最悪の仕事 2




 惑星ザッパ。
 特に脅威となる敵もほとんどいない小さな星。
 下級戦士とバーダックの二人は、あっという間――半月たらず――で星を制圧した。
 そのまま即帰還したいと通信で懇願しただったが、
 何の都合か知らないが、一日だけ滞在することになってしまった。
 要するに、は嫌い……いや、苦手な男と二人きりで、一夜を明かさなくてはならない。
 バーダックは颯爽とその辺りにぶっ散らかっている木片を適当に積み、出力を絞ったエネルギー波でそれに火をつける。
 他に全く生物のいなくなった(少なくとも人と呼べる者はいない)星に、小さな灯りが点る。
 彼はどっかと地面に座り込み、持参してきた酒を飲みだす。
 はバーダックの向かいに座り、でも完全にそっぽを向いてやはり酒を飲んでいた。
 とはいえ、バーダックの酒とは比べものにならないくらい低い度数だが。

 人気のない星に、無言でいる二人。
 暇を持て余したのか、バーダックのがに声をかける。
「おい」
「いやだ」
 彼が先を言う前に、スッパリ切り捨てる。
 バーダックは実に不満そうに
「まだ何も言ってねえ」
 眉根をよせた。
「どうせ ”暇だから戦え” とかでしょう。あたしはゴメンよ」
 それを聞いて、彼は舌打ちした。
「何でだ」
「それはこっちのセリフ。あんたね、自分の戦闘力とあたしの戦闘力比べて、それでも戦おうっての? 楽しくもなんともないわ」
「俺は楽しいんだよ」
「こっちは楽しかない」
 かなり嫌な顔を作って言う
 バーダックはつまらなさそうに、携帯食料をパキリと折って自身の口に放り込んだ。
 暫く考える素振りを見せ――酒をぐいっと煽ると口の端を上げた。
 嫌な予感。
 は眉根を寄せて、何かを思いついたらしいバーダックを見た。
「な、なにさ」
「どうしても戦わないっていうなら、実力行使って手もあるな」
 両肩を回し、すっと立ち上がる。
 思わず――同じように立ち上がる
 彼の体から覇気が出ている。
 ……これは本当に実力行使するつもりらしい。
 拳を握ると、じっとりとした汗がすぐに浮かび上がってきた。
「……さぁて。お前が嫌だって言っても、俺が戦い出したら、お前も戦わざるを得ないよな」
「……分かったよ。アンタの暇つぶしの相手してやる。だから、私の要求を呑んでもらう」
「何だ」
 は一瞬で考えを巡らし――駄目もとで言ってみることにした。
 駄目なら仕方がない。
 気合で戦うことにしよう。
「そうだね。戦うのはヤメにして……追いかけっこで手を打ってよ」
「はぁ!?」
「スカウター使わないで、あたしのことを捕まえられたら、要求を1つ呑む」
 暫く考え込んでいたバーダックだったが、が意見を曲げないだろうと判断したのか、
 彼にしては珍しく素直に了解した。
 駄目だろうと思っていたの方が、その返答に驚いたほどだ。
「いいだろう。捕まえたら必ず1つ要求を呑め、いいな」
「アンタだってあたしの要求呑むのよ、いいわね」
 2人はスカウターを外して宇宙船(ポッド)の中に放り込む。
「時間制限は3時間。それまでに捕まえられなかったらあたしの勝ち」
「よし」
「じゃあ、10秒数えたら追いかけていい」
「たった10秒でいいのか」
 少々ニヤついた笑いを浮かべているバーダックを見て、はそっぽを向く。
 バカにされているようで気分が悪い。
「ふん。馬鹿にしないでよ。力はアンタに敵わなくてもスピードはそうでもない」
「せいぜい遠くに逃げるんだな」

