがきつい視線を向ける。
 しかしそんなもので怯むようなセリパではない。
「大体ね、アンタ自分がやらかしたこと考えてないだろう」
「何だよセリパ。何か知ってんのか」
「ていうか、そんなことも思い当たらないアンタの頭は相当だよ」
 ため息混じりに言うセリパ。
バーダックは更に眉を寄せる。
本気で悩んでいる彼に、セリパはどうしたものかと考え――結局教えることにした。
別に他人の恋路をどうこうしようとは思わないが、このままではも救われまい。
「アンタさ、シルパって女を抱いたんだろ?」
「ん? ああ、そんなこともあったな」
 たかだか1ヵ月前の事。
 忘れられるほどに簡単なことなのだ、彼にとっては。
 しかしにとっては違う。
 どうでもいいことじゃない。
「あのな、を好きだと言いながら他の女に手を出すか?」
「別に大したことじゃねえだろうが」
「アタイみたいなのは気にしないけどな。は違うってことだよ。残念だなバーダック。アンタもう完全に脈ない」
 容赦ない言葉を叩きつける。
 バーダックは本気で悩んだ。
 別の女を抱くことが、そんなに問題なのだろうか。
「なあセリパ。俺がシルパを抱いたから、は俺を無視すんのかよ」
「まあ、そうだろうね。ていうか、あの子の気持ち分かってないだろ」
 じとんと睨みつけるセリパ。
「分かるかよ」
 あっさり言うバーダックにセリパは深く深くため息をつく。
 女心が分かるような男ではないと知っていたが、よもやこれほどまでとは。
 モテる上、経験が多いくせに、そういうところは成長していないらしい。
 それとも、今まで相手にしてきた女は全て身体だけの繋がりだったのだろうか。
 仲間とはいえ、考えると情けない。
 やはりバーダックはサイヤ人の中でも、特に戦闘狂だと実感する。
他はどうでもいい――ような面が多い。
「じゃあさ、がアンタに好きだって言い寄ってたとするよ。そのがアンタじゃなくて別の男に抱かれたりしたらどう?」
「どうって……」
「俺のことが好きなんじゃなかったのかって思わないかい?」
「思うだろ」
 腕組をして眉根を寄せて言うバーダック。
「だから、アンタは今に同じことしてんだよ」
「……結局、は俺のことが好きなのか。だから他の女を抱いたことに怒ってる」
「……間違っちゃいないだろうけど、ちょっと飛びすぎだろ」
 自分の額に手を当てて呆れるセリパ。
 バーダックはそんなことお構いなしで、が立ち去った方向を見ていた。



 酒場からの帰り。
 バーダックは目的の人物を見つけて声をかけた。
 彼女は自分の部屋へ戻るのか、1人で通路を歩いている。
!」
 当然のように答えがない。
 それどころか、声が聞こえているだろうに振り向きもしない。
 バーダックは少々苛つきながら彼女の腕を掴んで止めた。
「っ……」

 久しぶりにと目線が交差した。
 バーダックの背中に言い知れぬ感覚が走る。
 湧き上がる感情を押さえつけ、彼女に話しかけた。
「どうして俺を無視する」
「……」
 答えはない。目線すら反らされた。
 逃げようとしているようだが、バーダックの力には敵わない。
「おい、返事ぐらいしたらどうだ」
 やはり返事はない。
 苛立ちが全身を駆け抜けていく。

 どうすれば、彼女を自分のものにできる?
 どうすれば、彼女はまた以前のように話をしてくれる?
 シルパを抱く以前は、少しではあったけど、柔らかく微笑んでくれることだってあったのに。
 たかだか女を抱いただけで全否定されるなんて。

 バーダックは会話どころか目線すら合わせようとしない彼女を見て、頭に血が上った。
 を腕に抱えると、声を出さずに手足をばたつかせて拒否を示している
 彼女を完全に無視して自室へと向かった。

 部屋へつくと彼女を抱えたままで部屋の扉をロックする。
 ベッドにを放り投げてその上に素早く馬乗りになった。
 手を拘束して動けなくする。
「……な……に……バーダックっ!! 何――」
「やっと俺に口をきいたな」
 ニヤリと笑う。
 は身震いしてフイ、と横を向いた。
「悪いが、いつかの仕事の時のように止めるつもりはない」






 行為の最中、は泣きもしなければ文句も言わなかった。
 バーダックを抱きしめるようなこともしない。
 反応し、声をあげるものの、バーダックとの間には冷たい障壁が横たわっていた。
 互いを求める行為のはずが、一方的になっている気すらする。
 それでも怒りに飲まれているバーダックは行為を止めなかった。
 手ひどく扱って己の痕を残し、自身を叩きつける。
 はずっと瞳を閉じて、それでも快楽を身体に横たえさせていた。



 バーダックが己の全ての欲望を散々叩きつけ――少し頭が冷えてきた頃、ふと、の瞳が開かれたのを見た。
 濡れた瞳は快楽のせいではなく――涙のせい。
「…………?」
 声はなく、ただ横を向いて静かに透明な雫を零す彼女に、バーダックは頭のてっぺんから冷水をぶっかけられた気になった。
 が泣いている。
 怒り狂って文句をいうと思っていた彼女が、文句どころか静かに、声も立てずに泣いている。
 しかし暫くするとさすがに声を押し殺せなくなったか、震える小さな声が聞こえてきた。
「っ…く……ふ……」
「な、泣くなよ」
 我ながらバカみたいなセリフだと思う。
 泣くほどに嫌だったのだろうか。
 自分はそこまで――嫌われたのだろうか。
 襲った女に対して嫌われたかどうかなど心配するのが、既におかしいのだが。
 普通の感覚でいうならば、嫌われて当然なのだから。
 バーダックはを抱き起こし、零れ落ちる涙を指でぬぐってやる。
 しかし次々に零れてくる雫はとどまらない。
 どうすればいいのかと困り果てるバーダック。
 今まで、抱いて泣き出した女はいなかったから。
 暫し考え――心のままに言う。

「……悪かった……」

 の目が、バーダックを見る。
 彼女は少し驚いているようだ。
「悪かったよ。無理矢理しちまって。……お前が口きいてくれないから、頭にきて……その。それにシルパのことも……悪かった。お前がそんなに気にするなんて思ってなくて」
 ええと、と色々考えながら言う様は、いつもとは違ってどこか子供っぽい。
「俺、今までお前みたいに考える女を相手にしたことなくて……何ていうか……」
 上手く言葉が出てこない。
 伝えたい言葉は咽喉に引っかかって上手く出てこないし。
 バーダックは頭を掻くと、そっとを抱きしめた。
「バーダック……?」
 嫌がっても無駄だと思ってか、抵抗しないをゆっくり抱きしめ――耳元で囁く。
 多分、今まで誰にもしたことがない行為。
 誰にも言ったことがない言葉。

「……俺は、お前が好きだ……」



正直、アップ日(10/10)よりすんごい昔に書いたものなので、激しく違和感アリですが、あえて直しません。
…今のところは。

2008・10・10