 スタートの合図と共にが飛ぶ。
 あっという間にバーダックの視界から外れた。

 1……2…………

 7……

 9……10。

「よし」
 気合を入れると、がいなくなった方向へ向かってバーダックは飛んだ。


 は一つの場所に留まることなく、あちこちを疾走していた。
 バーダックからかなり距離を取ったところで飛ぶことはやめている。
 下手に飛んで見つかるよりも、地面を走った方が見つかりにくいだろうと計算してのことだ。
 スカウターがないからそう簡単に見つかるとも思えない。
 相手がどこにいるか分からないのはも一緒だが、それはバーダックも一緒だから五分だと言っていいはず。
 見つからないようにするためには、岩陰などに身を潜ませつつ走るのがよいのだが、生憎とこの星は山々のような起伏は余り存在していない。
 したがって、休憩せずにあちこち吹っ飛んでいる方が安全と言える。
 飛行するより地面を走っているほうが楽だし。
「……ふう」
 散々動きまくって後、バーダックがいないのを確認して少し休憩する。
 まだ1時間。
 後2時間残っている。
 この惑星ザッパは小さな星だが、それでも1人を探すのには、それなりに時間がいるだろう。
 大体、3時間で捕まえようとするのがかなり無茶なのだ。
「あっさり諦めてくれるとありがたいんだけどね」
 1人ごちる。
 そうしないだろうということは、何となく分かっているのだけれど。
 汗が少し引っ込んできた辺りで再び走り出そうと伸びをし――上を見た。

 目が、合った。


「見つけたぞ!!」
「ぎゃーーーー!!」
 総毛立つとはこのことか。
 飛行していたバーダックに気づかなかった己の愚かさを呪いつつ、は走り出す。
 バーダックも地に下りてを追走し始めた。
「な、な、何で見つかるか!!」
「お前のことなんてお見通しだ!」
 自信満々の腹の立つ笑みを顔にしながらずんずんと近づいてくる彼。
 は意識を集中して戦闘力を高め――足に重点を置いた。
 ぐんっ、と脚力が上がる。
「ほう」
 一気にスピードが乗ったの動きに感嘆の言葉を吐き、バーダックもぐっと力を入れた。


 ………延々と走り続けて1時間半。
 後30分もすればジャスト3時間という頃になって、はバーダックに追い詰められた。
 ちょっと気を抜いた瞬間に一気に間合いを詰められた。
 は唇を噛む。
 ――己の油断が招いた結果だ。
 はバーダックを睨み、彼の方は彼女を自信たっぷりのいつもの笑顔で見つめている。
「さあ、降参したらどうだ」
「ふん。捕まるまで勝負は続行中」
「なら、行くぞ!」
 ぱしゅんという音と共にバーダックの姿がの傍に来る――が、は伸びてきた彼の手からするりと逃げた。
 触れられてはいない。
 そのまま逆に走って行こうとし――いきなりエネルギー弾が後ろから飛んできて、思わずそれを弾いた。
「しまっ――」
 気づいた時には遅かった。
 はエネルギー弾を弾いたその手を、バーダックに捕まれていた。

「……エネルギー弾をいきなり撃ってくるのはどうなのさ」
 宇宙船の前に戻ったとバーダックは、最初と同じように酒を飲んでいた。
 ぶすむくれている彼女に、彼は何食わぬ顔で言う。
「別に弾を使うなという約束なんかしてないだろうが。お前が勝手にそう思っていただけだ」
「……ムカツク」
「さて。俺の要求を1つ呑んでもらおうか」
「なにさ」
 ふん、と横を向く。
 ――と、いきなりバーダックがに馬乗りになった。
 要するに彼は彼女を押し倒しているのだ。
「……何」
「この状況で何をするかなんて決まってるじゃねえか」
 はバーダックを睨みつけ――ふ、と視線を横に逸らした。
 抵抗の表れか目をつむる。
「好きにしたら」
 つっけんどんな言葉。
 バーダックは遠慮なく彼女の戦闘服を脱がせようとして――その動きを止めた。
 はそっぽを向いている。
 それはいい。
 だが――これは。
「おい、何をそんなに緊張してる。こんなの大したことじゃねえだろうが」
「うるさい」
 声は普段とまるで変わらないのに、彼女は目を伏せ小さく肩を震わせていた。
 多分、注意深く見なければ見過ごしてしまい程度の震え。
 眉を潜め、バーダックの手を恐れている。
 暫く考え――バーダックはの上からどいた。
 いきなりなくなった重量に彼女が目を開くと、彼は最初の場所に戻って酒を飲んでいた。
「……何よ、するんじゃないの」
「ヤメだ」
「魅力がない女ってワケ?」
 ある意味では挑発するような言葉を吐く彼女に、彼はニヤリと笑った。
「要求を呑むって約束は約束だからな、そのうちキッチリ果たしてもらうが……今お前を抱く気は失せた」
 怪訝そうに見つめる
 バーダックは酒を煽って、笑う。
「そのうちに、な」





え、似非ーーーー!!(滝汗)すんませんすんません…。
こ、こんな感じで進んでいくと思われ…ガンバ自分。

2004・7・14